【吉田千亜】復興のかげで進む2つの〝国策〟

【吉田千亜】復興のかげで進む2つの〝国策〟

原発事故から15年が経つ今年2月、第2次高市内閣が発足した。解散の際に高市氏は「国論を二分する大胆な政策」を有権者の審判を仰ぐ大義とした。その具体的な政策は自民党・日本維新の会連立政権合意書にあるとして「9つの政策」が報じられたが、その中に、「原発」の文字はなかった(朝日新聞/2026年1月24日)。事故後の2011年には国論を二分どころか約8割が反対していた原発、その事故を起こした東京電力の柏崎刈羽原発がトラブルを繰り返しながら再稼働している今、争点にすらなっていない。

フリーライター 【吉田千亜】

よしだ・ちあ 1977年生まれ。福島第一原発事故後、被害者・避難者の取材を続ける。著書に『ルポ 母子避難』(岩波新書)『その後の福島──原発事故後を生きる人々』(人文書院)、共著『原発避難白書』(人文書院)など。講談社本田靖春ノンフィクション賞(第42回)、日隅一雄・情報流通促進賞2020大賞、日本ジャーナリスト会議賞(第63回)受賞。

「被災地」と言ったときに、「どこの」と考えるほどに日本には災害が多い。2011年の原発事故は終わっていないが、2024年の能登半島地震も終わっていない。先日直接足を運んできたが、地震から3年目の奥能登は今も崩れたままの家、土台がずれたビル、歪んだ道路が至る所に残されていた。

「工事の入札が低調らしい」という話を珠洲市在住の北野進さんから聞いた。国の事業には建設業者の手が上がるが、県や市町が委託する工事は奥能登に輸送してまで工事をしても儲からないからなのか、地元の業者は手一杯なのか、思うほど進まない。珠洲市では解体が進みつつあるが、「価格の高騰で家が建てられなくて、『解体しなければよかった』という声を聞く」、「坪単価が150万円もする」と北野さんは嘆く。今なお、8672世帯、1万7374人(2026年2月1日現在)の人々が応急仮設住宅に入居しているが、数年後には再び、生活再建がままならない人々に対し、行政が追い出しをかけるのだろう。福島で行われているように。

地震大国の日本に、なぜこんなに原発を造ったのか、という誰もが抱く疑問に対し、「地震がどこでどんな仕組みで起きるのか、解明されていない時代に原発立地を決めてしまったからだ」と科学ジャーナリストの添田孝史さんが検証している。科学の進捗によってリスクが明らかになってもなお、やめない。当時、原発誘致反対の急先鋒も担っていた北野さんが案内してくれた珠洲原発の炉心予定地は、「地震の前には見たこともなかった」という海底が姿を表したままだった。もし造られていたら、この国は二度目の原発事故を抱え、壊滅的な状態となっただろう。再稼働が進むいま、それも遠くないのかもしれない。

先端技術軍事利用の懸念

浪江町のエフレイ整備予定地(今年2月撮影)
浪江町のエフレイ整備予定地(今年2月撮影)

「復興」がままならないにも関わらず、その「復興」すら軍拡に利用する国になってしまった。

本誌昨年9月号で福島県内の防衛装備品製造工場について報じられたが、とうとうこの国は装備品という形で戦争にも加担しようとしている。国産の武器輸出について「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の非戦闘目的に限られていた5類型のルールを撤廃し、防衛装備品・技術移転協定を結んでいる国に対し、殺傷能力が高い武器も視野に輸出を可能にする方向で政府・自民党が調整に入ったと報じられた(2月19日)。

「核抑止」が謳われて久しいが、世界では核に限らず「軍事的優位性」を競う先端的技術の軍事利用が進んでいる。例えばAI搭載型無人航空機、極超音速兵器、3Dプリンタを用いた部品生産、レーザー兵器、あるいは2050年にアメリカが実現を掲げるサイボーグ兵士など、SFの世界が現実のものとなりつつある。

2022年に成立した経済安全保障推進法は、①サプライチェーンの強靱化、②重要インフラの安全性確保、③先端技術開発、④特許非公開の4つの柱を通じて、経済活動を軍事的優位性の基盤へと統合する法案だ。この大きな流れの一部に、産業復興を謳う「福島イノベーション・コースト構想」、「福島国際研究教育機構(F-REI=エフレイ)」があった。

エフレイは、「わが国の科学技術力・産業競争力の強化を牽引し、経済成長と国民生活の向上に貢献する『創造的復興の中核拠点』を目指す」ものとして設立された。2023年から7年間で施設費を除く1000億円規模の予算を確保し、国内外の研究者の受け入れ、世界水準の研究・生活環境の整備、教育機関との連携による次世代人材の育成にも積極的に取り組むとしている。

5つの重点分野──①ロボット、②農林水産業、③エネルギー、④放射線科学・創薬医療・放射線の産業利用、⑤原子力災害に関するデータや知見の集積・発信において「国策」として展開すると、自民党の「重点政策」にも書かれた。

昨年8月には、エフレイの研究開発費などの予算を、これまでの東日本大震災復興特別会計から一般会計へ段階的に移行する方針が決まった。これは、この機関が震災復興のための特別なものではなく、国策として長期的・安定的に運営する基幹研究機関へ転換することを意味する。

被災地復興の象徴であり、国策として進められるエフレイでの研究開発が、同じく国策として進められている防衛力強化や武器輸出の方針とより深く結びつくことがないか、監視していく必要がある。

* * *

私は「15年を迎える原発事故」について原稿を依頼されたのだ。私の知る原発事故の被害者は、みな、今も深い「痛み」を抱えている。表立って言わずとも、一見、朗らかに見えようとも、その痛みは「15年」という勝手な節目とは関係なく襲う。国家と東京電力に、突然根こそぎ暮らしと未来を奪われた被害者にとって、自らの人生に起きた災禍に時間の区切りで納得などできるはずがない。本当はそういうことを伝えたい。しかし、それを超える怒りと焦燥感がある。

2014年1月、赤羽一嘉経済産業副大臣(当時)は、福島イノベーション・コースト構想のモデルとして米国・ハンフォード・サイトを視察した。

原爆開発の地としてハンフォード・サイトがなぜ選定されたのか。選定にあたったフランクリン・マサイアス陸軍中佐にとって、土地に漂うある種の「敗北感」なるものが魅力的だったのだろう、と歴史家のケイト・ブラウンは指摘する。農業や牧畜がうまくいかない土地では買収が簡単だろう、という目論見でもあったということだ。

先住民族の歴史・文化・暮らしを奪ったハンフォード・サイトを「モデル」に据えたこの国の「復興」の在り方は、石山徳子・明治大教授(人文地理学)が指摘する通り、「犠牲区域」となったハンフォード・サイトの引き写しだったのではないか。

東京電力福島原発事故という大惨事を上塗りするこの国の現在地および行く末と、今なお癒えない傷を抱えた被害者を案じてやまない。そして、「なぜ地震大国に原発を造ったのか」という問いが「なぜ戦争に加担したのか」という問いにならないことを祈るばかりだ。

参考資料
「地震大国日本の今」添田孝史(https://jbpress.ismedia.jp/search/author/添田%20孝史
『「犠牲区域」のアメリカ核開発と先住民族』石山徳子、岩波書店(https://www.iwanami.co.jp/book/b527927.html

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