4月29日、菓子製造・販売の柏屋(郡山市)が、同業の向山製作所(大玉村)のフード事業部を子会社化することが明らかにされた。向山製作所は電子部品メーカーでありながら、菓子業界に参入したことで話題を集めたが、近年は不採算店舗の閉店が相次いでおり、順調とは言い難かったようだ。
福島市・郡山市の店舗を相次いで閉店

4月、福島市八木田の向山製作所福島西店(写真)が閉店することが、公式インスタグラムで発表された。同店は2022年2月にオープン。お菓子やパンなどを扱い、近隣の書店などと併せて利用する人も多かったため、大きな反響を集めた。
向山製作所は1996年設立。資本金2000万円。従業員約50人。もともと電気部品製造の会社だったが、2009年から生キャラメルの製造・販売に乗り出したのを機に、菓子製造販売業が主業となり、プリン、生バターサンドなど新商品を次々と開発。安易な価格競争から距離を置く路線で独自のスイーツブランドを築いてきた。
2021年8月に創業者の織田金也氏が社長を退き、1カ月後に死去。織田氏の娘が一時的に経営を引き継ぎ、2022年からは織田氏の姉である織田裕子氏が代表取締役社長を務める。実力派のパティシエを複数抱え、新製品を開発・発売するなど、菓子業界では一目置かれる存在だった。
ただ、昨年から今年にかけて、うすい店(郡山市、2025年3月末閉店)、エスパル福島店(福島市、2025年8月17日閉店)、ザ・モール郡山店(郡山市、2025年8月31日閉店)と閉店が相次いだ。ついにはオープン4年の福島西店まで閉店し、その動向が注目されている中、「薄皮饅頭」などで知られる老舗菓子製造・販売柏屋の傘下に入ることが明かされた。
柏屋は1852年創業、1952年法人設立。資本金3000万円。従業員205人。民間信用調査機関によると、2025年6月期の売上高37億0200万円、当期純利益1億4760万円。県内では最大手の菓子製造・販売会社だ。
4月29日付の福島民報によると、柏屋が子会社化するのは向山製作所の中のフード事業部のみで、「向山製作所」という新会社を設立して吸収分割し、柏屋の本名創社長が代表取締役に就任する。残る電子事業部の方は「向山電子」が承継し、従業員の雇用は継続される。
柏屋はどういう理由で向山製作所を子会社化したのか。柏屋の本名社長に企業インタビュー取材の際にこの件についてあらためて尋ねたところ、次のように答えた。

――同業他社を傘下に入れたことはこれまであったのか。
「柏屋として飲食店や酒店を経営していたことはありましたが、私が知る限り、他社を傘下に入れたことはありませんでしたし、正直想像もしていませんでした」
――どのような経緯で向山製作所のフード部門を子会社化することになったのか。
「『洋菓子系の菓子店なんですが(M&Aに)ご興味ございませんか』とご紹介いただく機会がありました。当社の店舗でも洋菓子を取り扱っていますが、やはり『柏屋は和菓子屋さん』というイメージが強いし、顧客層は比較的年配の方が多い。その菓子店が向山製作所だと分かってから、比較的年齢層が若く、子会社化することで世代をつなぐことができるのではないか、と考えました。人口減少でマーケットが縮小していく中で、限られた年齢層の中でボリュームを増やしていくのも限界があるので、年齢層自体の幅を広げていかないと以前から考えていました。そうしたことから(向山製作所とのM&Aに)興味を持ち、似通っている部分やそれぞれやっていないこともあると思ったので、お互いの持っているノウハウを合わせれば、シナジー効果が生み出せるのではないかと考えました」
――紹介されたというのは、銀行など金融機関のイメージか。
「まあそういう感じですね」
――老舗の柏屋と、スイーツの向山製作所が一緒になることによる化学反応が期待される。
「皆さんからは『新商品はいつ発売になるの』と聞かれますが、何をどう進めていくのかはまだ何も決まっていません。まずは知ることから始めたいと思います。完全に別ブランド・別店舗として展開していくのか、商品を相互に販売することはあるのかなども含めて、これから決めていきたいと思います」
厳しい経営環境
本名社長は、向山製作所がパリで開催された世界的なチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」で高評価を得るなど、高い技術力を持っていることにも注目しており、「大手に納めていた電気部品製造の会社ということで、品質管理が厳しい。そうした面がお菓子作りにも生かされていると聞いている」と話した。柏屋としてはそうした品質管理能力や製造技術にも期待して、フード部門の子会社化に踏み切ったのだろう。
一方の向山製作所はなぜ他社とのM&Aを考えたのか。同社に問い合わせたが「相手がある話ですし、取材はすべてお断りしています」との回答だった。
民間信用調査機関によると、向山製作所の売上高推移は以下の通りだ(決算期は9月)。
2020年 4億3000万円
2021年 5億4000万円
2022年 5億6000万円
2023年 5億8000万円
2024年 6億0600万円
2025年 5億5000万円
当期純利益は公表されていないが、売上高から予想される利益額、長期借入金の返済、設備投資、食材価格高騰なども考慮すると、厳しい経営環境に置かれていたとみられる。そうした中で、金融機関などを介したM&Aに活路を見いだした可能性がある。
福島市内の経済人は「新店舗の福島西店一つ取っても過剰投資だったと感じる」と述べる。
「住宅街の中の商業施設の一角に立地しているので、それほど人通りが多いわけではない。近くのスターバックスコーヒーは人気だが、そちらでもスイーツを扱っているので、回遊客を取り込むことも期待できない。看板商品の生キャラメルやプリン、生バターサンドも手土産に持っていくのはいいが、『たまに自宅に買っていって食べようかな』という気にはならないですよ」
売上高が頭打ちとなった背景には、贈答需要中心のラインアップで、日常的な消費につながりにくいという事情があったのかもしれない。スイーツブランドを生み出すための高単価路線の限界とも言えそうだ。創業者が亡くなったことによる様々な問題、さらには企業を牽引していくパワーが失われた面も大きかったと考えられる。
柏屋傘下入りによって、こうした店舗戦略や商品展開などの課題をどう改善していくのか。老舗和菓子店と新興スイーツブランドの融合がどのような化学反応を生むのか。今後、菓子業界内で同様の再編が広がるのかどうかも含め、今後の動向が注目される。

























