大型連休最終日に若者たちが犠牲になった。5月6日午前7時40分ごろ、磐越道上り線を走行中の私立北越高校(新潟市)男子ソフトテニス部員20人を乗せたマイクロバスが、郡山市熱海町でガードレールに衝突し、生徒1人が死亡、17人が重軽傷を負った。運転手の男は自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の疑いで逮捕され、鑑定留置が続く。重罪の危険運転致死傷罪が適用されるかどうかが一つ目の焦点。二つ目は、バス運行会社や学校が無許可の有償輸送(白バス行為)で道路運送法違反に問われるかどうかだ。事故現場は高速道路上のため歩行者が立ち寄れず献花台はない。近くの県道にひっそりと花が手向けられ、被害者・遺族の無念さを引き立てる。
花すら手向けられぬ無念

ひしゃげた車体が惨状を物語っていた。事故では、マイクロバスにガードレールが突き刺さり、投げ出される形で部員の稲垣尋斗さん(17)が死亡した。部員5人が骨を折るなどの重傷、12人が軽傷を負った。運転手と後続車に乗っていた2人は軽傷だった。若者たちが犠牲になったにもかかわらず、5月中旬時点で現場の磐越道上に花が手向けられることはない。停車して立ち寄れないからだ。下道に降り、事故現場真下で交差する県道を探索すると、白と黄の花束が一つ。新しい。明らかに真上の惨劇を悼む花だ。


1人の男の無謀な運転が若者たちを地獄に引きずり込んだ。運転手は無職若山哲夫氏(68)=新潟県胎内市=。北越高校と以前からたびたび運行契約を結んでいた蒲原鉄道(新潟県五泉市)を通じて運転を依頼された。男子ソフトテニス部員20人を乗せたマイクロバスは、富岡町で行われる練習試合に参加するため、5月6日午前5時半ごろ同校を出発し、同7時40分ごろ、磐越道上り線の磐梯熱海インターまであと2㌔の地点に差し掛かった。制限速度は時速80㌔。バスは、インター手前でガードレールに衝突。現場は緩やかなカーブで目立ったブレーキ痕はなかった。バスはカーブで道路脇のクッションドラム(緩衝設備)にぶつかり、ガードレールが突き刺さった後も止まらず、20~30㍍走行を続けた。
焦点となる「危険運転致死傷罪」適用
福島県警は若山氏を自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の疑いで逮捕した。若山氏は「90~100㌔出していた」「曲がり切れなかった」などと供述しているという。
事故が起こった区間は、本誌記者もよく利用する。主に福島市と会津若松市を結ぶ土湯峠が凍結・積雪する冬季だ。制限速度の時速80㌔を守って左車線を進んでいると、通いなれているであろう普通乗用車や大型トラックに次々と追い越される。要するに制限速度プラス時速20~40㌔くらいは超過している車が多い。事故後に同じ経路を走行し車載カメラで撮影した際も制限速度を順守していると後続車から迷惑がられ次々と抜かされた。
制限速度は時速80㌔だが、若山氏が言うように「90~100㌔出していた」からと言ってそれが直接「曲がり切れなかった」原因になるとは考え難い。現場は緩やかなカーブでブレーキ痕はなかった。速度は時速90~100㌔では済まされず常軌を逸して超過していたため曲がり切れなかった、または、スピード違反以外に暴走を制御できなかった原因があると考えるのが自然だ。
事故の原因が何かは、交通事犯の中でも重罪である危険運転致死傷罪が適用されるかどうかに関わってくる。酒酔い運転や著しい速度超過など、特に危険な運転行為によって人を死傷させた場合に適用され、人を死なせた場合は状況に応じて1年以上20年以下の拘禁刑が科される。要件は厳しい。報道によると、若山氏からアルコールは検出されなかったというので、「進行の制御が困難な高速度での運転」、「進行を制御する技能を持たない状態での運転」だったかどうかが要件となる。
地元紙によると、捜査関係者の話として、若山氏は「運転に支障はなかった」と供述していたという。だが、今回の事故の数カ月前から複数回事故を繰り返していたことが判明。事故当日も新潟中央インターから高速道路に入る際に、分岐を誤って本来の磐越道とは別の方向に進むなどしていた。複数の生徒が「事故前から危険な運転だった」との趣旨の証言をしていた。LINEで「シートベルトをした方がいい」と部員間で共有したり、家族に「死ぬかも」と送っていたりするなどの記録もある(福島民友より)。同乗者からすると、「危険な運転」だったのは明らかなようだ。
警察も若山氏が運転を制御する技能を持たないとみていたと推察できる事実もあった。新潟県警が若山氏に対して4月に運転免許証を返納するよう2回に渡って促していたという(福島民友より)。バス事故の5日前には代車の運転中に追突事故を起こすなど、数カ月前から物損事故を5、6回繰り返していたことも分かっている。
福島地検郡山支部は5月22日に刑事責任能力の有無などを調べる鑑定留置を始めた。期間は約3カ月半で、起訴されるかどうかはそれを経て決まる。精神状態によっては無罪になるのを見越して起訴しない場合も考えられるので、刑事処分は放免から実刑まで幅がある。
警察の捜査が進展し、それを追う取材攻勢が強まるにつれ、運転手だけでなくバス運行会社、学校の安全管理体制の問題も浮かび上がった。福島民友5月19日付は、関係者の話として、当初は蒲原鉄道の営業担当から運転の依頼を受けた別の人物が断り、代役として若山氏が引き受けた事情があったと伝えている。同社は事故当日の6日の会見で、営業担当が知人を介して若山氏に運転を依頼し、営業担当と若山氏には面識がなく事故歴も把握していなかったと説明していた。当初依頼していた人物が断っていた事実は、同社が代役を探すのに必死で、若山氏の運転技能や事故歴を把握するのが疎かになった状況を類推させる。
組織に対しても立件の余地があるようだ。福島民友5月18日付によると、蒲原鉄道は6日夜の記者会見で「北越高校からレンタカーと運転手の手配を依頼された」と主張していた。一方、北越高校側は「レンタカーと運転手の手配は要望していない」と否定し食い違いが生じている。マイクロバスは運賃をもらって業務として運航することが認められている緑ナンバーではなく、一般の白ナンバーであり、違法な白バス行為に当たる恐れもあるため、県警は道路運送法違反の容疑も視野に捜査しているという。
郡山市内で相次ぐ悲惨な事故
これまで行ってきた別の送迎に関しては、北越高校側が蒲原交通から車両を借りて自ら運行する内容の契約書が残っていた。今回の事故も契約書の内容通りなら、学校側にも一定の責任があることを意味する。双方の主張の食い違いは、運行会社側と学校側で白バス行為の責任をなすりつけようと互いに都合のよい主張をしているため生じているとみられる。
若山氏の鑑定留置が終了するのは、今年秋ごろの見込みで、それを受けて罪に問えるかどうかが決まる。被害者や遺族の気持ちを考えれば、最高刑である危険運転致死傷罪が適用されるべきだが、要件は厳しい。危険性を認識しながら運転していたかの故意性の立証が難しい。もし、同罪で起訴されれば、地検郡山支部が鑑定留置を行っている点から、管轄の地裁郡山支部で裁判員裁判によって裁かれるだろう。
本誌2025年10月号では、同年1月に飲酒後に運転し郡山駅前で受験生の女性を死亡させた事件の裁判員裁判を報じた。危険運転致死傷罪の成立が認められ、被告人の男(30代)には懲役12年(求刑懲役16年)が言い渡された。被害者は県外から市内の大学を受験するために前泊していた。今回の磐越道マイクロバス事故でも、被害者の高校生たちは新潟県の在住。郡山市では、責任が重い交通事故が短期間に相次いでいる。


























