全国で太陽光発電所から銅線が盗まれる被害が相次いでいる。福島県内でも、西郷村にある太陽光発電所の建設現場から1本数百㍍の銅線ケーブル2本(計120万円相当)が盗まれ、8月29日、郡山市の土木作業員の男(44)が逮捕された。白河署では余罪を調べているが、犯行の時間帯は同月23日(金)の午前9時から午後3時の間というから、その大胆さがうかがえる。
「平日昼間の犯行は一見、大胆にも映るが、作業員が通常の工事をしているようにも見えるので、意外と怪しく思われないのです」
こう話すのは、県中地区で太陽光発電所を運営する業者だ。実はこの業者も、数カ月前に銅線の盗難被害に遭っている。
「前の事業者から引き継いで(太陽光発電所を)運営することになったが、不具合が起きている個所があり設備の交換を進めていた。その工事の途中で、新しい銅線をごっそり盗まれた」(同)
メガソーラーと違って中小規模の太陽光発電所は空き地や道路沿いなど誰でも容易に近付ける場所で稼働していることが多い。堅牢なフェンスで囲まれているわけでもなく、厳重な警備システムが敷かれているわけでもない。
「ウチは『〇日まで工事中』と看板を設置したが、それがかえって犯人に『ここに新しい銅線がある』と教えることになってしまった。おそらく犯人は何度か下見に来て、どの時間帯に人がいるかいないかを確認し犯行に及んだと思います」(同)
業者は被害届を出す一方、買い取り業者に古い銅線を売却したが、その金額に驚いたという。
「バンに詰め込んで買い取り業者に持っていったら、想像より何倍も高く買い取ってくれた。古い銅線でこれなんだから、新しい銅線が狙われるのも納得です」(同)
県内では太陽光発電所での盗難被害が昨年1年間で121件発生、その数は年々増えている。犯行は平均10分以内に行われることが多く、前出の業者も「ウチでも防犯カメラを設置しており(犯行時も)異変を感知した警備会社が駆け付けたが、既に犯人の姿はなかった」。
一般社団法人日本損害保険協会が発表している「太陽光発電設備向け火災保険(企業向け)の事故発生状況等に関する調査研究結果(2024年2月)」によると、盗難によって発生した保険金の推移は17年度を1とした場合、22年度は20倍に増加。民間の調査では、23年度はさらに3倍(つまり17年度の60倍!)に増えたという報告もある。
なぜ、これほど増えているのか。背景には銅の価格高騰がある。
一般社団法人日本電線工業会が発表している「国内銅建値(月平均)推移表」によると、1㌧当たりの銅の建値は2009年52万円だったのが、20年には70万円となり、以降は21年106万円、22年120万円、23年124万円、24年(1~4月の平均)134万円と09年の2・5倍まで値上がりしているのだ。
この値上がりに比例し盗難件数も増えているのが実情で、特にケーブルが太い高圧の発電所は狙われやすい傾向にある。
対策としては▽警備システムの導入、▽転売しても価格が安いアルミケーブルへの切り替え、▽ケーブルの地下埋設、▽定期的なメンテナンスの実施――などがあるが、全て行っても犯行を防げる保証はないという。盗難保険も、被害の多さから保険会社の撤退が相次いでいる。
太陽光発電所の銅線が窃盗犯に狙われる状況は今後も続きそうだ。