浪江町津島地区の住民が国と東京電力を相手取り、同地区の原状回復などを求めている裁判の控訴審で、10月18日、「現地進行協議」が行われた。同地区の住民で構成する原告団、国・東電の代理人、仙台高裁の裁判官らが同地区のいまの状況などを確認した。
原状回復を求める原告団

浪江町津島地区は、町北西部に位置し、福島第一原発からおおむね25〜30㌔圏域にある。原発事故当時、同地区には約400世帯1400人が暮らしていた。
原発事故発生時、国から出された避難指示は20㌔圏内から退去するというもので、同地区はそれに当てはまらないため、避難対象ではなかった。ところが、原発が水素爆発を起こした時の風向きや天候などの関係で、同地区には大量の放射性物質が降り注いでいたことが後になって分かった。
これを受け、同地区は計画的避難区域に指定され、住民は域外への強制避難を余儀なくされた。その後、2013年4月に同町の警戒区域・計画的避難区域の再編が行われ、津島地区は帰還困難区域に指定された。
先行きが不透明な状況が続いていた中、2015年5月に、「福島原発事故津島被害者原告団」(今野秀則団長)を結成し、同地区の原状回復などを求める集団訴訟を起こすことを決めた。同年9月に第一陣の原告として32世帯116人が地裁郡山支部に提訴し、以降、第二陣、三陣として順次原告に加わり、約630人の原告団となった。
原発事故の被害者が国・東電の責任を追及する集団訴訟は多数あるが、津島地区の場合は2つ大きな特徴がある。
1つは、原告を同地区の住民に限定し、「帰還困難区域の対象住民のみの集団訴訟」となったこと。
もう1つは、ほかの多くの集団訴訟は賠償請求が主たる目的だが、津島地区の集団訴訟は賠償請求もしているものの、それよりも放射線量を低減させる義務があることを認めさせ、その実行を求めるのが主たる目的であること。合言葉は「ふるさとを返せ!」だ。
一審裁判は2016年5月から行われ、2021年7月に判決が言い渡された。判決では、国と東電の責任を認め、国・東電が連帯して総額約10億円の慰謝料支払いを命じた。一方で、この裁判の主たる目的である「原状回復請求」については棄却された。
この判決を受け、弁護団は「原発事故の責任が国にあることは認めさせた。原状回復請求についても、除染させる道理はあり、その権利を有していることは否定されてない。これは前進であり、控訴審ではその部分を突き詰めていきたい」との見解を示した。
一方、今野団長は次のように話した。
「原状回復が認められなかったことは残念。このままでは引き下がれない。ただ、国と東電の責任が認められ、今後の戦いの足がかりになると思っています」

一審判決が出された直後から、控訴する意向を示しており、実際、2022年9月から舞台を仙台高裁に移して、審理が続けられてきた。
住民本意の原状回復
そんな中で、10月18日に原告団、国・東電の代理人、仙台高裁の裁判官が津島地区に集い、現地進行協議が行われた。昨年5月に続き、2回目の現地進行協議となった。
当日、集合場所のつしま活性化センター(浪江町役場津島支所)に行くと、防護服に身を包んだ原告団関係者らが集結していた。これに対し、東電の代理人らはスーツ姿の平装。
そのコントラストこそが、問題の縮図とも言える。すなわち、放射能汚染により、ふるさとを物理的にも、心のつながりという点でも破壊されたと主張する原告団と、いまは平時に近い状況に戻っているとの姿勢を見せる東電の対比だ。
現地進行協議を前に、今野団長は「被害実態をしっかりと裁判所の方に見てもらいましょう」とあいさつした。
現地進行協議が始まると、冒頭のみ公開され、原告団はパネルを持って、原発事故前の津島地区がどういう状況だったかなどを訴えた。その後は非公開で、クルマで移動し、地区内を見て回った。
終了後、今野団長は本誌取材に「裁判長に直接見てもらい、われわれの思いを聞いてもらったので、意義のあるものだった」と述べた。
一方で、弁護団共同代表の原和良弁護士は次のように話した。
「裁判の中で、東電は(現地進行協議は)不要という姿勢でしたが、裁判長はその必要性に理解を示してくれて、しっかり見てもらえたと思います。すでに最高裁の判例で出ているように、津島地区の裁判でも賠償については認められるでしょうが、この裁判はそれだけが目的ではなく、原状回復を求めています。今回の能登半島地震や南海トラフ地震などを考えた際、原発で事故が起こる可能性は否定できない中、もし事故を起こしても除染(原状回復)をしなくていいという事例をつくるわけにはいきませんからね」
そのうえで、原弁護士はこう続けた。
「来年には結審すると思いますが、今後は和解協議も出てくるでしょう。先ほど話したように、賠償については認められるでしょうが、国がいずれは帰還困難区域も全域解除すると言っており、実際に帰還困難区域の一部で解除されている中、いかに住民本意で原状回復につながるような形にしていくか。そういった部分は判決では出てきませんから、和解協議ではそういった点について話をしていきたい。その意味でも、今回の現地進行協議は意味のあるものだったと思っています」

最高裁で、東電の賠償責任を認める判例が出て以降、集団訴訟は和解の動きが加速している。ただ、津島地区のケースは原状回復を求めていることもあり、少し事情が違う。今回の現地進行協議がどのように生かされ、今後どのような決着を迎えるのか注目される。