【尾松亮】燃料デブリ本格取り出しは工法より先に定義を決めるべき

【尾松亮】燃料デブリ本格取り出しは工法より先に定義を決めるべき

 7月29日、東京電力は福島第一原子力発電所3号機の燃料デブリ(溶融燃料等)の本格的な取り出しが2037年度以降にずれ込む見通しであることを発表した。この発表をどのように受け止めるべきなのか。本誌で『廃炉の流儀』を連載している研究者の尾松亮さんに論じてもらった。

経歴

おまつ・りょう 1978年生まれ。 東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学後、通信社やシンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども・被災者支援法の政府WGに参加。「廃炉制度研究会」主宰。156頁からの連載記事も併せてお読みください。

 7月29日、東京電力は福島第一原発(1F)の溶け落ちた核燃料(デブリ)の本格的な取り出しについて、準備に時間がかかるため、2030年代初めとしていた取り出し開始の目標を2037年度以降に先送りすると表明した。

 核燃料デブリの状況の確認や、妨げになる建物の解体、それに、建屋の中や周辺の放射線量を下げるといった準備作業に今後12年から15年程度かかる見通し、であるという。

 この東電の発表を受けて、各紙・各局は共通して主に以下の問題を指摘した。

 ①51年廃炉完了の目標は変えていないが、それも遅れるのではないか。

 ②燃料デブリは全体で推計880㌧だが、計約0・9㌘の採取にとどまる。全量取り出しできるのか。

 ③取り出し準備だけで追加費用9000億円。廃炉全体の費用は更に膨らむ。

 「燃料デブリの本格的な取り出しが2037年以降になる」という東電の発表を受けて、報道が注目すべきは本当にこれらの論点なのだろうか。

問うべき「本格的な取り出しとは何か」

 まず問い詰めなければならない根本的な問題は「本格的な取り出し」とは何をすることで、昨年以降行われた計0・9㌘試験的採取と何が違うのか、ということであるはず。

 「本格的な取り出し」によって事故原発のどの部分から、どのくらいの量の燃料デブリの取り出しを行うのか。そして、その「本格的な取り出し」は、目指す「廃炉の完了状態」を実現するためにどんな意味を持つ作業なのか。「本格的な取り出し」とやらが実現した場合に持ち出される「燃料デブリ」は、どこで誰がどのような責任のもとに管理・処分するのか。

 筆者が知る限り、これらの問題を東電や1F廃炉を支援する「廃炉等支援機構」(NDF)に質問して回答を得た報道は現時点(2025年8月上旬時点)で無い。

 この「本格的な取り出し」の内容を全く明らかにしないままに、「15年後には本格的な取り出しを開始します」と発表され、その数字に「大幅な遅れ、予算の増大、なんたることか」と報道が飛びついている。これでは、本質的な内容を隠して責任を回避しながら物事を進めたい東電やNDFの思うつぼと言わざるを得ない。

東電資料における「本格的な取り出し」

 7月29日の発表に先立って、東電がNDFの小委員会に提出した「3号機 燃料デブリ取り出しに係る設計検討について」(2025年7月24日、別表参照)という資料がある。この資料において東電は「本格的な取り出し」に向けた複数の工法を検討し、大まかなスケジュール目標などを示している。

 この東電資料の中で「本格的な取り出し」の内容はどのように定義されているのだろうか。結論を言うと、「本格的な取り出しとは何をすることなのか」、「本格的な取り出しによってどの程度の量のデブリを取り出し、それをどう扱うのか」について驚くほどに何も語られていない。

 東電は《燃料デブリ取り出しシナリオの全体像としては、「環境整備」を進めつつ、同時並行で「内部調査・少量回収」、さらに「加工・回収技術等の検証 」を進め、その後、「本格的な取り出し」を実施する》と述べており、前段階の「少量回収」と「本格的な取り出し」は異なる工程であることが明示されている。ではどの程度の量を、どの部分から取り出したら「本格的な取り出し」は「実施できた」と認めるのか。その要件についてはあいまいにされている。

東電が示している燃料デブリ取り出しの見通し

 「本格的な取り出し」の目的としては、〝横アクセス工法〟では「ペデスタル内外燃料デブリの取り出し完了」、〝上アクセス工法〟では「RPV(原子炉圧力容器)内の燃料デブリ取り出し完了」と示されているため、さすがに数グラムの取り出しで「本格的な取り出し完了」とは言えないだろう。

 しかし、東電も政府もこれまでかたくなに「燃料デブリとは何か」、「何を取り出したら燃料デブリ取り出し完了になるのか」の定義を避けてきた。枕詞のように繰り返される「燃料デブリ総量880㌧」も「燃料デブリ」の法的定義に基づく推計ではない(「廃炉の流儀」第46回参照)。原子炉施設内に残るどこからどこまでを「燃料デブリ」として扱うかは東電の解釈に委ねられている。

 この定義をしないまま「本格的な取り出し」を行ったとして、数㌔だけ取り出し「ペデスタル内外の燃料デブリはこれで全部です」と後付けの解釈で言うことも可能だ。

 さらに東電資料では「本格的な取り出し開始以降の工程は不確かさが大きいため、今回の検討対象とはしていない」と明言しており、「本格的な取り出し」がその後の廃炉工程にどのような意味を持ち何を目指すための工程なのか、何も述べていない。

知ってほしい定義付けの必要性

3号機原子炉格納容器ペデスタル内の写真(2017年7月撮影、東電提供)
3号機原子炉格納容器ペデスタル内の写真(2017年7月撮影、東電提供)

 どんな技術を使って取り出すのか、いつ取り出しを開始するのか、ばかり議論されてきた。しかし取り出す対象そのものが「(法規制上)何であるのか」にはあえて触れない。おかしくはないか。「廃炉の流儀」で繰り返し述べてきたとおり、東電も政府も「燃料デブリとは何であるのか」、「放射性廃棄物として扱うのか」などの法規制上の定義をかたくなに避けてきた(詳しくは「廃炉の流儀」52回参照)。

 「福島第一原発の燃料デブリは、東京電力が廃棄しようとしない場合においては、放射性廃棄物に当たらない」というのが政府の公式答弁である。高レベル放射性廃棄物として政府が管理・処分するのか、という質問に対しても「燃料デブリの処理及び処分の方法については、当該燃料デブリの取り出し開始後に性状の分析等を進めた上で決定することとしている」と明言を避けた。

 本格的な取り出しを進めたとしても取り出した燃料デブリは「東電が廃棄しないから放射性廃棄物ではない」と放置され、政府が「高レベル放射性廃棄物」として管理・処分する責任もない。だとすれば取り出した後にも「誰も責任を負わない」ことになりうる。

 こんなことを許さないためにも、工法よりも先に「デブリの法的定義」を定めなければいけない。

 不誠実な国と東電の姿勢  本誌編集部 

 東京電力は2011年12月に決定した中長期ロードマップで、燃料デブリの取り出し開始時期を2021年内、廃止措置(廃炉)終了を2041~2051年(事故発生から30~40年後)と定めた。

 だが、実際に福島第一原発2号機で試験的取り出し作業に着手したのは昨年9月で、採取できたのは昨年11月と今年4月で合計0・9㌘にとどまった。燃料デブリは1~3号機に計約880㌧存在すると推計されている。

 政府と東電は燃料デブリの本格的な取り出しを2030年代初頭に始め、まず使用済み核燃料の搬出が終わった3号機から着手する計画を立てていたが、いきなり遅れが生じた。

 不透明感が強まる中でも、東電は2051年までに廃炉を完了させるという目標を堅持する姿勢を示している。1、2号機の作業も含め効率的に進める考えのようだが、現時点でスケジュール見直しを繰り返していることを踏まえると、その実現性には大きな疑問が残る。

 本格取り出しは廃炉作業の「本丸」であり、困難を伴うと予想される。さらに建屋解体や廃棄物処理などの問題もあり、リスクの除去・低減、現状把握を重ねていけば2051年の目標達成が難しくなるのは明らかだ。にもかかわらず、国と東電が、現実味のない見通しを示し続ける姿勢からは誠実さが感じられない。

 東電に工法を助言する原子力損害賠償・廃炉等支援機構の更田豊志廃炉総括監は「51年までの完了はもともと困難だ」と指摘する。いい加減、現実を直視した議論をすべきだ。

福島第一原発3号機(写真右)
福島第一原発3号機(写真右)

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