【福島テレビ】橋本 泉 社長インタビュー(2025年)

経歴

はしもと・いずみ 1963年9月生まれ。須賀川市出身。早稲田大商学部卒。86年に福島テレビに入社し、編成局長、取締役放送本部副本部長報道局長、常務取締役(報道制作・技術担当)などを歴任。今年6月から現職。

 今年6月、福島テレビの代表取締役社長に橋本泉常務取締役(報道制作・技術担当)が就任した。60年以上の歴史を持つ同局での〝生え抜き社長〟は2人目となる。39年にわたり報道現場を中心に歩んできた橋本氏は今後どのように経営を進めていくのか。社長就任の経緯から地域メディアの役割に至るまで話を聞いた。

地域への愛情が一番深いテレビ局を目指す。

 ――6月に開かれた株主総会と取締役会での決議を経て代表取締役社長に就任されました。

 「当初は責任の重さを痛感していましたが、不思議と落ち着いています。社員たちは福島テレビ62年の歴史と伝統を継承しつつ、新たな時代に合わせて毎日挑戦を続けています。そうした姿を見て、社員と力を合わせていけば必ず前進できるという強い思いがあるので、不安な気持ちがないのかもしれません。

 この会社に39年間勤め、当社の長所や弱い部分、時代に合わなくなっている部分などを見てきました。その私が社長に選任されたということは、『守るべきは守り、変えるべきは思い切って変えよ』というメッセージだと受け取め、新しい時代を切り開く経営に努めていきます」

 ――報道局長などを歴任された経験をどう経営に生かしますか。

 「事件記者として現場を走り回っていたときは、どこよりも早くスクープネタをものにすることに心血を注いでいました。転機となったのは2011年に発生した東日本大震災と原発事故です。当時は編成部門にいましたが、県民が将来に希望を持てなくなっている姿を目の当たりにし、『ここで県民の力になるのがテレビ局の役割だろう』とあらためて実感しました。以後は地域に寄り添い、地域愛の深さをしっかり形にしていく放送を信条とし、CSR活動なども積極的に行ってきました。経営に携わるようになっても引き続きこの信条は守り続けていきます」

報道の質と深さを追求


 ――福島テレビの報道や番組の特色、自社制作比率の推移について。

 「夕方の『テレポートプラス』は当社のフラッグシップと言える番組です。今年50年目を迎えますが、記者やアナウンサーが自ら現場に出て、映像と音声で〝深く伝える〟というコンセプトを守り続けています。土曜午後に放送されている『サタふく』は地域の魅力を親しみやすく届ける番組で、こちらは今年45年目となります。この2つの番組を大切にしつつも、『カンニング竹山の福島のことなんて、誰もしらねぇじゃねえかよ!』、『アルピーの福島あるある認定委員会』など、中央で活躍するお笑い芸人を起用した地域情報バラエティーも制作しています。

 2014年からは県内で初めて専属の気象予報士である斎藤恭紀気象予報士を起用し、『テレポートプラス』内で『空ネット』という気象情報コーナーを展開しています。地震や豪雨など災害が多発する中で、地域に密着した細かい気象情報は多くの視聴者に見てもらっており、当社のキラーコンテンツとなっています。3月には斎藤気象予報士を起用したバラエティー番組も放送しました。

 自社制作番組の比率は約1割ですが、限られた経営資源で無理に比率を上げようとするとおのずと内容が浅くなってしまいます。特に報道は『面積より密度』と考えているので、質と深さをこれまで以上に追求していきたいと考えています」

 ――人口減少や少子高齢化、テレビ離れ、コロナ禍の影響に加え、いわゆるフジテレビ問題の余波もありました。厳しい経営環境の中で今後、どのように経営を進めていきますか。

 「まずフジテレビに関する一連の問題に関しましては、フジテレビ系列局として、視聴者の皆さまにご心配をおかけしました。私たちも広告関係で影響を受けていますが、同時に公共性が高く、視聴者との信頼関係で成り立っているというテレビの原点を再認識させられました。

 人口減少やテレビ離れが進む今こそ、地域課題に真正面から向き合うローカルテレビ局の存在意義が増すはずです。4月からは企業経営者にインタビューし、地域課題解決のヒントを見いだす番組『アスノタクト』をスタートしました。13歳から49歳を中心とするコアターゲットに多く視聴されており、スポンサー企業からも評価いただいています。

 また、さまざまな地元企業の仕事を紹介する『ふくしまのおしごと本』を作成し、県内の中学2年生全員に配布しています。将来福島で働きたいと思ってもらえるきっかけづくりを目指しており、人口流出の抑制にもつながればと考えています。

 10年後にテレビがどう変わっているかは誰にも予想できませんが、ただ、地方のテレビ局は災害時などに『命を守る報道』の役割を担っています。そうした役割を今後どのように担保していくのか、議論すべきだと考えます。当社としてはさまざまな環境の変化を想定し、いまのうち、できる限り経営努力を進めておくことが重要だと認識しています」

 ――デジタル戦略について。

 「ニュース配信や民放公式テレビ配信サービスTVer(ティーバー)、YouTube(ユーチューブ)などでの展開にも力を入れていますが、ただ番組を配信するだけなら他局でもやっていることなので埋没してしまう。今後は配信を立体的に展開する戦略が必要です。

 そうした中、新たな取り組みとして、スポーツ専門配信サービス『DAZN(ダゾーン)』で配信されるサッカーJ2いわきFCの試合中継の制作を受託しています。いわきでの撮影は労力がかかりますが、若手スタッフの『やってみたい』という声を受けて始めました。工夫と努力を重ねた結果、重要なシーンを逃さずに撮影するようになっており、実況技術向上にもつながっています。地元クラブがJ1を目指す中、私たちも公式映像を担える局になれるよう目標を共有しています」

 ――イベントも活発ですね。

 「秋に開催している音楽フェス『LIVE  AZUMA(ライブアヅマ)』も当社の若手・中堅社員の発案で始まりました。当初は『テレビ局の仕事なのか』と疑問視する声もありましたが、今や福島の秋の風物詩として定着し、昨年は2日間で県内外から3万7000人が来場しました。放送外収入はもちろん、新たなブランドイメージの構築という意味でも大きな存在になっています。若手の挑戦を頭から否定せず、どうすれば実現できるかを一緒に考える、そんな経営姿勢をこれからも大切にしていきたいと思います」

 ――最後に、今後の抱負を。

 「地域への愛情が一番深いテレビ局を目指します。その愛情を、番組やイベント、デジタル施策、そして社員一人ひとりの活動を通じて形にしていく。それが福島テレビの使命だと信じています」

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