いわき市の元会社員安保武志さん(84)が全国各地の気温を比較し「過ごしやすさ」を数値化した本『温暖で、住みやすいところはどこか』(SALLY文庫)を発刊した。
暑さが苦手なため、定年退職後に温暖な移住先を探し、いわきにたどり着いた安保さん。移住から10年経って改めて全国302カ所の気温を比較したところ、いわきが過ごしやすさで上位になり、「移住先の選択は間違っていなかった」と確信した。本は、過ごしやすい地域を知って移住先の選定に役立てるのはもちろん、温暖な地元いわきの良さを再確認してほしいと願って執筆した。
安保さんは秋田県鹿角市出身で、大手特殊鋼メーカーの大同特殊鋼(名古屋市)やそのグループ会社で30年以上永久磁石の開発に従事した。長年暮らした名古屋で我慢できなかったのが、都会のまとわりつくような夏の暑さだった。
「夏はクーラーを付けてパンツ一丁になって耐えていました。そのくせ冬は冬で寒い。このままでは寿命が縮むと思い、定年を前に過ごしやすい気候の移住先を探しました」
参考にしたのが、気象庁が発表している各都市の観測所で記録した月ごとの日最高気温・日最低気温だ。安保さんは月ごとの日最高気温の平均値を出し、「22℃以上28℃以下=快適」、「17℃以上22℃未満、或いは28℃を超えて30℃以内=やや快適」、「それ以外の気温=不適」と3段階に評価した。月ごとの日最低気温も同じように3段階評価した。
ここで「住みやすい気温」を数値化するために、安保さんは独自の指標を考案した。各月の日最高気温・日最低気温を見た時、①共に「快適」だった月には2点、②「やや快適」がある月には1点、③「不適」がある月には0点を付けた。例えば、最高気温が「やや不適」で最低気温が「不適」ならば③に該当し0点となる。点数が高ければ高いほど気温の変化が激しくなく、温暖な日が多いことを示す。
長年メーカーで研究をしてきた安保さんは、「過ごしやすい気温かどうかを数値化した指標は見つからなかった。私はへそ曲がりだから人がやっていないことをやりたがるんだな」と、自己分析も忘れない。
この指標を使って、移住候補先だったいわきや仙台、千葉県の房総半島などを調べた。いわき市は大学時代の友人の出身地だ。名古屋、東京を加え気温を比較すると、温暖の評価はいわきがトップだった。
今回の本では2020年のデータを用いて全国302カ所を比較した。いわき市(小名浜)は総合評価9点で14位タイ。上位には沖縄や奄美などの南西諸島、伊豆半島や高知県の室戸岬・足摺岬など緯度が低く海岸沿いの観測所が目立つ。ただし、これらの中には夏の1日の最低気温の月平均が25℃を超えて「不適」になる亜熱帯があり、夏の暑さを欠点と捉えれば、いわきが実質4位に浮上する。
「いわきの気温は小名浜の観測所の記録を使っています。海流の影響を受けて温度変化が緩やかなのでしょう」(安保さん)
2000年に夫婦で平地区に移住した安保さんは、新たな人付き合いが生まれ、地元の人に良くしてもらっているという。「常磐もの」が舌になじみ、東日本大震災も経験したいま、いわきの自宅を終の棲家と決めている。
「あのままアスファルトばかりの都会にいたら、夏には茹だって体を壊していたかもしれない。いわきに来て寿命が延びたよ」とほほ笑んだ。
書籍は定価1430円(税込み)。市内の書店で販売している。