3月27日、会津若松市の東山温泉街の一角にある菓子店「松本家」にクマが侵入していたことが分かり、中央のテレビやネットニュースで大きく報道された。
「店舗に併設されている空き家は普段使用していないのに、荒らされた跡があった。泥棒の可能性もあると考え、会津若松署に通報して調べてもらったところ、中にクマがいたのです」(同店の関係者)
その後もクマは空き家内に居座り、2日近く経った29日午後、窓から顔を出したタイミングを狙って、麻酔銃で捕獲された。報道によると、体長は約80㌢。眠らされたままトラックで温泉街から離れた山奥に運ばれて解放されたという。
観光などへの影響は「もともと周辺にクマが出没するエリアだし、キャンセルなどが発生したとは聞いていない。インバウンド客に向けた注意喚起も特にしていない」(会津東山温泉観光協会担当者)とのこと。
クマは山の中で生息し、移動する際は姿を隠せる川沿いの草むらを好む習性がある。同温泉がある東山地区はもともとクマの生息地だが、そうした習性もあってか、温泉街までクマが出没することはほとんどなかった。
だが、市街地周辺で生息し、人前に出ることを怖がらないアーバン・ベアが全国的に増える中、ついに同温泉にもクマが出没した格好だ。東山地区で計画されている風力発電事業(本誌4月号)が実現すれば、クマの生息域が変わり、目撃数が変動する可能性もゼロではない。今後の展開次第では観光客への周知などの対応が求められそうだ。
東山温泉では、空き家以外にも、廃業後に解体されずに放置された「廃墟ホテル」が4棟ある。中にエサとなるものはないが、クマをはじめとした野生生物が入り込んですみかとするリスクもある。
周辺の旅館・ホテル経営者らは、「廃墟ホテルは景観面・安全面で不安要素を抱える」として、行政主導での解体を求めているが、解体費用は総額約10億円とされ、市としても動きが鈍い状況が続いていた(本誌昨年11月号参照)。
ただ、ここに来て動きがあった。同市議会2月定例会で、入湯税を現行の150円から引き上げ、増額分を市内の温泉地に振り分けて、廃墟ホテルの解体などに使えるようにすることを求めた陳情が採択されたのだ。これを受けて、市としても市税条例を改正する方針だという。
市の入湯税収は2019年度1億0596万円、コロナ禍の2022年度7860万円。解体を実現するためには、当面税収をプールする必要がある。また、どの建物から解体すべきか、という議論も今後必要となるので、すぐに問題が解決するわけではない。ただ、従来の税収はすべて市の一般財源に組み込まれ、観光全般に使われてきたわけで、大きな一歩と言えよう。
ある意味、東山温泉のさまざまな課題を象徴していると言える「クマ空き家居座り」騒動。取り急ぎ、春の観光シーズンに人的被害が出ないよう対策を講じる必要がある。
今年は冬眠時期である1月から3月も、クマの目撃が全国で相次いだ。エサ不足や暖冬の影響が指摘されており、会津若松市の昨年の目撃件数は132件。これからの時期は冬眠から目覚めたクマの出没数増加が見込まれ、県では4月1日から7月末までの期間、ツキノワグマ出没注意報を発令している。
同温泉に限らず、クマが出そうな山際や山林内に立ち入る際は、特に早朝や夕方に一人で行くのは避け、鈴やラジオ、蚊取り線香などを持ち歩くなど、十分にクマ対策をして行動することが求められる。