【JA福島五連】管野啓二会長インタビュー

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【JA福島五連】管野啓二会長インタビュー

 原発事故に伴う風評被害や、水害などの自然災害、コロナ禍での米価下落、さらには燃料高騰など、農業を取り巻く環境は厳しさを増している。昨年6月にJA福島五連会長に就任した管野啓二会長に、それら課題への対応や、「第41回JA福島大会」で決議された3カ年基本方針の進捗状況などについて話を聞いた。

 かんの・けいじ 1952年生まれ。福島県農業短期大学校卒。JAたむら代表理事組合長、JA福島さくら代表理事専務、代表理事組合長を務め、昨年6月の総会でJA福島五連会長に選任された。

 ――昨年6月の総会で会長に選任されてから8カ月ほどが経過しました。この間を振り返って、率直な感想をお聞かせください。

 「仕事にも慣れてきて、落ち着いてきました。その中で感じたこととして、本県における最も大きな課題は、農業産出額を大震災・原発事故前の実績である2330億円に追いつくことだと再認識しています」

 ――2021年11月に開かれた「第41回JA福島大会」では、農業総生産額の減少対策、農業者の高齢化・担い手の減少対策、風評払拭対策などを含む、2022年度から2024年度までの3カ年の基本方針が決議されました。それら事業・取り組みなどの進捗状況はいかがでしょうか。

 「同大会の決議では『園芸ギガ団地構想』を柱に据え、2024年度までに各JAが1団地を形成できるよう取り組んでいます。

 主な作物はきゅうり、ピーマン、トマト、ほうれん草、宿根カスミソウなどで、『もうかる農業の実現』がコンセプトです。

 これらの品目について、2022年度の実績を振り返ると、昭和村のカスミソウの販売額は6億円を超えたほか、南郷トマトの販売額は11億円でした。また、夏秋きゅうりにおいて福島県は全国一の産地に成長しており、多くの品目で実績を残しています。

 園芸ギガ団地構想によって、そういった実績をさらに加速できるようにしていきたいです。

 担い手の減少対策は、新規就農者をいかに確保していくかが大きなテーマで、これまで我々JAは新規就農者に対して一元的な窓口対応ができる組織が欲しいと県に要望してきました。

 先日、県の予算が開示され、4月から『福島県農業経営・就農支援センター』という名称でスタートすることが正式に決まりました。新規就農といっても、都会からUターンして就農する、親元で就農しながら新しい栽培品目を自分で開拓して始める、親が高齢になり後継者として代々受け継いできたものを継続する、などさまざまなパターンがあります。

 同センターはそういった方々の相談や悩みに合わせたサポートをワンフロアで行うことが狙いです。栽培品目は何にするのか、そもそも農業のノウハウがあるのか、ノウハウがあったとしても資金繰りや雇用の対策ができているか、県と連携してサポートしていきます。

 原発事故の避難指示が出された被災12市町村の農業復興については、震災による営農休止面積1万7298㌶のうち7369㌶が再開し、営農再開率は42・6%になっています。避難指示解除が早かった町村の再開率は高い一方で、やっと解除になった大熊町や双葉町などはこれから営農再開を目指していくことになります。特に双葉町では、トマトの施設栽培を目指しており、浜風ほうれん草の栽培も検討しています」

風評払拭に努める

 ――東日本大震災・原発事故から間もなく丸12年が経過します。この間、福島県の農業は、いわゆる風評被害に苦しめられ、品目によっては未だに影響が出ているものもあると聞きますが、現在の県産農畜産物の市場評価についてはどう見ますか。また、「JAグループ福島東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策福島県協議会」の原発賠償の状況についてうかがいます。

 「原発賠償については、今年1月末時点で請求額が3567億円に対し、合意額(受取額)が3481億円で、賠償率は97・58%となっています。

 県産農産物の市場評価については、明確に評価が低くなっていると言えるのはコメと牛肉です。米価は全国的に若干上がっていますが、県産米はまだまだ評価が低く、もっと努力していかなければならないと感じています。牛肉についても、品質のランク付けと価格単価のランク付けにギャップがある状況です。

 県知事とともに、トップセールスなど風評被害の払しょくに向けてPRしていますが、依然としてリスクがあるとネガティブに捉えられていることは消せない事実です」

 ――東京電力福島第一原発で保管されているALPS処理水の海洋放出が今春に迫っています。県内農業分野への影響についてはどう考えていますか。

 「国民理解の醸成と責任ある風評抑止対策を前提として考えれば、やむを得ないと捉えています。しかし、いわゆる風評被害が発生してしまった場合は、いままで同様賠償を前提に国や東電と話し合いを続けます」

 ――長引く新型コロナ、物価高、燃料費高騰が深刻な問題になっていますが、農産物の需要・価格(特に米価)にも影響は出ているのでしょうか。出ている場合は具体的な影響と対策・支援などについて。

 「ものすごく値上がりしています。高騰対策として国が予算を組んでおり、値上がりした分の約7割は補填される仕組みになっています。現在、秋肥に対する助成の申請が進んでおり、今年春に作付けする分の肥料も取りまとめを行っていきます。

 施設園芸においては、ハウス内で使用する燃料高騰への対応も国が打ち出していますので、それに対する助成申請も支援していきます。

 畜産については、飼料の値上がりが起きています。配合飼料には価格安定基金というものがあり、値上がりした分の8割は補填を受けられますが、値上がりが大きすぎてその上限を超えてしまっています。こちらに関しても国が特別に対策を打ち出しており、対応いただいています。しかし、それ以外の牧草やワラなどの粗飼料には国が関与している制度がないので、牛などを飼育している経営者は危機を感じており、自給飼料が少ない経営は完全に赤字経営になっています。

 そういった国の制度が行き届かないところを何とかしていただきたいと要望したいです」

 ――今後の抱負は。

 「暗い話ばかりになってしまいましたが、第一はギガ団地構想などの計画をスケジュール通りに進めることです。

 また、毎年のように地震や水害、霜害・雹(ひょう)害などの自然災害が頻発していますが、今年はそういったことが起こらないことを願いながら、これまで以上の対策を練っていきたいと考えています」

JAグループふくしまのホームページ

掲載号:政経東北【2023年3月号】

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