原発事故からの復興が続く葛尾村の役場に深刻な問題が浮上している。総務課長の過剰な叱責や理不尽な要求で、若手職員が精神的に追い詰められており、過去には複数の退職者が生まれたというのだ。一体どんな人物なのか、現役職員やOBの評判を聞いたうえで、当人を直撃した。
本人はパワハラ否定も複数職員が証言

「総務課長に公文書の決裁をお願いしたら『〝てにをは〟が違う』、『この言い回しには違和感がある』と細かく修正を求められ、3時間近く拘束されました。毎日のように詰められるので、総務課所属の職員は精神的に参っています」
こう明かすのは葛尾村役場に勤める現役職員だ。
葛尾村は双葉郡北部、阿武隈山系のほぼ中央に位置する山あいの村だ。震災・原発事故により全村避難を余儀なくされたが、2016年6月に避難指示解除準備区域と居住制限区域に出されていた避難指示が解除され、大部分で帰還が可能となった。とはいえ、9月1日現在の現住人口は震災・原発事故前(約1500人)に比べると3分の1ほどの472人にとどまる。このうち避難指示解除後に移住などで転入してきた人が169人。帰還促進と地域再建がもっかの課題だ。
職員数は約60人で、うち10人ほどは国や県からの派遣。2025年度の一般会計当初予算は33億1200万円。自主財源比率は35・5%(2023年度)となっている。
そんな小規模自治体の葛尾村で村長、副村長に次ぐナンバー3のポジションにある総務課長のM氏について、パワハラと受け取られかねない指導が問題視されている。
別の職員がこのように語る。
「特定の職員をつかまえて『何度言ったら分かるんだ!』と1時間近く大声で詰めるのはざら。前年のやり方を踏襲してエクセルで作成した文書を『ワードで一から書き直せ』と命じられた職員もいました。『他の職員は許されているのになぜ自分だけ……』と嘆いていました」
このほか、▽村内で行われるイベントでは準備やフォローに一切加わらず、当日現場に来て「あそこはおかしいだろう」と文句を付ける、▽役場内でマニュアルがある作業について、「こうした方がいい」とマニュアルを無視して作業するよう指示し、現場を混乱させる、▽事業について分からない点がある職員が、県や隣接する川内村の担当部署に確認しようとすると「そんな恥ずかしいことをするな」と叱られ、どうすればいいか尋ねると「そんなのは自分で考えろ」と突き放される――などの言動が指摘された。
M氏のこうした振る舞いで現場はしばしば混乱し、若手職員が涙を流しながら同僚に相談する姿も見られるという。
M氏をよく知る元職員は「厳しい指導で若手を精神的に追い詰めて潰す〝クラッシャー上司〟なんです」と断言する。
「従順な職員ほどターゲットにされやすい。過去には直属の部下が相次いで退職したが、反省するどころか『俺は(不要な職員を辞めさせる)掃除屋って言われてんだ』と悪びれずに語っていたらしい。50代後半で課長職の中でも年長者ということもあり、誰も表立って注意できない。一方で、特定の女性職員には一切注意せず、仲良さげに話すなど一貫性がない。それも周囲のストレスになっています」
村の広報紙に掲載されている職員一覧によると、M氏は住民生活課長、議会事務局長、地域振興課長を経て2024年度に総務課長に就任。住民生活課長時代には課内の職員が毎年退職したため、職員間で問題視されてきた経緯があるという。
ただ、今年に入り少し風向きが変わりつつあるようだ。これまでM氏の愚痴聞き相手となっていたベテラン女性職員が「総務課長という責任ある立場になったのに、いつまで若手職員をくさしているのか。自分の立場と組織のことを考えて行動すべきだ」と周囲に職員がいる前で直接苦言を呈したことで、激しい口論になり、役場内で話題になったという。
若手職員の間では状況の改善を訴え、団結する動きが出ており、原発事故後は停滞していた自治労葛尾村職員組合も職場環境に関するアンケート調査を実施した。調査結果は現在集計中とのことだが、「不満がマグマのように溜まっており、噴火寸前」(現役職員)という状況だ。
自身の正当性を主張
こうした現状を当人はどのように受け止めるのか。9月上旬、村役場でM氏を直撃した。
――パワハラ疑惑が浮上しているがどう受け止めているか。
「確かに私の指導は厳しいのかもしれません。震災後は業務の進め方が大雑把になっている面があり、特に中堅層の40代の職員に対しては若い世代の手本となるように、ある程度細かく指示しないと今後の組織運営に影響すると考えています。ただ、ハラスメント問題が社会的に注目されているので、どこまで厳しく指導すべきか悩みどころです」
――過去にはあなたの指導が原因で辞めた職員もいると聞いた。
「私が直接の原因で辞めた職員は、ここ2、3年はいないと思います。昨年退職した職員がいましたが、それ以前となると、3〜5年前に仕事をなかなか覚えられなくて辞めた職員がいました。ただ、それも私が直接厳しく指導したのが理由ではないと思います」
――「エクセルで作った文書をワードで作り直させられた」という証言も耳にした。
「別のソフトで作成し直せ、なんてことは言いません。ただ、エクセルは本来文章作成のソフトではないので不具合が出やすく、文書はワードで作成する方が適切なので『今後はワードで作成した方がいい』と指導したのだと思います。職員によって受け止め方は異なるので、私の言い方や温度感で伝わり方が変わってしまったのかもしれません」
――長時間にわたり大声で厳しい指導をしているのは事実か。
「1回で改善される職員もいれば、何度言っても変わらない職員もいます。特定の職員に対して指導する機会が多いと、厳しいと思わせてしまう面はあるかもしれません」
――厳しすぎる指導で若い職員が退職していくのでは元も子もない。
「今はハラスメント問題が注目される時代なので、怒りすぎはよくないと承知しています。若い職員が辞めてしまうと大変なので、その辺は気を遣っているつもりです。もし苦情が出ているということであれば、考え直す必要があるでしょうし、そういう意味では反省しています。ただ、最低限必要なことは伝えなければなりません。公務員の業務において大事な文書作成を『このぐらいでいいだろう』という感覚で済ませてしまうのはまずいと思います」
パワハラを否定しつつ反省の意を示したが、一方で「ある程度細かく指示しないと今後の組織運営に影響する」、「最低限必要なことは伝えなければならない」と正当性も主張した格好だ。
職員からは村のトップである篠木弘村長に期待する声が聞かれた。人柄が良く、職員とも気さくに対話するので、篠木村長にM氏の問題点を訴えれば真剣に受け止めて改善に動いてくれるのではないか――というのがその理由だ。


そこでパワハラ疑惑について篠木村長にもコメントを求めたが、基本的にはM氏と同様「総務課長の指導が原因で退職した職員はいない」という見解を示し、過去の部署で退職者が相次いだことを尋ねると「そこは把握していない」と答えた。
「どうしても仕事に馴染めず辞めていく職員はいるものです。他の町村長とも情報交換しますが、同じような問題を抱えているようです。総務課長には、誤請求や不適切対応により住民の不信につながらないよう、日常的に職員に注意喚起・指導するようお願いしています。月1回の庁議の際も緊張感を持って仕事に取り組むよう伝えています。ただ、職員からそうした声が挙がっているとしたら問題で、事実なら指導の在り方を見直さなければならないと思います」(篠木村長)
篠木村長は「M氏の指導が原因で辞めた職員はいない」という見解を示したが、前述した通り、M氏が住民生活課長を務めていた2017年度から2020年度にかけて、課内の職員が複数人退職したという。すべてがM氏の指導に起因しているかは分からないが、役場全体の退職者が年間1、2人という中で、1つの部署にこれだけ退職者が集中しているのは異常だ。にもかかわらずM氏の指導に問題はない、と結論付けていいのだろうか。
「M氏は部下を厳しく指導する一方で、『自分は行政職員に向いていないのではないか。退職した方がいいのかもしれない』と思い悩む若手職員のフォローを一切せず、突き放すだけなのです。それでは部下の管理ができているとは言い難いし、管理職として適性がないと言わざるを得ません」(ある現役職員)
パワハラ該当の可能性
M氏の一連の行為はパワハラに当たらないのか。厚生労働省の指針によると、①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるもの――の要素をすべて満たす場合にパワハラに該当すると判断される。
M氏の場合、優越的な関係=上司であり、厳しすぎる指導で就業環境を害しているので①、③は満たしているが、②通常の業務範囲を超えているとまでは断言できない。
地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、「パワハラの立証は難しく、多くは指導の範囲内に該当するので線引きがしづらいが、国の人事院規則でパワハラになり得る言動の事例を列挙しているので(別表参照)、それを参考にして判断するのも一つの手段です」と指摘する。
人事院規則に列挙されたパワハラになり得る言動の事例
一、暴力・傷害
ア、書類で頭を叩く
イ、部下を殴ったり、蹴ったりする
ウ、相手に物を投げつける
二、暴言・名誉毀損・侮辱
ア、人格を否定するような罵詈雑言を浴びせる
イ、他の職員の前で無能なやつだと言ったり、土下座をさせたりする
ウ、相手を罵倒・侮辱するような内容の電子メール等を複数の職員宛てに送信する
三、執拗な非難
ア、改善点を具体的に指示することなく、何日間にもわたって繰り返し文書の書き直しを命じる
イ、長時間厳しく叱責し続ける
四、威圧的な行為
ア、部下達の前で、書類を何度も激しく机に叩き付ける
イ、自分の意に沿った発言をするまで怒鳴り続けたり、自分のミスを有無を言わさず部下に責任転嫁したりする
五、実現不可能・無駄な業務の強要
ア、これまで分担して行ってきた大量の業務を未経験の部下に全部押しつけ、期限内にすべて処理するよう厳命する
イ、緊急性がないにもかかわらず、毎週のように土曜日や日曜日に出勤することを命じる
ウ、部下に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる
六、仕事を与えない・隔離・仲間外し・無視
ア、気に入らない部下に仕事をさせない
イ、気に入らない部下を無視し、会議にも参加させない
ウ、課員全員に送付する業務連絡のメールを特定の職員にだけ送付しない
エ、意に沿わない職員を他の職員から隔離する
七、個の侵害
ア、個人に委ねられるべき私生活に関する事柄について、仕事上の不利益を示唆して干渉する
イ、他人に知られたくない職員本人や家族の個人情報を言いふらす
今回の事例と照らし合わせると、「二、暴言・名誉毀損・侮辱」、「三、執拗な非難」、「四、威圧的な行為」が該当しそうだ。M氏は反省の意を口にするのであれば、自分の指導はどこが問題だったのか、こうした事例を参考に検証・改善していく姿勢が求められるし、職員もどの指導がパワハラ事例に当たるのかを確認しておくべきだ。
上林特任教授はこう語る。
「パワハラに関する事例は、往々にしてパワハラをする個人の資質や責任に焦点が当てられがちですが、パワハラが許され、必要な対策が講じられていない職場環境がパワハラを生み出している、と考える方が合理的です。業務量に対して職員が不足していたり、管理職の感覚が昭和で止まっている点が根本的に改善されなければ、パワハラを根絶することはできないと思います。いずれにしても、職員が精神疾患で自死した事例は実在するので、職員のケアは特に重視すべきです」
厚労省の指針では、職場におけるハラスメントに関する相談窓口を設置して労働者に周知するよう定められている。葛尾村役場にも設置されているが、最終的に総務課長が取りまとめ役となる仕組みなので、今回の件では機能しなかった。
篠木村長は「役場内に村長しか開けない意見箱を設置しているので、もしハラスメントがあったら私に直接伝えてほしい」と呼びかけるが、職員が信頼して投函するかどうかは不透明。透明性のある第三者調査を実施するなど、再発防止策を講じることも検討すべきではないか。
自浄作用に期待
ある自治体の元幹部は「労働組合の動きが重要になる」と強調する。
「組合活動が活発だったころは、首長や管理職の対応を厳しく追及したこともあった。今回の件も、組合が毅然とした態度で村と対峙すべきです」(元幹部)
ちなみにM氏は、筆者から組合のアンケート調査について尋ねられた際、次のように答えていた。
「組合活動は震災後すっかり停滞しているが、むしろ私は活発に活動するよう促しています。組合費を徴収しているのに、執行部に要望も出さず、イベントも行わず、総会すら書面決議で済ませている。組合役員になったからには責任を持って活動すべきです。『役員が活動もせず、名前だけで報酬をもらってもいいのか』と問いかけたこともあります」
挑発的とも言えるM氏の発言を、組合はどう受け止めるのか。
役場内の風通しの悪さは住民にも伝わり、M氏のプライベートに関するウワサと合わせて広まっている状況だ。原発被災自治体に高い志を持って入職した若手職員が、こうした状況に失望し役場を去るようなら村の未来にとっても大きな損失だ。「仕事に馴染めず辞めていく職員がいる」と嘆く姿勢ではなく「安心して働ける環境をつくる」ことこそ、復興途上の小さな村に必要なことではないか。
パワハラ的な指導が原因で職員が委縮し、役場の機能が低下すれば、今後の復興や住民サービスにも影響しかねない。自浄作用が働き、職員が安心して働ける環境が整うことを願う。

























