本誌7月号に「パワハラ横行 郡山市シルバー人材センターの病根」という記事を掲載した。事務局長から職員2人が執拗なパワハラを受けている実態と、そういう人物を制御できない同センターや業界の欠陥をリポートしたもの。その後、職員2人は事務局長と同センターを相手取り、1200万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こした。歪んだ組織を、本来あるべき姿に戻すにはどうすればいいのかを考える。(佐藤仁)
特定職員の「不可解昇給」に背任の疑い

郡山市シルバー人材センターの常務理事兼事務局長・相樂利次氏からパワハラを受けていると訴えるのは鈴木達彦さん(40代)と武田佳奈さん(50代)=いずれも仮名=。鈴木さんは勤続18年の正職員、武田さんは嘱託職員として10年勤務する。
本誌7月号では、2人が相樂氏から正当な理由を示されずに4月の昇給を見送られたことや長年パワハラを受けてきたこと、職員就業規則には「パワハラ禁止」と明記されているが、被害の申立先が相樂氏になっているため相談や調査が機能していないことなどをリポートした。
さらに組織の状況に目を移すと、理事長、副理事長らは非常勤で高齢のため、常勤の相樂氏が実質トップの立場にあり、最高決定機関の理事会に事後報告している形跡もあるなど、独善的な運営が行われている疑いも浮上した。

郡山市シルバー人材センターの運営には補助金が支給されているが、支給する郡山市は「補助金が適正に使われているかチェックするだけ」と話し、上部団体の県シルバー人材センター連合会(福島市)も「連合会と市町村のセンターは上下の関係ではなく連携していく関係性にあるので、我々が市町村のセンターを厳しく指導することはない」と述べるなど、外部から運営を改めさせる方法が見当たらないことも分かった。
これらの実態は遠藤さんと武田さんだけでなく、元職員や理事など複数の証言や関連資料によって判明したが、相樂氏を直撃取材すると、パワハラを否定するなど納得のいく答えは一切聞かれなかった(詳細は本誌7月号を参照していただきたい)。
ただ、記事が出た後に相樂氏が見せた行動は素早かった。
筆者の手元に「2025年7月号政経東北の記事について」というA4判の文書がある。郡山市シルバー人材センター理事会から県シルバー人材センター連合会や市町村のシルバー人材センターに送られたものだ。7月8日付となっているので、本誌7月号の発売から数日後につくられたようだ。

「政経東北の記事について」とはなっているが、その中身は記事を否定するのではなく、鈴木さんと武田さんの誹謗中傷に終始している。
鈴木さんのことは次のように書いている。
《今回の労使紛争は昇給の有無や、その他の要素から発生したようですが、いじめの発生が重要な位置を占めております。今から十数年前に一人の女性が鈴木達彦氏(※原文は実名明記)と文中(※本誌7月号)に出てくる元職員から陰湿ないじめを受け、心身を患い三度の入退院を繰り返した挙句退職に追い込まれました。あまりにも悲惨な状況に、職場内でのいじめだけは絶対に許せないと決議し、懲戒処分を図りましたが、いじめは非常に立証が難しいものです。いじめた方は否定するし、いじめられた方も証言などなかなかしません。ただ心労がたたって涙ながらに退職を選ぶしかなかったようです。いじめた方は素知らぬ顔》
鈴木さんは閉口する。
「相樂氏は昔から一貫して私が職員をいじめていたと言い続けているが、そんな事実は一切ありません。この間、何度否定しても相樂氏は聞き入れてくれなかったが、今回、このような文書まで出されて本当に迷惑しています。そこまで言うなら、いっそのこと私にいじめられたという職員を目の前に連れてきてほしいくらいです」
一方、武田さんのことは何と書いているのか。
《武田佳奈(※原文は実名明記)職員もしかり。絶賛されるほど口がうまいので、初対面や時々会う人は気が付かないと思いますが、常時接している人はたまったものではありません。怒鳴る、睨むなどは日常茶飯事であり、他の職員に言わせると女ボス的存在であり、現在も武田佳奈職員のハラスメントにより一女性職員が長期休職中であります。一人ではなく自分の取り巻き数人を巻き込んで一人を追い込んでいくのであり、その手口は巧妙で陰湿》
武田さんも呆れながら反論する。
「女性職員が一人、長期休職しているのは事実です。でも、それを私のハラスメントが原因だなんて……。そんな事実は一切ないし、そういうウソやデタラメを平気で書き連ねるなんて神経を疑います」
ここで注目されるのは、武田さんが「取り巻き数人を使って女性職員を休職に追い込んだ」と書かれている点だ。つまり武田さんだけではなく、郡山市シルバー人材センターの他の職員もいつの間にか加害者にされているわけで、不本意にも「取り巻き」に仕立て上げられた職員は相樂氏に厳重に抗議した方がいい。
ちなみに、文書は理事会が送ったことになっているが、実際は相樂氏が一人で作成し、理事会の承認を得て送っている。個人的な恨みを書き連ねた文書を、本誌記事への言い訳も兼ねて業界内にばら撒くのはどうかしていると思うが、そんな文書を送ることを良しとした理事会も正常な判断ができないことがあらためて示された形だ。普通は「この内容は問題だ」と異論を唱える理事がいてもいいはずだが、それが通ってしまうところに組織のガバナンスが機能していない様子がうかがえる。
中通りの某シルバー人材センターに勤務する職員は、郡山市シルバー人材センターから送られてきた文書を読んで唖然としたという。
「これって2人に対する名誉毀損になるのではないかと直感的に思いました。こんな誹謗中傷の文書を組織として送るなんて理解に苦しみます。読まされる方も気持ちのいいものではない。同じ文書を出すなら、政経東北の記事のどこが間違っているのか反論した方が同業者として受け入れ易かったと思います」
本誌の記事を読んだ直後に文書を読まされた他の市町村シルバー人材センターは、記事への反論ではなく職員2人の誹謗中傷が延々と綴られていたことに困惑したようだ。
刑事告訴も検討
記事が出た後も、鈴木さんと武田さんは徹底抗戦の構えを崩していない。9月19日には相樂氏と郡山市シルバー人材センターを相手取り、1200万円の損害賠償を求める訴訟を地裁郡山支部に起こした。
訴状の中で2人は、一連のパワハラをはじめ、正当な理由を示さずに4月の昇給を見送ったこと、2人が弁護士を通じて送った昇給見送りの理由を質す質問書に対し、相樂氏が事実に反する内容や2人の勤務評価を不良と中傷する内容を綴った回答書を寄せるなど、数々の精神的苦痛を受けたと主張。
さらに、ウソを綴った「2025年7月号政経東北の記事について」という文書を県シルバー人材センター連合会や他の市町村シルバー人材センターをはじめ、補助金を支給する郡山市や武田さんが郡山シルバー人材センターに就職するきっかけをつくってくれた恩人にもわざわざ送るなど、不特定多数の者にウソを流布し、2人の名誉を公然と毀損したとして、相樂氏には鈴木さんと武田さんにそれぞれ400万円(このうち200万円は郡山市シルバー人材センターとの連帯債務とする)、郡山市シルバー人材センターには相樂氏が主導した面があったとはいえウソの文書を送ることを理事会で承認したこと、2人の使用者として安心・安全な就労環境を整備する義務を怠ったとして、それぞれに200万円を支払うよう求めている。
相樂氏に請求した800万円のうち400万円を郡山市シルバー人材センターとの連帯債務としたのは、相樂氏の行動を制御できなかった同センターにも責任の一端がある、という意味が込められている。
鈴木さんは言う。
「私たちが提訴したことで、相樂氏は私たちが加害者になったいじめについて、証拠を揃えて証明しなければなりません。私たちの無実を晴らし、相樂氏がウソをついていることを法廷で明らかにしたい」
武田さんも続ける。
「民事訴訟だけでなく、相樂氏には不特定多数の人に文書を配り、私たちの名誉を毀損したとして刑事告訴することも視野に入れています」
民事だけでなく刑事でも争うというのだから「自分たちは間違っていない」という2人の覚悟と信念がうかがえる。
全国協会が事実関係を照会
争いの本筋からは外れるが、訴状には気になる一文がある。
《原告両名に対するこのような処遇の一方、被告法人の他の職員の中には、良好な成績の場合に「直近上位の号給」に昇格させることができるという前記職員給与規定を明らかに逸脱して、約半年で1号給、その後7カ月で2号給、さらに1年で4号給などの「飛び級」をして昇格している者も存在するようである。被告法人の事務に従事する者が、特定の職員について、職員給与規定を逸脱しこれに違背して昇給させていた場合は、当該特定職員の利益を図り、本来の給与額との差額分を特定職員に給付することで、被告法人に損害を与えたもので、背任となる可能性のあることは指摘しておく》
背任とは穏やかではないが、某女性職員が「飛び級」で昇給しているのは事実だ。分かっているだけでも初任給は月額18万円だったが、在職6年で月額37万円にまでアップしている。それからさらに年数が経過しているので、現在の給与額はいくらになっているのか。ここまでの昇給は同一職務、同程度の在籍期間の職員と比べても明らかに乖離していることが本誌の調査で判明している。
ちなみに、某女性職員は相樂氏と日頃から親しい間柄にあることも分かっている。もし私情が絡んで某女性職員だけ給与を上げていたとすれば、訴状にあるように組織に損害を与えた形になり、背任の疑いが浮上してくる。
冒頭に「外部から郡山市シルバー人材センターの運営を改めさせる方法が見当たらない」と書いたが、本誌7月号発売後、県シルバー人材センター連合会は「全国シルバー人材センター事業協会から『記事について事実関係を確認したい』という照会があった」として、相樂氏に▽鈴木さんをセンター事務所ではなく郡山駅前の駐輪場に常駐させる必要があると判断した理由は何か、▽過去に職員が長期にわたりセンター事務所以外で勤務したケースはあるか、▽武田さんが適応障害と診断されて休職規定の適用を希望した際、これを退けたという記事内容は事実か、▽事実である場合、休職規定を適用しないとした理由は何か――等々を問い合わせている。
全国シルバー人材センター事業協会は「事実とすれば問題」と捉えているようだが、残念ながら鈴木さんと武田さんへの聴き取りは行われていない。調査するなら当人たちにも確認し、相樂氏からの報告とすり合わせて事実関係を浮かび上がらせるべきではないか。
外部からの動きはほかにもある。鈴木さんと武田さんは労働基準監督署にも相樂氏のパワハラを相談していたが、9月と10月に労基署の職員数人が郡山市シルバー人材センターを訪問している。そこでどのような話が交わされたかは分かっていないが、9月に労基署の訪問があった翌日、事務所内にパワハラ防止のポスターが貼られた。パワハラが話題になったからポスターが貼られた、と考えるのが自然だろう。
県シルバー人材センター連合会も本誌7月号に「ハラスメントの研修会を開いたり撲滅の呼びかけをしている」とコメントしていたが、10月に市町村のシルバー人材センターを対象にオンラインによる研修会を2回開いた。11月には会合の開催が予定されている。
ただ11月の会合は、ハラスメントの勉強を最もしなければならないはずの相樂氏は欠席予定という。ちなみに相樂氏は、本誌7月号が発売された後に開かれている会合を軒並み欠席している。他の市町村シルバー人材センターの職員と顔を合わせるのはバツが悪いようだ。
「センターの主役は会員」
県シルバー人材センター連合会の佐藤義住専務に、相樂氏と郡山市シルバー人材センターが提訴された旨を伝えると「こじれてしまっているんですね……」と渋い表情を浮かべて次のように語った。
「記事が出た後、郡山の状況を心配する声を多く聞くようになっています。『連合会がきちんと指導すべきではないか』という指摘もありました。しかし、こういう問題をめぐって連合会が市町村のセンターに介入することはできない。なぜなら、人事権や資金に関する権限を持っていないからです。もし連合会に人事権があれば、問題を起こした人物を処分できる。資金に関する権限があれば、こういう使途はおかしいと注意もできる。しかし、市町村のセンターは各々が独立・運営しているので、問題解決も各々の組織に委ねなければならないのです」(同)
ならば、郡山市シルバー人材センターは一連の問題にどう向き合うべきなのか。
「シルバー人材センターは会員が主役です。ですから、会員がどう考え、どうしたいのかが大切になります。理事(任期2年)は総会で選出されますが、その総会で会員は『この理事はいい』『この理事はダメ』と意思表示をすることができます。そこで正式に選出された理事が理事会を開いて理事長、副理事長、常務理事を選出するので、理事にも適切な判断が求められます。そうやって本来あるべき組織の姿に戻していくことはできるはずです」(同)
佐藤専務には、某女性職員が「飛び級」で昇給していることも伝えたが、佐藤専務はここでも「うーん」と渋い表情を浮かべた。
「そこは監事がきちんとチェックすべきです。その結果、おかしな昇給が確認されれば、センターに損害を与えたとして、センターが当該人物を背任で訴えることも、もしかしたらできるかもしれません」(同)
最後に、佐藤専務はこう言った。
「連合会に何とかしてほしいと求めるのではなく、会員、理事、監事が今ある規程の中で各々の役目を果たせば、組織は本来あるべき姿になるはずです。郡山には『自分たちでしっかりやってください』と言いたいですね」
来年5月に開かれる総会では理事の改選がある。そこで提案された理事の顔ぶれを見て、会員がどのような意思表示をするかが、郡山市シルバー人材センターを本来あるべき姿に戻す試金石になりそうだ。
取材を締めくくるに当たり再び相樂氏を直撃取材すると、無表情で次のように答えるのみだった。
「弁護士に一任しているので、私から話すことは一切ありません」
鈴木さんと武田さんの行動をきっかけに、郡山市シルバー人材センターは正常化に向かうのか。
























