いわき市小名浜地区と言えば観光地であり、漁業のまちであり、震災・原発事故の影響を受けたまちというイメージがある。
しかし、小名浜地区在住のローカルアクティビスト(地域活動家)・小松理虔さんは「東北にも関東にもなりきれず、東北随一の観光地にも漁業のまちにもなりきれず、猥雑なソープランドや工場群がある〝中途半端〟なまち」と断じる。
震災・原発事故の被害もそこまで大きくなかった小松さんは、自身や地元の〝中途半端〟さを自覚しながらも、複合災害で被害を受けた地域の〝当事者〟としてさまざまな活動に取り組んできた。中小企業や生産者の広報支援、フリーライターとしての執筆などを続け、2018年、『新復興論』(ゲンロン)で大佛次郎論壇賞を受賞した。
地域に根差した生活者の視点で復興や地域、福祉などについて論じ続けてきた小松さんが5月に出版したのが『小名浜ピープルズ』(里山社)だ。〝中途半端〟なまちで暮らす自分以外の人はどんなことを考えて行動しているのか。小松さんが家族・友人・知人に取材して、エッセー風にまとめた。
「執筆のきっかけは連載記事の依頼でしたが、持論を展開するより、対話を通して考えを深める方が、より遠くに言葉が届くと考えたのです。僕自身、人の話を聞くことや、周囲の考えに触れることに強い関心を持っていたというのも大きいです」(小松さん)
当初は「全員知り合いなら手っ取り早く取材できる」と考えていたが、予想外の話が飛び出したり異なる価値観に触れることが多く、簡単ではない取材が続いたという。
「自分と意見が違うからと言って関係を断つわけにもいかないので、咀嚼して受け止め、自分自身も変化していくというプロセスを幾度も体験しました。ネット上では互いに激しく否定し合う議論が目立ち、原発事故や政治をめぐっては対立が深まっている様子もみられますが、まずは想像力を働かせて互いの意見に耳を傾けることが大事だとあらためて感じました」(同)
登場するのは、小名浜地区の食堂の女将や水産業関係者、そしてユニークな取り組みに挑戦する人たち。個性的な「ピープルズ」との対話を通して、話題は震災・原発事故、ALPS処理水海洋放出、常磐炭鉱へと広がっていく。
小松さんが印象に残っているエピソードとして挙げるのが、新聞社の若手社員研修ツアーのガイド役として、双葉町の双葉高校を視察したときの出来事だ。案内を頼んだ同校OG2人は楽しそうに思い出を語るばかりで、震災・原発事故にはほとんど触れなかった。小松さんはそこで、自分が〝被災地らしさ〟を双葉町や大熊町に押し付け、被災地を消費していたことに気付かされた。一つの事象から平易な言葉で論を重ねていくスタイルは小松さんならではだ。
出版後に開いた対話イベントでは、「震災・原発事故についての意見はあるが、当事者ではない自分が軽々に語れないという葛藤がある」という声が寄せられ、〝中途半端〟という言葉に共感を示されたという。
小松さんはこのように語った。
「有名な専門家や報道でおなじみの〝当事者〟だけでなく、自分は〝中途半端〟と思える人でも震災・原発事故との接点があり、重みのある言葉を持っているということをこの本を通して伝えたかったのです」
対話の可能性を広げた一冊と言えよう。

























