6月15日、小泉進次郎農水相が来県し、いわき市、浪江町、南相馬市、二本松市、福島市の生産現場などを視察した。南相馬市小高区で米価について農業法人代表者などから意見を聞いたシーンは、テレビニュースで盛んに取り上げられた。
視察場所であるいわき市の小名浜魚市場前の沿道には小泉氏の姿を一目見ようと人が集まっていた。視察後、小泉氏はバスに乗り込むと、窓を開けて手を振り、車が動き出した後はわざわざ反対側の座席に移動し、窓から身を乗り出して手を振った。
沿道からは「コメありがとう!」という声が飛んだ。小泉氏は「令和の米騒動」で米価が高騰する中、随意契約による備蓄米売り渡しを推し進め、米価下落を実現しつつある。その動きが評価され、ヒーロー視されている様子を目の当たりにした。
小泉氏は環境相時代から「福島の復興がライフワーク」と公言しており、原発敷地内からいわゆるALPS処理水が海洋放出された直後の2023年9月には南相馬市の坂下海岸でサーフィンをしたり、常磐もののヒラメの刺し身を食べて安全性をPRした。そうしたこともあって、小泉氏に親近感を持つ県民もいるのだろう。
ただ、小泉氏は環境相時代、原発事故により発生した除染土を貯蔵する「中間貯蔵施設」について、地権者会との団体交渉を一方的に打ち切った冷徹な一面も持つ。
中間貯蔵施設の面積は約1600㌶で、地権者は約2360人に上る。環境省・中間貯蔵施設情報サイトによると、5月末時点で1911人(81・0%)と土地取得の契約を結び、民有地1270㌶のうち1219㌶が契約済みとなっている。契約は売買以外に、地上権を設定することもできる。
一部の地権者を中心に構成される「30年中間貯蔵施設地権者会」(門馬好春会長)は、30年後の確実な土地返還を担保する契約書の作成、地上権契約の補償額の是正などを求めており、環境省と46回にわたり団体交渉していた。
特に地上権契約に関しては、一般の公共事業に土地を提供した場合の地代より補償額が低く設定されており、除染の仮置き場として土地を数年間提供した地権者の方が受け取り金額が高くなる〝逆転現象〟が起きていた。そのため、同地権者会では「公共事業の用地補償に関しては明確なルールがあり、地権者への地代の割合まで定められている。なぜ破格に安い地上権価格を設けたのか」と厳しく追及していた。
環境省が動いたのは2021年4月。同地権者会が交渉の中で弁護士・代理人の同席を求めたところ、環境省が拒否。同地権者会は「直接伝えれば話を分かってもらえるかもしれない」と当時環境相の小泉氏宛てに撤回要望書を提出したが、同月中に同省職員を通じて団体交渉の打ち切りを電話で通告された。環境省の言い分は「団体交渉は平行線をたどるばかりで、用地補償の理解が得られない」というもので、半強制的に個別交渉に移行させられた。
同年5月、環境省が主催した除染土の再生利用・県外最終処分に関する対話フォーラムで、小泉氏は「除染土をめぐる問題については、一人ひとりが『風評加害』(風評の原因を作る言動・報道)をしないように心がける必要がある」と話した。原発事故は原発政策を進めてきた国にも責任があるのに、大臣としてまるで他人事な言いぶりに終始した。
スピード感ある対応で結果を残し、参院選前に自民党の支持率アップにも貢献するなど存在感を示す小泉氏だが、県内では環境相時代の言動から冷ややかに見る人がいるのだ。
