空き家解体「行政代執行」に潜む課題

空き家解体「行政代執行」に潜む課題

 近年は全国的に空き家問題が深刻化している。管理されていない空き家にはさまざまな危険が伴うため、行政が空き家解体を代執行する法制度ができ、実際にそうした事例も増えている。県内では、昨年10月に初めて只見町で空き家解体の行政代執行が行われ、今年8月には白河市で行政代執行が実施された。県内ではまだこの2例だけだが、同様の事例は今後増えていくと予想されることから、そこに潜む課題などについて考えてみる。

県内では只見町と白河市の2例のみ

 近年は取材先で「この地域では空き家が増え、高齢者の一人暮らし、あるいは高齢者夫婦のみで生活している世帯も少なくない」といった話を耳にすることが多くなった。高齢者の一人暮らし、高齢者夫婦のみの世帯の多くは、子どもはいるけど遠方(都市部)に住んでおり、じいちゃん・ばあちゃんだけで生活しているということ。その人たちが亡くなったら、そこも空き家になってしまう可能性が高い。こういった事例は今後増えていくだろう。

 空き家が増えるとどんな問題が起きるのか。管理されていない空き家は、倒壊の恐れや景観悪化、害虫・悪臭などの衛生上の問題が指摘されている。以前、本誌が取材した事例では、会津若松市と喜多方市でクマが空き家に居座るという事件もあった。さらには、放火や不法侵入・占拠、違法な薬物の取引・使用の隠れ家に使用されたりと、犯罪誘発のリスクもある。

 とはいえ、空き家は個人の所有物である。それを勝手にどうこうすることはできないというのが、かつての状況だった。ただ、空き家の増加と、前述のようなリスクが深刻化してきたことから、2014年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、空き家特措法)が制定、2015年に施行され、空き家解体の行政代執行が可能になった。

 具体的には、放置された空き家が「倒壊など著しく危険な状態」「著しく衛生上有害な状態」「景観を損なっている状態」「その他、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態」と認められた場合、自治体が「特定空き家」に認定する。認定後は、所有者に対して前述の状態の改善などを求める①助言・指導→②勧告→③命令といった段階的な措置を講じることができる。最終段階である「命令」に従わない場合は、自治体が所有者に代わって解体を行い、その費用を所有者に請求することが可能になった。これが空き家解体の行政代執行である。

 こうした法制度ができて10年ほどが経つが、昨年まで県内では空き家解体の行政代執行の事例はなかった。県内初となったのが、昨年10月に只見町で実施されたケース。

 只見町の現場は、国道252沿いの蒲生地区で、町中心部から3〜4㌔ほど北東に行ったところ(地図参照)。叶津川を渡るJR只見線の高架橋が近くにあり、鉄道好きの写真撮影スポットでもある。周辺にクルマを止め、写真撮影をしようとする人がいる近くに、危険な状態あるいは衛生上問題がある空き家が存在している状態だったのだ。

只見町の現場跡地 地図
只見町の現場跡地
只見町の現場跡地

 町によると、築年数は約65年で20年以上前から空き家になっていたという。崩壊の恐れがあると判断した町は、「特定空き家」に指定し、前述した①助言・指導→②勧告→③命令といった手順で、所有者に対策を求めてきた。しかし、適正な処置がなされなかったことから、昨年10月に解体の行政代執行を実施した。現在は更地になっている。

 町によると「当然、初めてのことで県内でも事例がなかったため、近県の自治体や直近で行政代執行を行った自治体にいろいろと聞いて、実施に至った」とのこと。

 白河市で県内2例目

白河市の現場跡地 地図
白河市の現場跡地
白河市の現場跡地

 今年8月には白河市で、県内2例目となる行政代執行が行われた。場所は市役所の近くで、市役所の南側を流れる谷津田川(やんたがわ)沿いに東に400㍍ほど行ったところ。

 市によると経過は次のとおり。

 2022年11月14日▽空き家特措法2条2項に基づき「特定空き家」に認定

 同年12月2日▽空き家特措法14条1項に基づき「助言・指導」

 2024年4月26日▽空き家特措法22条1項に基づき「助言・指導」

 同年11月29日▽空き家特措法22条2項に基づき「勧告」

 2025年4月4日▽空き家特措法22条3項に基づき「命令」

 同年5月16日▽行政代執行法3条1項に基づき「戒告」

 同年7月31日▽行政代執行法3条2項に基づき「代執行令書の送付」

 同年8月20日▽行政代執行に着手

 市が発表したリリースには次のように記されている。

   ×  ×  ×  ×

 当該特定空家等は、屋根の大部分が崩落し、外壁には大きな亀裂が生じており、倒壊すれば前面道路の通行人や隣家に被害を及ぼすおそれがあるため、これまで所有者に対し、再三にわたり建物の解体等その他保安上必要な措置を講ずるよう働きかけてきましたが、措置を講ずることなく保安上危険な状態を放置しています。

 屋根の崩落箇所から雨水が侵入すれば構造部材の腐朽は進行し、強風等により外壁の亀裂は拡大するため、倒壊の危機が切迫した状況となっています。

 このまま放置すれば倒壊は不可避であり、所有者による自主的な解消は見込めないことから、空家法第22条第9項の規定に基づき行政代執行を実施するものです。

   ×  ×  ×  ×

白河市の解体前の特定空き家(市発表リリースより)1
白河市の解体前の特定空き家(市発表リリースより)1

白河市の解体前の特定空き家(市発表リリースより)2
白河市の解体前の特定空き家(市発表リリースより)2

 写真は市のリリースより。航空写真で屋根の大部分が崩落していることが分かるほか、外壁に大きな亀裂が生じていることがうかがえる。放置しておいたら危ないといった判断から、特定空き家への認定を経て、行政代執行に踏み切った。

 市によると、只見町同様、県外の先行事例を参考にして実施に至ったという。

 近隣住民は「屋根が崩落して、危ない状況だった。おばあちゃんが1人で暮らしていたけど、亡くなってからは使われてない。それも20年以上前の話だよ。お子さんがいたけど、いまはどこに住んでいるのか分からない。市では把握しているんだろうけど」と話した。

 空き家特措法ができ、空き家解体の行政代執行が可能になってから10年ほどが経つが、県内で行政代執行が行われたのはこの2例のみ。ただ、今後はこうした事例が増えていくのは間違いない。

 その根拠はこうだ。冒頭に、近年は空き家が増えているほか、高齢者の一人暮らし、高齢者夫婦のみの世帯も多く、その人たちが亡くなったら、そこも空き家になってしまう可能性が高い、と書いた。それはデータで見ても分かる。

 総務省統計局が5年ごとに実施している2023年版「住宅・土地統計調査」によると、県内の空き家の数は13万1000戸で、前回(2018年)調査から、7500戸増(6・1%増)となっている。県内の総住宅数は86万4100戸で、空き家率は15・2%となり、全国平均の13・8%を上回る水準にある。空き家の種類別にみると、賃貸用5万8900戸、売却用5500戸、二次的住宅(別荘など)5500戸、その他(放置空き家含む)6万1000戸となっている。

 この「その他6万1000戸」のうち、放置空き家がどのくらいの割合を占めるのかは不明だが、相当数の〝特定空き家予備軍〟がいることがうかがえよう。

 こうした理由から、今後、特定空き家の認定数や空き家解体の行政代執行の事例は増えていくと指摘したわけ。とはいえ、自治体の本音は「なるべくならやりたくない」と考えているはず。

最大の課題は費用回収


 その理由は、行政代執行にはいろいろな課題があるからだ。

 1つは所有者の特定と意思確認が難しいこと。所有者がすでに亡くなっている、相続人が多数いる、相続放棄されているなど、空き家は所有者の特定が難しいケースがあり、解体に必要な所有者の同意を得るまでにさまざまな課題をクリアしなければならなくなる。前段で述べたように、行政代執行を行うには、所有者に対して、事前に助言・指導、勧告、命令といった通知を行う必要があるため、所有者が特定できなければそこに進めない。所有者を特定できたとしても、高齢・病気・認知症などで判断できる状態にないこともあり得る。

 2つは手続きの負担。行政代執行は、所有者の財産権に関わるため、厳格な手続き(特定空き家の認定、事前通知、命令、代執行の実施、費用徴収など)に基づいて進める必要があり、時間と労力がかかる。

 3つは費用回収でこれが最大の問題と言える。行政代執行によって生じた解体費用は所有者に請求することになるが、そもそも所有者に経済的余裕があれば空き家を放置しておかない。解体したり、修繕して売りに出したりといったゆとりがないから放置されているのだ。その所有者に、行政代執行で解体したから費用を払えと言っても、払えない(支払い能力がない)ということになり、費用回収が困難になる。

 なお、解体が行われると、固定資産税の優遇措置(住宅用地特例)が解除され、土地の固定資産税が最大6倍になる。そのことも、所有者が解体をためらう一因になっている。

 行政代執行は自治体が一時的に立て替える仕組みで、その費用は公費、すなわち税金である。それが回収できないとなれば自治体の損失になる。

 実際、只見町の事例では解体費用として約300万円かかり、その分は所有者に納付を求めているが、支払われていないという。解体(行政代執行)から1年ほど経っているにもかかわらず、である。

 一方、白河市の事例では、「解体は終わっていますが、これから検査を行い、その後、所有者に請求することになります」(白河市建築住宅課)とのこと。

 本誌取材時の10月中旬時点で、まだ請求には至っていないが、前述したような事情から、支払われる可能性は極めて低いと考えられる。なお、同市のケースでは、当初は解体費用を約420万円と試算していたが、「実際はもう少し少なくなりそう」(同)とのこと。それでも、400万円近い金額が請求されることになる。

 ちなみに、只見町、白河市の事例ともに所有者(相続者)は地元を離れて暮らしているようだ。

 こうして見ても、費用回収が難しいことが分かる。

 一方で、国土交通省と総務省の「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」という調査によると、法制定から2023年度までに空き家解体行政代執行が行われたのは213件ある。そのほか、災害時など特に緊急性が高い場合に、事前の通告なしに実施される略式代執行が510件。

 県外ではかなりの空き家解体行政代執行の事例があるが、所有者から費用が支払われたというケースは少ないと思われる。国土交通省発表の「地方公共団体の空き家対策の取組事例」によると、多くは解体後の土地の差し押さえ→公売によって費用回収に充てている。公売の結果、落札者がいなかった場合や応札した人がいても最低入札価格に至らなかった場合は自治体の土地にするケースもあるようだ。

買い手は現れるか


 これを踏まえて、あらためて只見町と白河市の事例を考えたい。只見町の現場は前段で述べた立地だが、近隣住民によると「(行政代執行で解体されたところの近くを指差し)もともとはあそこにも家があった、あっちにも家があった。けど、誰も住まなくなって取り壊された。ほかにも、この地域には空き家がある」という。地域内に誰も住まなくなって家が取り壊された跡地や空き家があるという状況の中、行政代執行で解体されたところを買う(公売で落札する)人が出てくるかと言うと、かなり厳しいように思える。そう考えると、町の土地にするしかないのではないか。

 町によると、今回行政代執行を実施したところのほか、町内にはもう1つ特定空き家に認定されているところがあるという。「そこは、すぐにでも解体しなければならないような状況ではない」(町交流推進課)とのことだが、適正に管理されなければいずれは解体が必要な状況になる可能性はある。ほかにも、空き家は増えており、時間の経過とともに特定空き家の増加→行政代執行による解体といった事例は増えていくのではないか。そうなると、町内の至る所に町の土地が点在するといった事態になりかねない。

 一方、白河市のケースは市役所から近く、比較的いい立地と言える。近隣住民によると、「この辺(行政代執行によって解体されたところの前=谷津田川沿いの道路脇)は桜並木なんですよ。そういうロケーションを生かして上手く活用できないものかね」と話していたが、いかんせん敷地が約30坪しかなく狭い。

 市では行政代執行後の解体費用回収に向けて、差し押さえ・公売を見据えてか、不動産会社に事前に相談したそうだが「あれだけの敷地面積ではなかなか買い手は付かない」と言われたのだという。立地的にはよさそうだが、敷地面積の問題から差し押さえ・公売に付しても、買い手が付くかどうかは不透明だ。

 ちなみに、同市では今回のケースのほかにあと9軒の特定空き家があるという。

 今後、特定空き家、行政代執行による解体といった事例は増えていくことが予想される。危険な状態、衛生上良くない状態を解消するという点では、行政代執行による空き家解体ができるようになったのは良かった。とはいえ、いまの状況では、所有者は「どうせ使わない土地・建物だし、ほっといてもそのうち自治体が何とかしてくれるだろう」といった考えになりかねない。そういった部分も含めて、さまざまな問題があることが分かっていただけよう。只見町、白河市に限らず、今後、多くの自治体がこの問題に向き合わなければならなくなるだろう。

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