町営住宅滞納家賃回収で露呈した矢吹町の職務怠慢

町営住宅滞納家賃回収で露呈した矢吹町の職務怠慢

 矢吹町が進める町営住宅の滞納家賃回収をめぐりトラブルが起きている。入居者の連帯保証人になった覚えのない人が滞納家賃の支払いを迫られ、町に拒否する意向を伝えている。気になるのは、町が本来やるべきことをやらずに滞納家賃回収を弁護士に業務委託した点と、弁護士が業務委託の範疇を超えて滞納家賃を回収しようとしている点だ。

弁護士の高圧的な催告書に連帯保証人が激怒

催告書には「裁判手続」「町営住宅の明渡し」と書かれていた
催告書には「裁判手続」「町営住宅の明渡し」と書かれていた

 会津地方在住の田村雄二さん(仮名、70代)は1月、矢吹町から届いた「町営住宅滞納家賃等のお支払いのお願い(催告書)」を見て驚いた。町営住宅に住む木本悦子さん(仮名、50代)が家賃の支払いを怠っているので、連帯保証人の田村さんに全額を一括で払ってほしいという要請だった。

 田村さんが請求されたのは65万1300円で、納付期限は2月14日。催告書には「お支払いもしくはご連絡のない場合、裁判手続きにて請求する。現在入居されている方については町営住宅の明け渡し(退去)を求める」とあった。もう一人の連帯保証人・森直之さん(仮名)の名前も書かれていた。差出人は町から滞納家賃回収を委託された公園通法律事務所(愛知県一宮市)だった。

 しかし、田村さんには連帯保証人になった記憶が一切なかった。一方で入居者の木本悦子さんとは一時期、親子関係にあった。

 「悦子は前妻の実子で、前妻と結婚した際に養子縁組をして田村姓になった。ただ、前妻とは3年で離婚し、悦子とも協議離縁して木本姓に戻った」(田村さん)

 もっとも、戸籍上は親子ではなくなったが、木本さんとは今も良好な関係。となると、田村さんが木本さんの連帯保証人になったとしても不思議ではないが……。

 「それとこれとは別。私は絶対に連帯保証人になっていない」(同)

 そう言って田村さんが記者に見せたのは、町から取り寄せた町営住宅の入居請書だった。そこには使用者の欄に「田村悦子」、入居年月日の欄に「H3年10月12日」、連帯保証人の欄に田村さんと森さんの名前、住所、電話番号、生年月日、勤務先が書かれている。田村と森の印鑑も押されている。

 田村さんによると、この入居請書には不可解な点がいくつもあるという。まずは使用者が「田村悦子」になっていること。戸籍謄本では木本悦子さんが田村さんと養子縁組して田村姓になったのは平成5年で、町営住宅に入居した平成3年当時は結婚して芳賀姓(仮名)だったので、使用者の欄は「芳賀悦子」になっていなければおかしいという。

 次に連帯保証人の筆跡だ。入居請書にある田村さんと森さんの筆跡は同じに見える。「明らかに私の筆跡ではない」と田村さん。後日、この筆跡は前妻のものであることが分かった。田村さんいわく「前妻が勝手に私と森さんを連帯保証人にしたようだ」。森さんは町内の飲食店オーナーで、悦子さんは当時、森さんの店に勤務していた。

 最後は、入居請書に発行日を示す日付が記載されていないことだ。これでは作成日がいつか分からず、入居請書としての効力を有しているかは疑わしい。

 「こういうデタラメな入居請書を根拠に滞納家賃を請求するのはいかがなものか。そもそも町は、私が連帯保証することを了承したのか本人確認を怠っていた。こういういい加減な仕事をしていた町の姿勢が、私は一番許せない」(田村さん)

 さらに田村さんは、高圧的な催告書を送付してきた公園通法律事務所にも苦言を呈する。

 「弁護士からいきなり『滞納家賃を払え』と通知が来たら普通の人はギョッとする。いろいろな事情があって家賃を払えないのに『払わなかったら裁判だ。退去してもらう』と言われたら、大抵の人はどうしていいか分からないと思う」(同)

 こうした事情を踏まえ田村さんは3月、連帯保証人になった事実はないとして、町と公園通法律事務所に支払い拒否を伝えるとともに「催告書は行政処分と思慮されるので、処分の取り消しと謝罪を求める」とする通知書を内容証明郵便で送った。5月下旬時点で町と同事務所から返答はないという。

 もう一人の連帯保証人である森さんには、多忙を理由に話を聞くことができなかった。森さんの飲食店の従業員は「その件なら、町と話して決着したとオーナーから聞いた」と言っていたが、どんな決着が図られたのかは分からなかった。

 家賃滞納の当事者である木本悦子さんは催告書を受け取ってどう思ったのか。

 「弁護士から通知が来た時はびっくりしたし、父や森さんには申し訳ないことをしたなって。ただ、連帯保証人の件は覚えていなくて、あとで母親(田村さんの前妻)が書いたことが分かりました」(木本さん)

 木本さんは①2019年2月分、②2020年6月から2023年11月までの分(何回か払っている月もある)、③2024年4月分として計65万1300円が未納になっていたが、なぜ支払わなかったのか。

 「コロナで勤務日数が減り、そこに体調不良や交通事故などが重なって解雇され、収入が不安定になってしまって……」(同)

 ただ催告書を受け取ったあと、木本さんは公園通法律事務所が開いた個別相談会に参加し「今の給料なら家賃(1万4000円)のほかに滞納分をいくら払えるか話し合い、計2万円を毎月払うことで決着しました」(同)。弁護士からは「退去してもらおうとは思っていない」「もし払えなくなったら相談してほしい」と言われ、安心したという。

 突然の催告書には驚いたが、その後の弁護士の対応に問題はなかったようだ。とはいえ、木本さんの話には気になる点も。

滞納者に直接催促せず

 「大前提として、悪いのは家賃を滞納した私です。ただ、役場からは滞納分を請求されたことは一度もありませんでした」(同)

 木本さんによると、年に一度、町営住宅の窓口になっている町都市整備課に出向き、所得申告をして今後1年間の家賃額が設定されるが、

 「『今年は催促されるかな』と毎年ビクビクしながら役場に行くが、町職員と直接顔を合わせているのに、滞納分を払うよう言われたことは今まで一度もなかった」(同)

 目の前に長期滞納者がいるのに、職員が催促することは一切なかったというのだ。家賃徴収は町営住宅を管理する町にとって大事な仕事のはずだが、担当職員は怠っていたことになる。ちなみに木本さんの友人も家賃を長期滞納していたが、「町役場で担当職員に会っても督促されたことは一度もなかった」(木本さんの友人)。

 前出・田村さんが最も許せないとするのがこれだ。すなわち、町が本来やるべきことをやらずに弁護士に依頼したことが、田村さんには職務怠慢としか映らないのである。

 「町がやるべきことをやって、それでも滞納家賃を回収できないから弁護士に委託する、というなら話は分かる。しかし、滞納者が目の前にいても催促しないのは、怠慢を通り越して職務放棄だ」(田村さん)

 そんな田村さんの怒りの矛先は公園通法律事務所にも向かう。

 「弁護士が町から委託されたのは滞納家賃回収に関する事務全般のはずで、実際の回収は委託されていないと思う。なぜなら、滞納分を回収するために裁判を起こしたり入居者に退去を求めるのは町で、それには議会の議決が必要だからだ。にもかかわらず、弁護士は催告書に『払わなかったら裁判だ。入居者には退去してもらう』と書いた。委託業務の範疇を超えた越権行為であることは明らかで、催告書を受け取った人は脅し文句に感じたはずだ」(同)

 町都市整備課によると、町内には町営住宅が7団地287戸(入居率約58%。以下同)、災害公営住宅が52戸(約83%)、定住促進住宅が60戸(約37%)、計399戸(約58%)ある。滞納家賃の総額は約4450万円で、最も古い人は1997年から現在も未納が続いている。ただ、滞納を理由に裁判を起こし退去させたことは一度もないという。

 町は「連帯保証人になった事実はない」とする田村さんの主張をどう受け止めるのか。都市整備課の有松泰史課長はこう話す。

 「入居請書に書かれている内容は正式なものと考えています。そもそも役所に提出される書類に最初からウソが書かれているとは思っていない。役所が『連帯保証人はこの人で間違いないか』と本人確認をすることもありません。筆跡が違うという指摘は、あくまで田村さんと書いた人(前妻)の問題だと思います」

 この点を県に確認すると、県営住宅の連帯保証人も県が本人確認をすることはないという。「行政は申請主義なので、書かれている内容に疑問を差し挟むことはしない」(県建築住宅課)。ちなみに県営住宅は民法改正を受けて2020年4月から連帯保証人が不要になり、緊急連絡人を2人確保するだけでよくなった。矢吹町は、町営住宅等条例や施行規則を見ると今も連帯保証人が必要だ。

やるべきことをやるのが筋

 「入居請書に不可解な点がいくつもある」という指摘には何と答えるのか。

 「入居者の姓が違っているのは、田村姓に変わったタイミングで入居者変更の届け出をしてもらったからだと思います。発行日を示す日付がないなど、いくつか不備があるのは事実だが、町としては有効な書類と認識しています」(前出の有松課長)

 田村さんが町に送った通知書に未だに返答していないのは「田村さんは行政処分を科されたと主張していますが、そうではないので返答していません」(同)とのこと。

 ただ、木本さんの「町から滞納分を請求されたことは一度もない」という証言については、一転して歯切れの悪い回答に。

 「町営住宅の担当者が一人しかおらず、入退去の手続きや建物の修繕に追われ、滞納家賃の回収業務は一切できずにいました」(同)

 町が本来やるべきは、家賃滞納者に督促状を出し、数カ月応じなければ催告書を出し、連帯保証人にも請求して、それでも応じなければ裁判を起こしたり退去を迫るが、「督促状を出すところまでしかやっていなかった」(同)。職員不足はやむを得ないし、滞納家賃回収のために夜討ち朝駆けまでやれとは言わないが、長期滞納者が目の前にいる状況で直接納付を促さないのは職務怠慢と言われても仕方がない。

 町では2023年度から公園通法律事務所に滞納家賃回収を業務委託し、委託料は2023年度が140万円、2024年度が500万円。委託している業務は入居者の身辺調査、催告書の送付、回収不能になった場合のアドバイスなど。裁判を起こして滞納分を回収したり入居者に退去を求める行為は「町が議会の議決を経て行うもの」(同)であり、同事務所には委託していない。にもかかわらず催告書にその旨が明記されている点について、有松課長は「詳細が分からないので法律事務所に確認したい」と述べるにとどめた。

 公園通法律事務所にも①支払いを拒否する田村さんにどう対応するのか、②町から業務委託されていない裁判や退去を示唆する文言を催告書に書いた根拠は何か――と質問したが「弁護士法上の守秘義務があるので答えられない」との回答だった。

 職員数の少ない自治体では滞納家賃回収を弁護士に委託するケースが増えているが、県外では高圧的な口調で連帯保証人から取り立てようとする弁護士もおり、トラブルに発展している。滞納家賃回収は住民の公平性や行政の収入を確保する観点から進めるべきだが、行政として最低限やるべきことをやった上で弁護士に業務委託するのが筋だろう。弁護士に支払う安くない委託料は、税金から捻出されているのだから。

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