棚倉町のゴルフ場「棚倉田舎倶楽部」で、コースの一部に太陽光パネルを設置する計画が浮上している。これに対し、有志から約3000筆の反対署名が提出された。地元ファンも多く東白川郡で唯一のゴルフ場だけに、メガソーラーが設置されることへの抵抗感は強いようだ。
反対署名3000筆の背後に支配人への不信感⁉
この問題が世間の関心を集めたのは、写真週刊誌『FLASH』が1月31日に「石川遼、父経営の名門ゴルフ場に大量の『ソーラーパネル』計画…反対署名3000筆でも〝我関せず〟のごり押し」という記事を配信したことが発端だった。
それによると、
▽太陽光パネルの設置が計画されているのは東、中、西とある3コース(計27ホール)のうちの西コース。
▽署名運動の先頭に立っているのは、かつて棚倉田舎倶楽部で研修生として働いた経験のあるティーチングプロの藤井誠氏。
▽反対署名は昨年12月25日に須藤勇次支配人に手渡されたが、その場には村越誠商工会長や宮川政夫町長ら有力者の姿もあった。
▽須藤支配人は「2025年は3コース27ホールで営業する」と述べた。(※)
※昨年末の地元紙報道では「太陽光発電事業の詳細は分からない」ともコメントしている。
地方のゴルフ場で起きた出来事に中央の週刊誌が注目したのは、見出しにもある通り「石川遼プロ」が関わっているからだ。棚倉田舎倶楽部を運営する棚倉開発㈱は石川選手の父・勝美氏が社長を務めている。
棚倉田舎倶楽部は、2013年まで日米大学対抗ゴルフ選手権が開催されるなど県内有数の名門コースとして知られる。そんなゴルフ場を運営する棚倉開発の全株式と経営権を2018年9月に前オーナーから買い取ったのが、ケーアイ企画㈱(埼玉県松伏町)という会社だった。役員は代表取締役・石川由紀子氏、取締役・石川遼氏。由紀子社長は石川選手の母親である。
ケーアイ企画がオーナーとなった棚倉開発は、石川勝美氏が2018年9月25日付で社長に就任。同12月にはジュニア親子大会を開いたが、この時、勝美氏は「ジュニアの育成はもちろん、ハードルの低いゴルフ場というのも考えている。多様なゴルフの形があるというノウハウを示せたら」(ゴルフサイト『ALBA.Net』同年12月26日付)と抱負を述べていた。同大会には石川選手も参加していた。
地元マスコミ関係者によると「勝美氏は社長就任時、地元貢献に意欲を示していた。石川選手が描く構想を具現化するゴルフ場にしたいとも考えていた」という。メガソーラー計画は、当時の意気込みからだいぶかけ離れてしまっている。
『FLASH』の記者は1月22日に石川勝美氏を直撃し、メガソーラー計画について聞いている。
――反対の署名が3000筆集まっていることについては?
「計画どおりに進めます」
――計画どおりに進める?
「はい。計画中なんで」
須藤支配人に反対署名が渡されたことは昨年末の地元紙でも報じられたが、その時はあまり話題にならなかった。それが『FLASH』で報じられると、石川選手が関わるゴルフ場ということもあり、SNSで広く関心を呼ぶことになった。
筆者は『FLASH』にも登場する棚倉町商工会の村越誠会長に取材を申し込んだが、同商工会事務局を通じて
「反対署名に対する(棚倉田舎倶楽部の)出方を待っているところなので、取材を受けるのは控えたい」
と断られた。署名した約3000人がどういう人たちか知りたかったが、事情通によると「町内の練習場にも署名用紙が置かれていた。地元ゴルファーやその家族が応じたり、棚倉田舎倶楽部の関係者が署名を募ったのではないか」という。
「棚倉田舎倶楽部では『棚倉町民ゴルフ』と銘打った大会が開かれており、コロナ前は300人が出場したこともあった。東白川郡内のゴルファーもよく利用するなど、地元から愛されているゴルフ場なのは間違いない」(同)
そんなゴルフ場に、なぜメガソーラー計画が浮上したのか。
「地元紙も『FLASH』も西コースにパネルが設置されると報じているが、理事会では当初、3コース全てに設置する案が示されたそうです。しかし、ほとんどの理事が〝寝耳に水〟と驚き、異論が出たため、西コースに設置する案で落ち着いたと聞いています」(同)
3コース全てに設置するということは、その時点で棚倉田舎倶楽部は閉鎖されることを意味する。棚倉開発は、メガソーラーの事業者に急いで売却したいくらい経営が行き詰まっていたということか。
パワハラで研修生が自死
民間信用調査機関によると、2017年12月期決算まで赤字を計上していた棚倉開発だが、石川勝美氏が社長に就任して以降は黒字を確保している(別図参照)。もっとも、純粋なプレー費で儲かっているわけではないようで、県外の不動産収入などが寄与しているのが実態だ。

「かつては関東方面から多くのゴルファーが訪れていたが、震災後は減っていた。宿泊施設が整っていないことも客足に影響している」(同)
そうした状況を打破するため、棚倉開発では家族で訪れる機会をつくろうとキャンプ場やバーベキュー、バギーや熱気球などゴルフ以外のイベントに手を広げたが「どれも中途半端で上手くいっていない」(同)。
昨年5月には『週刊文春』で19歳の男子研修生が自死していたことも報じられた。同誌によると、2022年6月に寮の階段で首を吊ったという。遺族が労働基準監督署に提出した意見書や陳述書によると、原因は支配人や年上の研修生によるパワハラとされる。同誌は名前を伏せているが、パワハラをしていたとされる支配人は反対署名を受け取った須藤支配人の可能性もある。この問題は、本誌も昨年7月号に「文春に研修生自死を報じられた棚倉田舎倶楽部」という記事を載せている。
このように、二進も三進もいかなくなっていたところにメガソーラー計画が持ち込まれたとしたら、棚倉開発にとっては〝渡りに舟〟だったに違いない。
「理事の一部は『月に1回くらいしか来ない石川勝美社長がメガソーラー計画を主導しているとは思えない』として、事情を一番知るのは現場を取り仕切る須藤支配人ではないかと疑っている」(同)
そこで、筆者は須藤支配人にメールで質問状を送付したが、期日までに返答はなかった。
昨年4月、仙台市の「西仙台ゴルフ場メガソーラー発電所」で火災が発生した。同ゴルフ場は棚倉田舎倶楽部の計画と同じ27ホール中9ホールに太陽光パネルが設置されていたが、感電の恐れから放水できず22時間も燃え続けた(前出『FLASH』の記事より)。棚倉田舎倶楽部の関係者たちは、この事業者がこちらの計画にも関わっているのではと疑っているようだ。
棚倉町内には棚倉田舎倶楽部のほかに棚倉ステークスカントリークラブと新ゲインズボローカントリー倶楽部というゴルフ場があったが、経営不振で閉鎖された。棚倉田舎倶楽部は今、東白川郡唯一のゴルフ場になっている。そこにメガソーラーが設置されるとなれば、地元ファンを中心に反対の声が出るのも当然か。