【福島民友新聞社】野崎広一郎社長インタビュー

【福島民友新聞社】野崎広一郎社長インタビュー

経歴

のざき・こういちろう 1962年生まれ。愛知県出身。名古屋大学法学部卒。87年、読売新聞社入社。編成部長、編成センター長、紙面審査委員会委員長、北陸支社長などを経て2023年6月、福島民友新聞社常務取締役編集制作本部長。24年6月から現職。

 今年、創刊130周年を迎えた福島民友新聞。代表取締役社長・編集主幹の野崎広一郎氏に、これまでの歩みや県紙として果たすべき役割、昨今の活字離れをどう考えるか等々をインタビューした。

創刊130年の歩みと未来

 ――創刊130周年を迎えられた率直な感想をお聞かせください。

 「ここまで来られたのは、ひとえに県民の皆様の信頼のおかげです。福島民友新聞はこれまで決して平坦な道を歩んできたわけではありません。最初は『福島実業新聞』という名前でスタートし、『福島民友新聞』と名前を変えて発展していきました。戦時中には新聞統制によって廃刊を余儀なくされましたが、戦後、多くの方々の熱い思いに支えられ、昭和21(1946)年に復刊を果たしました。新聞統制で消えた地方紙で、元の名前で復活できたのは福島民友新聞だけです。先輩たちが言論を求める人々の願いに応えようと尽力してくれたことに、あらためて敬意を表したいと思います」

 ――新聞社としてこの間、特に大切にされてきたことは何ですか。

 「二つの大切な原点があります。一つは、福島民友新聞が創刊の辞で掲げた『われらは自由を愛す、天賦の権利を愛す、人類の本能を愛するなり』という言葉です。そこには人権や自由を大切にするという高らかな宣言が込められています。もう一つは、昭和21年の復刊の際に掲げられた理念です。平和日本の建設に貢献すること、言論の地方分権を目指すこと、そして200万福島県民のために郷土新聞としての使命を果たす覚悟が述べられています。こうした原点を守り続けてきたからこそ、130年という歴史を刻むことができたのだと思います。この原点をあらためて胸に刻み、次の131年以降へと繋げていきたいと考えています」

 ――創刊130周年を記念して制作されたロゴマークにはどのような思いが込められていますか。

 「ロゴマークは社内研修で出されたアイデアをきっかけに制作されました。『130』の『0』の部分は人と人をつなぐ思いを込めて、水引をイメージしたデザインになっています。中央の山の図柄は福島民友新聞の『M』と磐梯山のシルエットを組み合わせています。ロゴマークは複数の候補の中から、社員による人気投票で選ばれました。社員が自発的に動き、デザイン部門の新入社員が考案し、みんなの意見で決めたというプロセスは福島民友新聞らしいと感じています」

創刊130周年のロゴマーク
創刊130周年のロゴマーク


 ――創刊130周年記念事業として様々な事業が予定されています。

 「『谷川俊太郎 絵本★百貨展』(4月19日~6月8日、いわき市立美術館)では詩人谷川俊太郎さんの絵本の世界を言葉遊びなどを通して体感できる展示を行います。『金曜ロードショーとジブリ展』(7月19日~9月28日、福島県立美術館)ではスタジオジブリの作品と日本テレビ系列の『金曜ロードショー』の関わりを紹介します。ポスター展示や映画の世界に入り込んだような体験ができる展示など見応えのある内容となっており、15万人の来場を目指しています。プロ野球『巨人―中日』(7月9日、あづま球場)は巨人軍にご協力いただき、あづま球場で9年ぶりに開催される公式戦です。『令和7年夏巡業 大相撲福島場所』(8月22日、福島トヨタクラウンアリーナ)は福島県出身の人気力士を間近で見られる貴重な機会となります。これら事業には文化・スポーツ・芸術を通じて県民の皆様を笑顔にしたいという思いと、震災を経験した新聞社として県外の方に福島県の今の姿をご覧になっていただきたいという思いが込められています」

 ――活字離れが指摘されていますが、新聞業界の現状について。

 「活字離れは新聞だけでなく活字メディア全体の課題です。他社ではデジタル化を積極的に進めているところもありますが、世界で最もデジタル化で成功していると言われるニューヨーク・タイムズでも紙媒体は依然有力な収益の柱です。デジタル版で紙に代わる収益を出していくのは難しいという現状を認識する必要があります」

紙の新聞にこだわりたい

 ――福島民友新聞社としては、どのようにデジタル化に取り組んでいく考えですか。

 「民友はやはり、紙の新聞にこだわっていきたいと考えています。紙の新聞には一覧性という大きな利点があります。開いた瞬間に、今日はどんなニュースがあるのか、どのニュースが重要なのかが見出しやレイアウトを通じて一目で分かります。これは、デジタルにはない紙の良さです。販売店が存続していくことも重要です。県内には福島民友新聞を扱う136の販売店があり、それぞれ所長さんをはじめ多くの方に支えられています。また、販売店は新聞を配達するだけでなく、街中から離れた地区では地域を見守り、地域を支えるような役割も果たしています。

 紙の新聞を守る一方で、デジタルでの発信にも力を入れています。昨年リニューアルした自社ホームページはもちろん、Yahoo!ニュースやLINEニュースなどにも記事を提供し、福島民友新聞の情報を県内だけでなく全国に発信しています。ただデジタルはあくまで紙を補完するもので、デジタル版に移行するという戦略は考えていません。紙の新聞の価値と意義を多くの人に訴えることで、さらなる読者獲得を目指していきます」

 ――県紙としてどのような価値を打ち出していきますか。

 「戦後の復刊の辞にもあった、郷土新聞としての視点を大切にしていきます。全国紙は日本全体のことをまず考えるのが役割ですが、福島民友新聞は常に県民の視点、福島の人々の暮らしを第一に考えています。県民にとって何が一番大切かという視点をぶれずに持ち続けることが私たちの使命と考えます。もちろん、県政に対し提言をすることもあります。特に震災と原発事故からの復興は大きなテーマです。東京電力福島第一原発の廃炉などは長期的視点での取材と情報発信が求められます。在京メディアが深く掘り下げられない問題にも、しっかりと向き合っていきたいと考えています」

 ――最後に県民や読者にメッセージをお願いします。

 「福島民友新聞は130年間、県民の皆様からの信頼を最大の資本として歩んでまいりました。これからも皆様の信頼に応えられるよう読みやすく、面白く、役に立つ新聞を作り続けてまいります。地方紙の良さは国・世界のことから、地域の身近な話題まで幅広い情報をひとつの新聞で届けられることです。そうしたバランスを大切にしながら、新聞を通じて自由で豊かな社会の実現と、県民の暮らしや心身の健康にも貢献できるよう努力してまいります」

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