本誌に「県内の浄化槽業界が、居住実態のない高齢者宅の浄化槽を必要がないのに清掃し、管理料金を引き落としている。毎年5万円の管理料金を取られるのは年金生活者には厳しい」との投書が寄せられた。業界団体に確認すると「毎年の保守点検・清掃は必要で、法律に定められている」。業界関係者は、保守点検と清掃頻度を定めた法令が高齢独居世帯や空き家が増えた現代に合っていないと指摘。「行政と密がゆえの寡占化と、地位に甘んじた2代目以降の経営を嘆く業界人が投書を寄せたのでは」との見解を示した。
時代に合わない清掃頻度ルールに疑問
浄化槽業界を告発する投書の前に、浄化槽行政の仕組みを説明する必要がある。浄化槽はし尿や台所などからの生活排水をろ過して微生物の働きで清浄化し、川などの公共用水に流す。下水道を通していない地域の施設は浄化槽を設置しなければならず、全国に約745万基、県内には約27万基設置されている(2023年度現在、合併処理浄化槽と単独処理浄化槽の合計)。
設置や維持管理は浄化槽法や省令で基準や運用方法が厳密に定められている。維持管理に関わる業者も専門資格の他、都道府県や市町村の許可・登録が必要になる。
設置者=管理者は、法律で定められた検査に合格し、保守点検や清掃をして維持管理する。ほとんどの場合、浄化槽の維持管理に特化した業者に保守点検と清掃業務を委託する。
点検・清掃する業者と頻度は次ページ図のように定められている。①指定検査機関による法定検査(設置後に1回=7条検査、以後毎年1回=11条検査)、②登録業者による保守点検(設置前に1回、設置後は年に最低3回)、③許可業者による清掃を最低年1回。浄化槽を使用する世帯人数にもよるが、毎年最低5回は点検や清掃を経なければならない。

①の法定検査は都道府県知事が指定した検査機関の検査員がガイドラインに基づき、使用状況や水質を調べる。福島県の場合は公益社団法人福島県浄化槽協会内の浄化槽検査委員会の検査員が担当する。

②の保守点検は都道府県知事や中核市の登録を受けた業者の有資格者(浄化槽管理士)が行う。具体的には浄化槽内の機器を修理したり、薬剤を入れ替えたりする。業者は協同組合をつくっている場合が多く、福島市と川俣町には「福島浄化槽管理協同組合」、郡山市には「郡山市水管理協同組合」がある。
③の清掃はバキュームカーによる汲み取りがイメージしやすい。汚泥や水に浮かんだ汚れを水ごと引き抜く。市町村長の許可を受けた清掃業者が担当する。前出の福島浄化槽管理協同組合は、保守点検業者と清掃業者、或いは両方の許可を得た業者が加盟する。
浄化槽業界と言えば、①法定検査機関、②保守点検業者、③清掃業者を指す。許認可は都道府県と市町村にまたがり業務は異なるが、法定検査の一部業務を保守点検業者に委託する例や、浄化槽設置者への窓口が一つになるように①~③の業務を「3点セット」と称して保守点検業者が取りまとめる例もあり、業界は一蓮托生だ。これらを前提に次の投書を読んでほしい。
投書は浄化槽行政担当者に宛てており、「公益社団法人福島県浄化槽協会への質問」と題してあった。
《令和6年度浄化槽法定検査実施計画のなかで「7条」「11条検査」の拡大を図るとあるが、検査員は当然、浄化槽管理者・設置者の各情報を県民の公衆衛生の向上や管理業者の技術向上と適切な清掃業務のために取得・集計し公益社団法人福島県浄化槽協会として役立てているはずである。
浄化槽法が施行されて40年が過ぎようとしている中で当時の浄化槽の使用環境と現在とでは大きく変化していることが現実にある。当時は世帯人数も多く、それなりに検査委員会の役割も地域社会に貢献してきたが、現在は少人数、高齢化が進んでおり当然管理のあり方や清掃のあり方も取得した情報に基づき変化が求められるべきだと思われる》
未使用でも清掃義務
投書は浄化槽使用者=管理者である世帯の独居化と高齢化が進む中、浄化槽の使用も減り、同協会の検査データに使用状況は表れている。それを分析して公開し、現代の世帯数に合わせた保守点検・清掃頻度にして設置者の経済的負担を減らすべきと論を進める。
次のような具体例を挙げた。
《家族が住んでいない(デイサービスの利用やシェアハウスまたは入院等)にもかかわらず、セット価格で管理料金を引き落としている業者や、そもそも居住の有無が判断できない浄化槽管理士や検査員がいるのも事実である。(解っていながらもただ対応しているかもしれないが。…お金になるので)
また、住んでいないにもかかわらず1年で清掃費4~5万円の請求やほとんど水の状態のものを汲み取り清掃としている業者がいる。それは搾取である》
投書には他に、清掃業者の中には人手不足で法律で定められた1年に1回の清掃ができない業者がおり、13~14カ月に1回の清掃が常態化している点、浄化槽関係の業者や協会、協同組合に「年金生活者から搾取したお金」が蓄積されている点を挙げた。2代目3代目の経営者が多くを占める弊害も指摘していた。
投書はどこまで真実なのか。県浄化槽協会事務局長を務める鴫原己八専務理事に聞いた。投書は「年金生活を送る高齢者を搾取」と糾弾しているが、居住実態がなく使用していない浄化槽を保守点検・清掃し管理料金を取ることはあるのか。
「法定検査を担当する当協会では、設置者に確認を取らずに検査することはありません。保守点検や清掃も記録表を作成し、行政や設置者に写しが届くので、告知せずに維持管理業務を行うことはあり得ないと思います」(鴫原専務理事)
浄化槽は仮に未使用だったとしても、法律で保守点検は年3回、清掃は年1回することを義務付けられているため、同協会や業者は法律を順守しているというスタンスだ。法令で定めた義務は脇に置き、技術面で話を進める。保守点検をして、水を汲み取る清掃が必要でなかったらそのままでも良いのではないか。鴫原専務理事は「清掃」に留まらない浄化槽清掃の効用を話す。
「合併浄化槽は4槽に分かれ、清掃時は汚水をろ過する第1、2室の水を汲み取ります。水を抜いた状態にするのが大切で、この時、内部設備の状態が一番詳細に分かる。1年に1回汲み取りをするのは、技術面でも必要な措置です」
浄化槽法上、維持管理義務は設置者にあり、数時間しか使用せず傍目には汚れていないからと言って保守点検・清掃する責任は免れず、費用は年4~5万円もかかる。施設入居で長期間家を空ける高齢者が負担を免れるのにどうすればいいのか。
「休止届を出します。これを提出して初めて維持管理義務を免れられます。休止する際には消毒剤を抜くなどの清掃をする必要があります」(鴫原専務理事)
家を空ける期間と、浄化槽を休止する際の清掃費用、再び使う際の費用を勘案して休止届を出すか決めることになろう。
現行法が年5回の検査・保守点検・清掃を義務付けている以上、設置者は従うか休止届を出すかのゼロイチの選択を取るしかない。投書は、根本は法制度と実態の乖離と指摘する。浄化槽の適正管理を包括的に定めた1983(昭和58)年施行の浄化槽法に言及し、業界が一体となって人口減少時代に合わせた保守点検・清掃頻度を改めて定めるように改正に動くべきと訴えた。
ある業界関係者が打ち明ける。
「浄化槽やごみ処理など公衆衛生に関わる業種は行政の規制下にあり、地元に密接した業者が参入するので自然と縄張りができる。なくてはならない仕事で、景気にも左右されないので既得権益化する。競争がないので業界も改革に後ろ向きで閉鎖的になりがち。投書は業界の体質に業を煮やした人物が書いたのではないか」
清掃頻度を法改正
一方で、浄化槽業界や清掃業界が「既得権益」とまで目されるまで力を付けたのには、創業者たちが全国組織を通して中央政界に自分たちの仕事の意義を訴えた結果だという。
「県内で25年前に浄化槽が普及する前は、汲み取り式のトイレを清掃する仕事を始まりにしている業者が多い。今もそうだが、公衆衛生業は人間の営みに必須だが、きつい、臭い、汚いの3K業界とみなされている。先人たちは『それではいけない』と業界の健全な発展を目指して県浄化槽協会などの業界団体を立ち上げ、地位向上に努めてきた。福島県の浄化槽業界は中央への力も強く、全国組織を通じて浄化槽法制定や法改正に動いてきた」(業界関係者)
投書は《現代の「浄化槽の高度処理化」・「生活形態の変化」・「使用人数の減少」・「高齢化や年金生活者の増加」のなかで2代目3代目になる経営者が多くを占めており、将来このようなことが見逃されていくならば、それは県民のため、業界のためにもならない。ぜひ法改正へ声を上げてほしい。40年前に先人が法制化に声を上げたように。質問もない改革もない現状維持の組織はいずれ駄目になり発展がない》と締めくくっている。
前出の業界関係者は、
「投書の主からすると、浄化槽に関わる業者の2代目3代目が労せずに今の安定した地位に付いているように見え、眉をひそめているのではないか」
安定した仕事は、ともすれば怠惰につながる。投書は業界への喝と受け取れよう。