参院選「選挙漫遊」2025

参院選「選挙漫遊」2025

 第27回参院選が7月3日告示、20日投開票の日程で行われた。福島選挙区(改選数1)は、現職と新人4人の計5人が立候補し、自民党の現職・森雅子氏が激戦を制して4選を果たした。本誌はこれまでの県内主要選挙と同様に、選挙期間中に「選挙漫遊」を実施した。

本誌が見た5候補の素顔と主義主張

当選を決めた森雅子氏(中央)
当選を決めた森雅子氏(中央)

 選挙結果は別掲の通り。森雅子氏はいわゆる派閥裏金問題にも関わっており、昨年の衆院選同様、自民党には逆風だったが、激戦を制して4選を果たした。

当	327951	森  雅子	(60)	自民現 
309184 石原洋三郎 (52) 立民新 
184286 大山里幸子 (51) 参政新 
26632 遠藤 雄大 (40) 無所属新 
10070 越智 寛之 (51) 諸派新

 一方で、結果はそれとして、結果だけにこだわらないのが選挙漫遊である。ここで、あらためて選挙漫遊について解説する。本誌で「選挙 古今東西」を連載するフリーランスライターの畠山理仁さんが提唱する「投票する権利のない選挙を気軽な気持ちで観に行く活動」のこと。楽しむことが第一だが、候補者が考える政策が一堂に会する選挙で当地の課題を肌で感じ、自分が住む地域を考え直すきっかけになる。候補者がどんな思いで立候補し、何をしようとしているのかを自身の目と耳で感じることに意味があるのだ。

 本誌では過去に、2023年11月の県議選(主要4市の選挙区限定)、昨年9月のいわき市議選(いわき民報と共同)、10月の衆院選、11月の国見町長選、今年4月の郡山市長選で選挙漫遊を実施している。選挙期間中、候補者の街頭演説や1分程度の個別取材の様子を動画に収め、本誌ホームページなどで公開した。

 今回は、「参院選立候補者は原発被災地で何を話すのか」という点に着目し、各候補者が原発被災地域で街頭演説する機会に合わせて、選挙漫遊を行った(原発被災地域での演説の予定がない候補者は、その近辺での街頭演説か、別途インタビューを実施)。

 立候補したのは、届け出順に、参政党の新人で警備会社役員の大山里幸子氏(51)、NHK党の新人でIT会社社長の越智寛之氏(51)、自民党の現職で元法務大臣の森雅子氏(60)、立憲民主党の新人で元衆議院議員の石原洋三郎氏(52)、無所属の新人で元福島県職員の遠藤雄大氏(40)の5人。以下は、本誌が見た5人の候補者のありのままの姿。

大山里幸子氏

大山里幸子氏

 7月12日(土)昼、南相馬市の南相馬ジャスモール前で、参政党の新人・大山里幸子候補の演説を見た。大山候補が双葉郡内を回るのはこの日が選挙期間中初めて。聴衆は約10人。SNSで告知していたよりも30分遅れで選挙カーが到着すると、それぞれ車から降りて集まってきた。

 演説ではまず「参政党はバックに大きな企業団体や宗教団体などが何もない政党。私たちを支えていただいているのは皆さんのような一般国民です」と主張。そのうえで、物価高の中で庶民の生活が厳しくなっていることや中小企業も厳しい経営環境に置かれていること、主要7カ国で経済成長を果たしていないのは日本だけであることを説明し、「私たちが使えるお金を増やして経済を回すことが必要」と減税の必要性を説いた。

 続けて「私たちは日本を豊かにしたい。そして、私たち日本人、この国に住んでいる人たちを豊かにしたい。まじめに働く人間は報われなければならない。日本を変えなければならないときが来た。この国を変えるのは皆さん一人ひとりです」と支持を訴えた。

 原発被災地の復興政策などに関しては、「この選挙戦では、国民に共通する生活や豊かさの課題について呼び掛けるのを重視しており、演説では触れなかった」とのこと。あらためて意見を求めると「原発被災地の住民の悩みは人それぞれ違うものなので、じっくり向き合うことが大切。また、原発問題に関しては安全性が分かっていることもあるので、そうした点は広く発信していくべきではないか」と意見を述べた。

 演説を聞いていた年配の夫婦は「生活は厳しいし、原発事故でひどい目に遭ったという思いがあるので、原発政策を進めてきた自民党も、事故当時の政権与党である民主党系も応援する気が起きなかった。そうした中で、参政党は一番まともなことを言っているな、という感じがした」と話した。

 SNSを通して参政党や大山候補の主張に触れ、初めて足を運んだ人もいたようだ。

越智寛之氏

越智寛之氏

 NHK党の越智寛之氏はネットでの選挙運動に軸を置いていた。14日に福島中央テレビと本誌の取材を受けるために来福。福島駅前で動画を撮影した後、「ざっくばらんに話しましょう」と政見を語った。「2009年に自民党では駄目だと国民は民主党を選んだ。その後、自民党に戻りまた信頼を失っている。有権者には自民、立民以外に入れてほしい」と訴えた。夜9時からNHK党立候補者たちが出演する動画配信のために福島を後にした。

森雅子氏

森雅子氏

 7月13日(日)昼、大熊町商工会の駐車場で行われた森雅子候補の演説を見た。

 聴衆は約40人。双葉郡選出の佐々木恵寿県議、同町の吉田淳町長、仲野剛町議会議長、福島4区選出の坂本竜太郎衆院議員が応援マイクを握る。佐々木県議と坂本衆院議員が「非常に厳しい選挙。皆さんのお力をいただくとともに、周囲の方へのお声掛けを是非お願いしたい」と力説した。

 4氏の挨拶を聞き終えると、森候補は9分超にわたって聴衆に訴えかけた。

 「地元紙が震災・原発事故関連のニュースを報じても中央では報じられない。国会議員の中にも震災・原発事故のことを詳細に知る人が減っている。国も復興関連予算を減らすと言い出している。そこに待ったをかける国会議員が必要。私は震災・原発事故当時から現職で、大臣になってからも被災地に足を運んできた。他の候補者は復興についてほとんど語っていない。マスコミのアンケートを見ても、重視する政策を尋ねる設問に、物価高やコメ問題はあったが復興というワードはなかった。大熊町には中間貯蔵施設で大変なご負担を強いている。復興を確実に前に進めるためにも、この選挙、絶対に負けるわけにはいかない」

 集まった聴衆は森候補の被災地を意識した演説に聞き入っていた。聴衆の中には同町の全町避難先だった会津若松市から駆け付けた人もいた。居住者の少ない同町で、聴衆が約40人も駆け付けたのは上々だろう。

 一方で、自身の裏金問題や有権者の関心が高い物価高対策、コメ問題は一切語らなかった森候補。被災地だからこそ被災地にまつわる演説に終始したとみられるが、その場に〝アンチ〟がいたら「まずは語るべきことがあるだろ」と突っ込みが入ったのではないか。

 参院選をめぐっては、自民党の鶴保庸介参院議員が和歌山県での応援演説で「運のいいことに能登で地震があった」などと発言し参院予算委員長を辞任するなど、党への逆風が一層強まった。過去3回の選挙とは比にならない厳しい選挙戦を勝ち抜くべく、森候補は連日の暑さに耐えながら広い県土を回った。

石原洋三郎氏

石原洋三郎氏

 7月18日に立憲民主党の石原洋三郎候補を取材。この日、石原候補はいわき市内で遊説・演説を行った後、浜通りを北上して双葉地区、相馬地区を遊説した。

 いわき市内での街頭演説では立憲民主党国会対策委員長の笠浩史衆院議員(神奈川9区)が応援に駆けつけた。同市は与党候補の地盤でもあり、選挙戦を勝ち抜くための重点地域という位置付け。浜通りが選挙区の同党衆院福島4区支部長の齋藤裕喜衆院議員(比例東北)は「まだ『追いかけている』という感じですが、根気強く支持を訴えていきたい」と語った。

 本誌の今回の企画趣旨である原発被災地(双葉郡)での街頭演説の予定がないため、相馬市で行われた演説を見た。

 演説準備中、石原候補に「選挙の中で有権者の思いをどのように受け止めているか」と尋ねると、「物価高対策ですね」というシンプルな回答だった。演説でも、その点を中心に訴えていた。一方で、いわき市四倉で行った演説では物価高対策に加えて「福島の復興なくして日本の再生なし」ということも訴えていた。

遠藤雄大氏

遠藤雄大氏

 無所属新人の遠藤雄大候補は7月19日(土)昼、JR福島駅東口駅前広場で演説した。

 遠藤候補の街頭演説は告示日に続いて、その日が2回目。聴衆は1、2人で、あとは報道陣が数人。スピーカーなどを使わず、地声で演説を行った。

 遠藤候補は演説で「GAP認証制度のさらなる推進と改革」、「放射性物質検査体制の周知」、「県産農産物の戦略的なPRの必要性」、「中山間地域における集落営農組織化による効率化」、「食料品に限定した消費税減税」などについて主張した。

 原発被災地関連のテーマとしては、大学・大学院時代、農学部に所属し、放射性セシウムの吸収抑制策について研究したことがあることから、除染土の再利用について、「軽々なことは言えないが、反対の動きがある一方で、放射性セシウムの数値はかなり下がっている面もあるので、客観的に議論すべきだ」と述べた。遠藤候補は選挙事務所を設けておらず、ポスターも制作していないとのこと。

 「個人で活動できる強みを生かして、現場の声を直接聞きながら政策に反映させていきたい。組織に縛られない自由な立場から、真に県民のためになる政策を推進していく」と話した。

選挙漫遊を終えて

 震災・原発事故以降は、各政党の党首クラスが福島県で第一声を発するケースが多かった。ただ、年月を経て、そうした風潮は薄れていった。だからこそ、今回、本誌は「候補者が原発被災地で何を話すのか」に焦点を当てた。すでに結果が出た後だが、各候補者、あるいは政党がどんな思いを持っていたのかは伝わるはず。一方で、熱意などは〝現場〟に行かなければ分からない。

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