いわき市が進めているJR湯本駅前の再開発計画を巡り業者を恣意的に選定したなどとして、駅前の商店主が、業者に対し支払った業務委託料の公金934万2300円を返還請求するよう市に求める住民訴訟を福島地裁に起こした。
原告は湯本駅前で洋菓子店を営む長岡裕子さん。前段として、市から委託業者への随意契約は「業務委託費の取り扱いが不透明で、利益供与の疑いもある」などとして住民監査請求。受理されたものの6月に棄却されていた。住民訴訟は、原告が疑義を抱いた時点で住民監査請求の期限を迎えていたため、監査が却下された(=判断しない)違法性に関わる部分を再度問う動きだ。
市から業務委託されたのは、まちづくり会社「㈱ふらゆもり」。同社は常磐地区の商工業者などからなる、まちづくりの任意団体「じょうばん街工房21」の関係者で構成している。市は同社の実績に問題はないとする。
訴えによると、原告が問題としている契約は「常磐地区交流拠点エリア形成支援業務委託」で金額は934万2300円。契約期間は2023年9月21日から翌24年3月29日まで。再開発エリアで既存店及び新規出店する事業者らの勉強会を開いたり、地権者の移転や出店の意向を把握する業務などを任された。
業務は、2023年10月20日に602万2500円で㈱マイロックチョコレーツに再委託された。同社は「トコナツ歩兵団」の名称でいわき市のPR業務に携わってきた実績があり、「フラシティいわき」のブランド化やいわき湯本温泉の旅館の女将がフラを踊る「フラ女将」を手掛けてきた。
原告は次の点を違法と主張する。
①ふらゆもりは業務委託締結の約1カ月前に設立したため実績がなく、別会社(マイクロチョコレーツ)に再委託ありきだった。いわき市が業務遂行能力のない契約相手を根拠なく恣意的に選定したことは透明性・公正さを害している。したがって、契約者の裁量権を逸脱し、随意契約は認められない。
②ふらゆもりが提出した見積書は土木工事の書式を流用し、根拠資料が十分でないなど合理的な金額か判断できない。にもかかわらず市は提示の金額で委託した。
③地元店舗の勉強会の範囲が仕様書記載の範囲よりも狭められ、回数も少ないなど業務遂行が不十分なのに、市は契約を解除していない。
訴訟に先立つ住民監査請求で、監査委員たちは再開発担当部署の都市建設部に聴き取りし、不当な財務会計上の行為はないと結論付けた。理由は複数あるが、重要なものとしては次の二つがある。「市が業務完了報告書が提出されてから所定の期間内に検査を行い、合格と認めた」、「ふらゆもりが勉強会を実施した地元店舗の範囲を限定したのは、業務の目的を達成したと判断した市から指示を受けたからだった」などとしている。
住民監査請求の結論は棄却であったが、一方で、監査委員たちは第三者から疑念が抱かれてしまう要因は市にもあるとして意見を付けた。
《契約書の特記仕様書は、勉強会の対象範囲や事務の進め方などが明確になっておらず、第三者に疑問を抱かせるところがあった。
業務委託において仕様書に記載のない事項については、双方の協議などで実施されるものであり、必ずしも業務内容の全てが仕様書に記載されるべきとまでは言えないが、仕様書の作成に当たっては、業務内容をより分かりやすく、明確に記載するよう努める必要がある》
再開発で一番優先すべきは、土地という財産の移転や処分を迫られる地権者、入居者であるが、再開発は景観や交通など周辺に与える影響が大きい。そのため意見を聞く範囲を広げると、不一致は必ず起こり、線引きが必要となるが、それでも市は様々な民意を集める努力を放棄してはいけない。
























