福島市のあづま総合運動公園を舞台に毎年開催されている野外音楽フェス「LIVE AZUMA(ライブアヅマ)」をご存じだろうか。知名度の高い一流アーティストや注目株のバンドなどが複数出演するほか、チケットを持っていない人でも楽しめるマーケットが併設され、多くの人でにぎわう。なぜこのような音楽フェスを開催しようと思ったのか、仕掛け人の一人である福島テレビ(福島市)のテレビマンに話を聞いた(文中のアーティスト名は敬称略)。
仕掛け人のテレビマンが語る思い

東京五輪野球・ソフトボール競技の一部試合の会場になった県営あづま球場。そんな野球の聖地が音楽ファンを熱狂させるステージと化すイベントがある。
それが毎年秋に行われている野外音楽フェス「ライブアヅマ」だ。人気アーティスト約50組が福島市に集結し、2日間かけて演奏を披露する。2022年にスタートし、昨年は2日間で延べ3万7000人が来場した。そのうち約45%は県外から訪れており、福島市の新たな観光資源の一つになりつつある。
多くの人を惹き付ける最大の魅力は、大都市圏で催される大規模音楽フェスに劣らぬ有名アーティストが集う点だ。過去の出演者を挙げると、[Alexandoros](アレキサンドロス)、Awich(エーウィッチ)、奥田民生、きゃりーぱみゅぱみゅ、クリープハイプ、STUTS(スタッツ)、スチャダラパー、ストレイテナー、電気グルーヴ、HYDE(ハイド)、フレデリック、羊文学(ひつじぶんがく)――など。このほか、注目株のバンドも多数出演し、音楽好きにとって見逃せないイベントとなりつつあるのだ。
加えて、チケットがなくても楽しめるエリア「PARK LIFE(パークライフ)」が充実しているのも大きな特色だ。グッズ物販コーナーをはじめ、音楽を流して雰囲気を盛り上げるDJブース(今年はライブも展開予定)、アート作品や映像を楽しめるエリア、テントやシートを張ってのんびりと過ごせるデイキャンプエリアなど、開放感・非日常感を楽しめるブースが並ぶ。
特に来場者に人気なのが「食」に関するブースだ。福島県や東北地方の絶品グルメ、地酒や地ビール、ワインなどがそろい、毎年多くの来場客でにぎわう。日本酒コラボの限定ボトルは朝から行列ができるほどだ。
このほか、イベント出店がレアな人気店を独自にブッキングすることで知られる「東北拉麺屋台村 produced by ラーメン女子」、浜通りの食材や店舗の味を楽しめるフードエリア、バーベキューエリアなども設けられる。
この場所でしか味わえないご当地グルメと酒を味わい、音楽に身を委ねるひとときは、音楽ファンにとって至高の時間だ。
保育士資格を持つスタッフが常駐するキッズエリアや子どもが楽しめるワークショップもあり、子育て世代も安心して参加できる。
福島市民からは「あの雰囲気が好きで、チケットを買っていない年も足を運んでいる」という声も聞かれており、地元を巻き込みながら、着々とリピーターを増やしつつある。
転機となった出会い

この新たな地域型フェスを立ち上げた中心人物の一人が、福島テレビ(福島市)事業部に所属する佐藤将一さんだ。郡山市出身で、東京の大学に進学後、音楽フェスに魅了されて通いまくった。大規模音楽フェス「サマーソニック」にはボランティアスタッフとして関わっていたほどだ。
「いつか地元でも音楽フェスを開催したい」と福島テレビに入社したが、道のりは平坦ではなかった。入社2年目に事業部に配属され、早速音楽イベントを企画したが、震災・原発事故で白紙となった。その後、東京支社での営業職に異動となり、音楽フェス開催の夢から遠ざかった。
「ただ、東京に赴任したことで、『サマーソニック』を企画・運営しているプロモーター会社㈱クリエイティブマンプロダクションの坂口和義さんと学生時代ぶりに再会するなど、音楽業界関係者と交流する機会が増えたのです。福島県出身者が立ち上げたNPO法人b.e.c.o.(現・㈱フライング・ベコ)というクリエイティブチームが、東京六本木で毎年『福島フェス』というイベントを実施していたのですが、そのイベントに興味を持ち、同社の佐藤亮太さんと初めて会ったのもこの時期です。同じ福島出身同士ということもあり、『福島でも面白いイベントができないか』と話し合い、坂口さんにも協力を求めました」(佐藤さん)
再び福島本社に異動になった佐藤さんはデジタル関連の部署に所属しながらも、音楽フェスの企画書を出した。周囲からは「リスクが大きい」との忠告を受け、社内からも「テレビ局がやることなのか」と慎重な意見が上がった。
ただ、最終的には中堅社員である佐藤さんの熱意におされる形で実現が決まり、実行委員会には福島テレビ(会場・自治体・地元企業との調整、広報、スポンサーとの連携)、クリエイティブマンプロダクション(ステージ制作、アーティストのブッキング、首都圏メディア連携)、フライング・ベコ(ブッキングやマーケットエリアのプロデュース、Web・グッズなどのデザイン・制作、会場装飾)の3社が名を連ねた。佐藤さんの執念とも言える取り組みが、音楽フェス実現へとつながったわけ。
「ただ、その後も順調に計画が進んだわけではなく、本来2020年の東京五輪に合わせて開催する予定だったイベントが、コロナ禍で見合わせざるを得なくなりました。そこで翌年、さまざまな対策を講じたうえで、県民限定の音楽フェス『パークライフ』を開催し、くるりやOmoinotake(オモイノタケ)といった人気バンドに出演してもらいました。そして、2022年から本格的にライブアヅマを開催できたのです」(同)
アーティストのラインナップは佐藤さんと坂口さん、佐藤亮太さんを中心に実行委3社で話し合い、「どの人なら福島の人に喜んでもらえるか」と思い浮かべながら決めているという。「若者に人気のバンドからベテラン勢まで、バランス良くそろえることを意識しています」(佐藤さん)とのこと。
宿泊・飲食で経済効果
特筆すべきはその経済効果だ。会場でのテント泊は禁じられているため、県外から訪れる参加者は福島市近隣の宿泊施設を利用する。入場用のリストバンドを持っている人は飲食店でサービスを受けられる企画なども実施しているので〝打ち上げ〟を行う人も多い。
出演アーティストには地元ブランド米や日本酒を提供するため、販路拡大にもつながっている。出演者の中にはすっかり気に入ってしまい、「帰りに福島の酒を箱買いした」という例もあるという。佐藤さんによると、今年あらためて経済効果を測るとのことだが、詳細にカウントすれば相当な金額になるのではないか。
一般的にフェス運営には警備や交通、トイレ整備といった安全コストもかかるため、収益化はかなりハードルが高く、物販や飲食など複合的かつ戦略的にマネタイズを図っていくことが求められる。
「ライブアヅマ」も例外ではないだろうが、年々盛り上がっていることもあって、協賛企業は増加傾向にあるという。福島テレビにとっても「音楽フェス開催という新たな取り組みに挑戦しているテレビ局」というブランドイメージ構築につながっており、事業外収益では測れないメリットがあると言えよう。
佐藤さん自身がサマーソニックで学生ボランティアを務めていたこともあり、ライブアヅマにおいてもボランティアを募集し、主に会場の環境対策に関する活動を担ってもらっている。「参加者の間でコミュニティーができており、オフ会を開催しているようですね」と佐藤さんは笑う。
佐藤さんが夢描いた音楽フェスは、文化を通して人と人が出会い、福島県の魅力を知る場となりつつある。
今年のライブアヅマは10月18日(土)、19日(日)に開催される。今年も「RIP SLYME(リップスライム)」、「Saucy Dog(サウシードッグ)」、sumika、木村カエラなど人気アーティストが出演を予定しており、無料エリアの「パークライフ」にも多くのブースが出展する。中央のメディアに加えて、サマーソニック会場でもPRが行われ、県外から多くの来場が見込まれる。
佐藤さんに今後の展望を尋ねると次のように語った。
「まずは今年も人気のアーティストが集まるので、ぜひ多くの人に足を運んでいただき、その魅力を体感してほしい。昨年は福島県を含む46都道府県から来場者が訪れているので、まずは全都道府県からの来場を達成し、将来的には海外からの誘客も視野に入れていきたいですね。来年も開催できれば『ライブアヅマ』5周年になるので、盛り上げていきたいです」
地方テレビマンの夢は、オリンピックレガシーの地で花開き、地域の未来を切り開くイベントへと成長している。今年も福島の秋空の下で音楽が人を結び、笑顔と感動をもたらす姿が見られそうだ。

























