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現在地か移転かで割れる【会津坂下町】庁舎新築議論

現在地か移転かで割れる会津坂下町庁舎新築議論

 本誌昨年10月号に「会津坂下町 庁舎新築議論で紛糾 『4年前の決定』継続派と再考派で割れる」という記事を掲載した。会津坂下町で進められている役場庁舎新築議論についてリポートしたものだが、その後、新たな動きがあったので続報をお伝えしたい。

一部議員が「厚生病院跡地は候補地に不適」と指摘

 同町役場本庁舎は、1961年に建設され老朽化が進んでいること、1996年に実施した耐震診断結果で構造耐震指標を大きく下回ったこと、本庁舎のほかに東分庁舎・南分庁舎があり、機能が分散して不便であること等々から、2017年から新庁舎建設を検討していた。

 同年、町は社会福祉協議会や商工会、観光物産協会、区長・自治会長会の役員などで構成する「会津坂下町新庁舎建設検討委員会」を立ち上げ、調査・検討を諮問した。

 最大のポイントは「建設場所をどこにするか」だった。同委員会は、①現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地、②旧営林署・保健福祉センター・中央公園用地、③南幹線南側町取得予定県有地――の3案を基本線に検討を行い、2018年2月、町に「現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地が適地である」と答申した。

 同年3月議会では、同案に関する議案が提出され、賛成13、反対2の賛成多数で議決した。これにより、最大のポイントである「建設場所をどこにするか」は現在地周辺で決着したことになる。

 ところが、同年9月、町(齋藤文英町長=当時)は「事務事業を見直し、将来の財政状況を算定したところ、計画通り進めれば住民サービスに大きな影響を及ぼすことが予想されることになった。財政健全化を重視し新庁舎建設延期という重い決断をした」として、庁舎建設の延期を決めた。

 それから3年半ほどは事業凍結状態だったが、昨年4月、役場内に「庁舎整備課」が新設され、庁舎建設事業が再開されることになった。

 ただ、それを受け、昨年5月に町民有志「まちづくりを考える青年の会」(加藤康明代表)から議会に対して、庁舎建設場所の再考を促す請願が提出された。同請願は総務産業建設常任委員会に付託され、委員会で採択された。その後、本会議に諮られ、賛成・反対討論があった後に採決が行われ、賛成8、反対5の賛成多数で同請願は採択された。これを受け、議会は庁舎建設場所の再考を促す意見書を、町執行部(古川庄平町長)に提出した。

 町は議会からの意見書を受け、新庁舎建設検討委員会を立ち上げ(※2017年に立ち上げた委員会が解散されておらず、正確には「再開」だが、委員に変更等があった)、昨年7月から検討を再開した。その中で、町民の声を聞くために、まちづくり懇談会、新庁舎建設に関するアンケートを実施することになった。

 こうした動きに、議会内では意見が割れ、町内7地区で開催された町民懇談会でも賛否両論が出た。

 再考反対派の意見は「4年前に建設場所が決まり、議会で議決しているのに、なぜ再考しなければならないのか」、「そんなことをしていたら、いつまで経ってもできない。早く建設すべき」、「2021年8月に東分庁舎・東駐車場用地の隣にある競売物件の寿司店の土地・建物を取得し、2022年5月から解体工事を進めている。場所を変えたら、取得・解体費が無駄になってしまう」というもの。

 再考賛成派の意見は「事業休止していた4年間で、坂下厚生総合病院が新築移転したこと、坂下高校が大沼高校と統合して、事実上、坂下高校がなくなったこと、新築移転した坂下厚生総合病院の近くに商業施設『メガステージ会津坂下』がオープンしたこと等々から、生活環境や人の流れが変わっていることを考慮すべき」、「コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などの影響で、建設資材が高騰しており、コスト増加は間違いない。4年前の計画をそのまま進められる状況ではない」というもの。

 現在地か移転かで町が二分されている状況だ。

アンケートの結果

 本誌昨年10月号記事では、そうした詳細をリポートしたわけだが、その後、昨年11月25日には新庁舎建設に関するアンケート結果が公表された。アンケートは昨年10月、町内在住の15歳以上の1500人を無作為抽出し、調査票を郵送して実施。期日までに回答があったのは726人で、回収率は48・4%だった。ちなみに、同町の人口(今年1月1日現在)は1万4352人だから、アンケート送付数は全人口の10%弱、回答数は約5%になる。

 回答者の内訳(カッコ内は構成比)は、年齢別では10代24人(3・3%)、20代36人(5・0%)、30代59人(8・1%)、40代88人(12・1%)、50代100人(13・8%)、60代179人(24・7%)、70代以上239人(32・9%)、無回答1人(0・1%)。地区別では坂下地区310人(42・7%)、若宮地区109人(15・0%)、金上地区71人(9・8%)、広瀬地区92人(12・7%)、川西地区57人(7・9%)、八幡地区55人(7・6%)、高寺地区29人(4・0%)、無回答3人(0・4%)だった。

 質問はいくつかに分かれているほか、自由記入欄もあるが、ポイントとなる「現在、建設予定地は『現本庁舎・北庁舎・東分庁舎及び東駐車場用地』ですが、再考すべきと考えますか」という質問では、「現建設予定地のままでよい」が248人(34・2%)、「再考すべきである」が430人(59・2%)、「その他」と「無回答」が合わせて48人(6・6%)だった。再考すべきが6割近くを占めた。

 この質問で「再考すべき」「その他」と答えた人に「現時点において、町が把握している未利用地は、以下の箇所(※旧坂下厚生総合病院跡地、旧坂下高等学校跡地、南幹線沿線県有地)があります。建設地として望ましいと思うものを次の中からひとつだけ選んでください」という質問では以下のような回答結果だった。旧坂下厚生総合病院跡地273人(61・3%)、旧坂下高等学校跡地39人(8・8%)、南幹線沿線県有地95人(21・3%)、その他・無回答38人(8・5%)。

 こうして見ると、最初の質問で「現建設予定地(現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地)のままでよい」と答えた248人より、「再考すべき」→「旧坂下厚生総合病院跡地」と答えた273人の方が多いことが分かる。前述のように、アンケート回答者は同町の人口の約5%だから、これを「町民の総意」と捉えていいかどうかは難しいところだが、この結果だけを見れば、町民が求めているのは旧坂下厚生総合病院跡地への庁舎建設ということになる。

解体工事が行われている厚生病院跡地



 ただ、昨年12月議会で、それがひっくり返るようなことがあった。同議会で、五十嵐一夫議員が「新庁舎建設位置について、町長はどこにしたいのか。まちづくり懇談会の町民周知は適切か。旧坂下厚生総合病院跡地は候補地として適切か」といった内容で一般質問を行った。

 その中で五十嵐議員が明かしたところでは、JA福島厚生連に質問状を出し、坂下厚生病院跡地の対応について尋ねたところ、「厚生連からは『〇〇社から購入したいと申し入れがあり、すでに売却を決定した』と回答があった。回答は10月3日付の文書でもらった」というのだ。

 そのうえで、古川町長、庁舎整備課長に「そのことを知っていたのか」と質問した。これに対し、庁舎整備課長は「厚生病院跡地の買い手が決まったという正式な連絡は受けていない」と答弁した。
 さらに町は、1万平方㍍以上の町内の未利用地を「庁舎建設の候補になり得る場所」として、町民懇談会やアンケートなどで示したものであり、ある程度、本決まりになるまでは所有者との事前協議はできない、といった考えを示した。

 五十嵐議員は再質問で「(前述の事情から)厚生病院跡地は庁舎建設の候補地になり得ない」と指摘し、古川町長に「売却先が決定したことを知らなかったのか」と質問した。これに対して、古川町長は「知らなかった」と答弁した。

 もっとも、今年1月中旬、本誌がJA福島厚生連に問い合わせたところ、担当者は「(坂下厚生病院跡地は)現在、解体工事を行っており、その後のことは未定」とのこと。「いま、会津坂下町では庁舎建設議論が進められており、その中で、坂下厚生病院跡地が候補地になっているが」と尋ねると、「町からはそういった話はない」と話した。

 一方、五十嵐議員に確認すると、「昨年10月3日付文書で、間違いなくそういった(※売却先が決定したこと)回答を得ている。議会では『〇〇社』としたが、その回答文書には実名も記されていた」という。

近く議会に説明

 あらためて、町庁舎整備課にこの件について尋ねたところ、次のように説明した。

 「どんな事業でもそうですが、構想段階では権利者とは交渉できない。ある程度、決まってから用地交渉などに入ることになります。(今回の件でも)まだ構想が固まっていませんから(厚生連には)話をしていません」

 記者が「アンケートでは厚生病院跡地への庁舎建設を望む声が一番多かった。ただ、五十嵐議員が指摘したように、そこが売却決定済みで候補地になり得ないとするならば、厚生病院跡地を外して、それ以外でどこがいいかを再度聞くなどの手順が必要になるということか」と尋ねると、同課担当者は「その件については近く町長から議会に対して説明することになっている」と話した。

 要は、「議会に説明する前に本誌取材に答えることはできない」ということだが、何か含みをもたせた言い方だったのが気になるところ。「厚生病院跡地売却決定済み」話には、〝ウラ事情〟があるということか。

 その点で言うと、福島民報(1月14日付)に《会津坂下町の坂下厚生総合病院跡地の土壌から、土壌汚染対策法の基準値を超える有害物質が検出された。県は土地の使途を変更する場合、県に届け出るよう県報に告示した(後略)》との記事が掲載された。この場合、用途・売買等、制約が伴うから、それが関係しているのかもしれない。

 町は今年度中(3月末まで)に候補地を決定する方針だが、現在地周辺か移転かで意見が割れる中、どんな判断をするのか注目だ。

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