原発事故から14年が経ち、食品の放射能汚染を気にする人は少なくなったかもしれない。しかし、ネット通販で販売されているキノコからは未だに高い数値のセシウムが検出されている。福島市のNPO法人は現在も独自に測定し、警鐘を鳴らしているが、同市は新年度から測定体制を縮小させる方針だ。
新年度から測定体制を縮小する福島市保健所

福島市のNPO法人みんなのデータサイトは、昨年8~11月にかけて野生キノコに含まれるセシウムを測定した。その結果、155検体中29検体から食品衛生法の基準値(1㌔当たり100ベクレル)を超えるセシウムが検出された。
注目されるのは、これらが①1検体を除いてネット通販(メルカリ)で販売、②7割以上が産地不明や県外産という点だ。
「出品者の中には深く考えずに売っている人もいるかもしれないが、結果として汚染キノコが市中に出回る状況を生んでいます」
こう話すのは、みんなのデータサイト理事長の阿部浩美さんだ。阿部さんはNPO法人ふくしま30年プロジェクトに所属しながら同データサイトの活動に関わっていたが、同プロジェクトが昨年4月に解散すると同11月に同データサイト理事長に就任した。
阿部さんが注目するのは昨年9月28日にメルカリで購入した福島市産のコウタケである。測定値は1854ベクレルと、29検体の中で2番目に高い数値を記録した。
「コウタケは購入翌日(昨年9月29日)に届きました。すぐに冷蔵保存し、30日に測定したところ、基準値を大きく超えるセシウムが検出されました」(阿部さん)
このコウタケ、福島市産となっているが、購入時は不明だった。
「コウタケは匿名配送で届き、メルカリ上でも出品者は仮名だった。ただ発送場所は、伝票番号から県北のコンビニであることが分かった。そうなると、採取地は未だに出荷制限が続く県内、あるいは隣県の可能性があると考えました」(同)
阿部さんは測定結果を福島市保健所に連絡する一方、出品者とメールでコンタクトを取り「採取地を教えてほしい」と求めた。しかし、出品者から拒否されたため、阿部さんは情報開示請求を行い、同保健所が自分から連絡を受けたあと、どのように対応したのか調べた。
開示された公文書からは以下の事実が判明した。
▽測定の結果、セシウム134と同137の合計は5600ベクレル。
▽市保健所は10月15日、出品者を管轄する県(※)に調査依頼し、同29日、県から①採取地は出荷制限地域内の福島市岡島地内、②出品者が採取し販売、③県が出品者に必要な指導を行い、出品者は今後、食品衛生法の規定により販売が禁止されている食品および出荷制限の対象となる品目を販売しないことを確認――という回答を得た。
※出品者が福島市民なら管轄は福島市保健所になるが、県に調査依頼をしたということは出品者は「市外の人間」と想定される。
ちなみに出品者の氏名、住所、連絡先は「黒塗り」だった。
一定程度の対応がなされたことがうかがえるが、公文書には気になる記述もあった。
《福島県から出品者に対し、野生キノコの採取・販売について指導がなされていることから、申立者(阿部さん)への当該品採取地等の報告をもって、本件の対応を終了してよろしいか伺います》
これだけでは分かりづらいので補足すると、福島市内で汚染キノコが見つかり、販売されていたのに、市保健所は結果を公表せず、阿部さんに報告するだけで対応を終了するというのである。
販売する人がいたということは、採取して自家消費する人がいてもおかしくない。市民に注意喚起をするなら、当然公表すべき事案だ。しかし、阿部さんが市保健所に公表しない理由を尋ねると、1月16日に次のような回答が届いた。
《本年度から検体の取り扱いについて、見直しを行いました。その結果、検体の受領前の取扱状況等を当所で全て把握することはできないため、確定値ではなく参考値として取り扱うことが妥当であるとの判断に至りました》
キノコが保健所に持ち込まれる前に第三者(阿部さん)が測定しており、原型をとどめていない。これでは、どういう状態で採取・販売されていたのか正確な状況が把握できない。よって「確定値」ではなく「参考値」でしか扱えない――市保健所はそう言うのである。
「要するに第三者を介さず、市が直接入手・測定した場合は確定値として公式発表するが、第三者が持ち込んだり測定したものを市が再測定した場合は参考値扱いとし、公表しない、と」(同)
参考値は公式ではないため、国にも報告されない。阿部さんは、誰が調べようと汚染キノコが見つかったのは事実なのに、結果が公表されないことに疑問を呈する。
「店頭で汚染キノコが売られていたことが分かった場合は販売者が自主回収し、消費者に告知します。しかし、ネット通販の場合は私たちのような団体が独自に測定し、マスコミが報じないと行政は指導に動かない。今回のように出荷制限地域から採取したキノコが〝野放し〟で売られているのは、ネット通販への指導が行き届いていないからです。だったら注意喚起のため、確定値・参考値などと区別せず『現実』を公表すべきだと思います。一番大事なのは厚労省に報告が上がり、オフィシャルのデータとして発表されることなんですから」(同)
阿部さんは今後被災地への帰還・移住が進めば、被災地で採取されたキノコがネット通販で販売される可能性があることを危惧する。「現実」を公表する必要性は今以上に高まるはずなのに、参考程度の扱いにしてしまっていいのだろうか。
NPOの取り組みは迷惑!?

筆者は2月上旬、阿部さんが市保健所と協議する場に同席させてもらったが、同保健所の担当者は次のような見解を示した。
「行政は原則として未開封のものを検査するが、これまでは緊急性を踏まえNPOが開封したものでも再検査してきた。ただ、原発事故から時間が経ち、データも蓄積され、メルカリでも必要な対応をするようになっている。そこで、現在は第三者から持ち込まれたものを市で測定した場合は参考値という扱いにしている。当該自治体(産地)には情報提供という形で結果を伝えている」
ちなみに阿部さんによると、情報提供を受けた産地の自治体が独自に再測定することはないという。
もっとも、新年度からはこの対応も変わる。「令和7年度福島市食品衛生監視指導計画(素案)」によると、放射性物質に関する食品の収去検査は加工食品を中心に年間120件となっているのだ。
「要するに、第三者が持ち込んだものや市外のものは検査しない、市内の店頭にあるものは検査するがネット通販で売られているものは検査しない、検査は1カ月10件と、より機械的になるわけです」(阿部さん)
この点を前出・市保健所の担当者に確認すると「これまでの取り組みで(どんな食品から高い数値が測定されるか)知見は蓄積されている。今後は食品衛生法に基づく検査機関が検査したものを確定値として扱っていく。特定のところ(阿部さん)から複数持ち込まれたものを、市がかかりつけで測定するのはどうなのかという事情もある」。
阿部さんたちの取り組みはボランティアだ。それを「公平性」を建て前に、迷惑とばかり排除するかのような言い分はいかがなものか。
阿部さんが独自の測定をやめることはないが、ネット通販でキノコを購入する場合は一層注意が必要になるし、販売者(メルカリ)による商品の厳格なチェックが求められる。当然、出品者のモラルも問われる。