本誌は今年3月号に検証記事「福島県の新聞部数減を読み解く」を掲載した。県内で販売されている地元2紙と全国紙について、各新聞社が一般社団法人「日本ABC協会」に報告している販売報告部数を基に、新型コロナ禍前の2019年10月と収束後の2024年10月とを比較したもの。今回は、部数減を補うために重要度が増す県からの受託事業を検証した。
購読料減少を補う県からの受託事業
日本ABC協会は新聞・雑誌社、広告主、広告会社からなる団体で、半年ごとに部数を調査し発表している。3月号記事では、新型コロナ禍を経て、24万部だった福島民報は4万部(約17%)減り、17万部だった福島民友は3万部(約20%)減らしていたことを報じた。全国紙は5000~1万部減少し、割合では各紙約30%の減少だった。
今回は、直近の2025年4月と半年前の2024年10月を比較する。数値は日本ABC協会で出している「発行社レポート」を基にしているが、ここでの販売報告部数は、あくまで新聞の発行社が報告した部数。日本ABC協会の公査員が裏付けして確認した部数は、別にある「公査レポート」にまとめ、会員専用のサイトで共有される。本誌は非会員のため、内情を正確に反映した部数は分からない。
直近2025年4月時点の県内の日刊紙の販売報告部数は次の通り。
福島民報 19万5601部
福島民友 13万5041部
朝日新聞 3万0248部
読売新聞 2万9749部
毎日新聞 9967部
日本経済新聞 9964部
産経新聞 2734部
河北新報 787部
なお58、59ページの二つの表「福島県内の日刊紙販売報告部数 市・郡別」には「その他」の項目があるが、宮城県のブロック紙・河北新報を指すとみられる。新聞ごとの部数を記した別のレポートでは県内で販売されている河北新報の朝刊部数が787部となっており、その他の部数と一致する。2025年4月時点の表を見ると、相馬市で116部と県内2位で、新地町を含む相馬郡で34部と郡部にしては多いことからも類推できる。相馬市と新地町は距離的にも文化的にも宮城県と密接で、官公庁以外にも河北新報を購読している世帯が少数ながらある。


2024年10月時点の県内の日刊紙の販売報告部数は次の通り。
福島民報 20万0437部
福島民友 13万7565部
朝日新聞 3万0774部
読売新聞 3万2380部
毎日新聞 1万0499部
日本経済新聞 1万0420部
産経新聞 2812部
河北新報 790部
2024年10月から今年4月の半年間での部数減少幅は次の通り。
福島民報 ▲4836部
(2・4%減)
福島民友 ▲2524部
(1・8%減)
朝日新聞 ▲526部
(1・7%減)
読売新聞 ▲2631部 (8・1%減)
毎日新聞 ▲532部
(5・1%減)
日本経済新聞 ▲456部
(4・4%減)
産経新聞 ▲78部
(2・8%減)
河北新報 ▲3部
(0・3%減)
読売新聞の減りが特に激しい。市・郡別にまとめた表を見ると、特に市部で減少が大きかったことが分かる。
ニュースを新聞やテレビで見るよりも、スマートフォンでネットを通して見る割合が増え、特に若年層ではネットが唯一の情報源と言っていい。だが、その一次情報は新聞やテレビが取材してきたもので、Yahoo!ニュースなどのプラットフォームに掲載され、利用者が無料で閲覧できる仕組みとなっている。閲覧数を争う中でニュースの無料公開が当たり前となり、消費者の間で「ネットの情報はタダ」の意識が染みついている。手間暇をかけた取材が割に合わなくなり、むしろ「オールドメディア」と揶揄される始末。出版の構造が行き詰まる中、創刊50年を超える本誌も模索中で他人事ではない。
インフルエンサー活用
全国紙、地方紙問わず電子版に参入しているが、収益化がうまくいっている話は聞かない。購読料と広告料だけでは今のニュース網は維持できず、影響力を生かしたPR業務やコンサル業務など、新聞社はPR会社や広告代理店のような業務で収益を確保する必要に迫られている。
福島県は地元紙が二つある珍しい県で、ただでさえ減少する購読者を分け合っている。購読料に代わる「シノギ」を求める動きは他県以上に深刻なはずだ。その中で、税金で成り立っている行政機関は、地方経済が衰退する中でも民間よりは影響を受けにくく、安定した取引先になる。本誌は2022~24年度に県が地元2紙に業務委託した事業の詳細を調べるため、関連の公文書を開示請求した。一部ではあるが、気になった事業を紹介していく。
【福島民報】
福島民報は県の国際交流員による「『ふくしまの今』発信事業」委託業務を毎年押さえている。担当課は県生活環境部国際課で、事業は対外的にはFukushima Todayで名が通っている。
仕様書によると、目的は、国際交流員が海外の視点から発見した福島の魅力や福島で暮らす人々の日常、東日本大震災から復興する現在の姿を取材し、各国大使館、在外公館、海外県人会などをはじめとして国内外に発信することで「ふくしまの今」を正確に伝え、共感の輪を広めるとともに、風評払拭を図るもの。2020年から続けている。福島民報は2021年度から受注している。
開示請求した文書は2022年度以降のものなので、初年度の資料は手元にない。2022年度以降の資料によると、事業者選定は公募型プロポーザルで行われた。金額は688万7540円。
参加者は福島民報1社のみ。審査会は県の広報課副課長、観光交流課主幹、国際課長、国際課副課長からなる4人の委員で構成。各自が100点を持ち、満点400点の7割(280点)以上を合格の条件とした。審査委員全員が70点以上を付け、293点を獲得し合格。ただし委員2人からは「フォロワー数を伸ばすための工夫が必要」、「海外のフォロワー数をどう増やしていくかもう少し考えていく必要あり」と、前年度の反省を踏まえた注文が付いた。
2022年4月から23年3月までに毎月2回程度の取材計画を作成し、県の承認を得て取材を実施。年間21回(24日間)の取材のうちインフルエンサーとの取材を2回行った。福島民報の社員2人がディレクターとなり、フリーカメラマンやアシスタントを手配し国際交流員を連れて取材に赴いた。この流れは毎年変わらない。
この事業の肝は、海外出身の国際交流員やインフルエンサーが福島県の日常を英語で海外に発信する点にある。1年間に毎週2回程度(計87回)、英語と日本語でフェイスブックやインスタグラムに発信した。福島民報の本紙でもニュース記事として2回記事を掲載した。
福島民報2022年4月9日付には、桜で有名な福島市の花見山公園を皮切りに今年度のFukushima Todayが始まったと報じた。記事では、この事業について以下のように説明する。
「『Fukushima Today』は県国際課による『ふくしまの今』発信事業で2020(令和2)年から続けている。県国際交流員が県内各地を訪ね歩いた感想を毎週、フェイスブックとインスタグラムに日本語と英語で魅力を発信している」
福島民報が取材をアテンドする業務を県から受注していることには触れていない。
同年9月23日付では、新たな取材メンバーが小野町のリカちゃんキャッスルを訪問したことが報じられたが、事業の説明は県が主催とあるのみで、福島民報自らが業務を受託していることは前回の記事同様触れていない。自らが企画提案した事業を自社紙面で取り上げると興ざめになると判断し、伏せたのだろうか。
2023年度の「ふくしまの今」発信事業(606万2870円)も公募型プロポーザルで選定し、福島民報1社のみが参加した。今度の審査委員会は前年よりも多い5人体制で、配点も細かかった。委員長に国際課長、副委員長に生活環境部総務課の管理職。残りの委員3人は広報課、風評・風化戦略室、観光交流課の主任主査以上が就いた。風評・風化戦略室から審査委員が入ったのが新しい点だ。ちょうど福島第一原発事故で発生したALPS処理水の海洋放出を始めた年であり、風評払拭により力を入れるためとみられる。
委員1人の持ち点は100点で、満点500点中6割以上の300点以上で合格。1人が51点と厳しめの採点だったが、他の4人がカバーしたため、303点で何とか合格ラインに達した。取材メンバーはアテンド役のディレクター(福島民報社員2人)、カメラマン1人、アシスタント1人。
2024年度の事業予算は513万3000円で前年度より93万円減った。同様に公募型プロポーザルで福島民報1社が参加し、審査では6割以上の得点で契約した。予算は減ったが、受託して4年目になると軌道に乗り、効率化が進む。福島民報社員が務めるディレクターも1人に減らした。2年以上事業を受注すると、事業遂行能力への信頼が生まれ、保証金が免除される規定がある。事業恒例化の余地も生まれる。
【福島民友】
福島民友も独自の県事業受注に努める。一例は、2023年度の「民間団体と連携した関係人口創出・拡大及び移住促進セミナー等実施業務委託(第2回)」(75万0134円)。公募型プロポーザルで事業者を選定し、福島民友1社が参加した。企画提案した事業は「日本酒がつないだ私の『ふくしまぐらし』―きっとあなたも福島に酔いしれる―」だった。
福島県が日本酒の品評会で9連覇を達成し、全国有数の酒どころであることと、日本酒ブームが女性に広がっていることを結び付け、県内で日本酒造りに携わっている女性と移住に興味がある人の交流会を開き、関係人口増加につなげる内容だ。
審査員は県のふくしまぐらし推進課の3人と、東京事務所の1人、広報課の1人が務めた。1人100点の持ち点で6割(300点)以上が契約条件となる。審査員1人が48点と辛口だったが、他の4人が底上げして304点を確保できたため、契約に至った。企画力・独創性といったテーマ性は高い評価だったが、事業目的の理解度、告知・広報、経費の評価が低く、足を引っ張った。
福島民友紙面には交流イベントを告知する記事が2023年9月6日に載り、同10月2日にイベントの様子を報じる記事が載った。いずれの記事も「県の主催。福島民友新聞社が運営」と明記している。
事業の恒例化が大事
地元2紙が協調して受注している県事業もある。「県内外避難者等配布用新聞作成業務」は、分かりやすいニュース解説者として有名な池上彰氏を講師に県内の小中高生が大震災・原発事故からの復興が進む浜通りを取材し、紙面にするジャーナリストスクール事業に付随する業務。ジャーナリストスクール事業は震災後から続いている。受講生が作成した新聞を県内外にいる避難者向けに印刷発行する業務は、地元2紙が池上氏の講師派遣に特別協力し、小中高生の取材・編集をアテンドし助言している以上、福島民報と福島民友以外に代わりができないため随意契約にしている。委託先は地元2紙を毎年交代している。
2022年度は福島民友が受注し139万9970円(5万7000部発行)。23年度は福島民報が受注し141万0750円(6万部発行)。24年度は福島民友が受注し171万8200円(6万部発行)。
他には、福島民友が匿名事業者と公募型プロポーザルで競い受注した2024年度「福島県プレコンセプションケア普及啓発業務委託事業」(1627万2564円)。500点満点中、福島民友410点、匿名事業者383点だった。
2024年度「狩猟魅力発信事業」では福島中央テレビの協力を得て会津若松市、郡山市、福島市で啓発イベント「ふくしま狩猟ワールド」を開いた。契約書は見つからなかったが、福島民友が提示した見積額は449万8725円だった。イベントは新聞記事で告知され、当日の様子も報じられた。福島民友が運営しているとは明記されていなかったが、社内に事業事務局があると書いてあった。
2024年度の「環境にやさしい農業拡大推進事業(消費拡大PR業務)業務委託」は、原発事故以降、有機農業の生産や販売状況が以前の水準に回復しておらず、有機農産物に対する消費者の理解度が十分ではないため、周知し、消費拡大を図る事業。公募型プロポーザルには、福島民報以外に匿名事業者が参加した。福島民報361点、匿名事業者349点で福島民報が選ばれた。資料はほとんど黒塗りだったが、福島民報が出した見積額は847万4380円。継続事業のようで、「オーガニックふくしまマルシェ2024」を開いた。
開示文書で分かった地元2紙が受注する県事業は一部に過ぎない。部数を分け合うのと同じように、広報・イベント事業の受注争いは今後も続くだろう。