【会津若松】神明通り廃墟ビルが放置されるワケ

 会津若松市の中心市街地に位置する商店街・神明通り沿いに、廃墟と化したビルがある。大規模地震で倒壊する危険性が高いと診断されており、近隣の商店主らは早期解体を求めているが、市の反応は鈍い。ビルにはアスベストが使われており、外部への飛散を懸念する声も強まっている。

近隣からアスベスト飛散を心配する声

廃墟のような外観の三好野ビル
廃墟のような外観の三好野ビル
三好野ビル 地図

 神明通りと言えば、会津若松市中心市街地を南北に走る大通りだ。国道118号、国道121号など幹線道路の経路となっており、JR会津若松駅方面と鶴ヶ城方面を結ぶ。通り沿いの商店街には昭和30年代からアーケードが設けられ、大善デパート(後のニチイダイゼン)、若松デパート(後の中合会津店)、長崎屋会津若松店が相次いで出店。多くの人でにぎわった。

 もっとも、近年は郊外化が進んだ影響で衰退が著しく、2つのデパートと長崎屋はいずれも撤退。映画館なども閉館し、食品スーパーのリオン・ドール神明通り店も閉店。人通りはすっかりまばらになった。コロナ禍でその傾向はさらに加速し、空きテナント、空きビルが目立つ。

 そんな寂しい商店街の現状を象徴するように佇んでいるのが、神明通りの南側、中町フジグランドホテル駐車場に隣接する、通称「三好野ビル」だ。

 鉄筋コンクリート・コンクリートブロック造、地下1階、地上7階建て。1962(昭和37)年に新築され、その名の通り「三好野」という人気飲食店が営業していた。同市内の経済人が当時を振り返る。

 「本格的な洋食を提供するレストランで、和食・中華のフロアもあった。子どものころ、あの店で初めてビフテキやグラタンを食べたという人も多いのではないか。50代以上であればみんな知っている店だと思います。会津中央病院前にも店舗を出していました」

 ただ、いまから20年ほど前に閉店し、一時的に中華料理店として復活したもののすぐに閉店。現在はビル全体が廃墟のようになっている。
 壁には枯れたツタが絡まり、よく見ると至るところで壁が崩落。細かい亀裂も入っており、いつ倒壊してもおかしくない状態だ。市内の事情通によると、実際、中町フジグランドホテル駐車場に外壁の破片が落下したことがあり、「近くを通ると人や車に当たるかもしれない」と、同ホテルの負担で塀が設置された。外壁が崩れないようにネットでも覆われた。

 ただその後も改善はされず、強化ガラスが窓枠から外れ、隣接する衣料品店の屋根に破片が突き刺さる事故も発生した。衣料品店の店主は次のように語る。

 「朝、店に来たら床に雨水が溜まっていた。業者を呼んで雨漏りの原因を調べたら、隣のビルから落ちた大きなガラスの破片が原因だと分かったのです。もし歩行者に直撃していたら亡くなっていたと思います」

 消防のはしご車が出動し、不安定な窓ガラスに外から板を張り付ける形で応急処置を施したが、近隣商店主の不安は募るばかりだ。

 何より懸念されるのは、地震などが発生した際に倒壊するリスクだ。

 県は耐震改修促進法に基づき、大地震発生時に避難路となる道路沿いの建築物が倒壊して避難を妨げることがないように、「避難路沿道建築物」に耐震診断を義務付けている。

 会津若松市の場合、国道118号北柳原交差点(一箕町大字亀賀=国道49号と国道118号・国道121号が交わる交差点)から同国道門田町大字中野字屋敷地内(門田小学校、第五中学校周辺)までの区間が「大地震時に円滑な通行を確保すべき避難路」と定められている。すなわち神明通り沿いに立つ三好野ビルも「避難路沿道建築物」に当たる。

 昨年3月31日付で県建築指導課が公表した診断結果によると、震度6強以上の大規模地震が発生した際の三好野ビルの安全性評価は、3段階で最低の「Ⅰ(倒壊・崩落の危険性が高い)」。耐震性能の低さにレッドカードが示されたわけ。

 耐震性が低いビルを所有者はなぜ放置しているのか。不動産登記簿で権利関係を確認したところ、三好野ビルは概ね①相続した土地に建てた建物、②飲食店を始めた後に隣接する土地を買い足して増築した建物――の2つに分かれるようだ。

 ①の所有者は、土地=レストランを運営していた㈲三好野の代表取締役・田中雄一郎氏、建物=雄一郎氏の母親・田中ヒデ子氏。

 ②の所有者は、土地・建物とも㈲三好野。同社は1968(昭和43)年設立、資本金850万円。

 ただ、雄一郎氏は十数年前に亡くなっており、登記簿に記されていた自宅住所を訪ねたがすでに取り壊されていた。雄一郎氏の弟で、同社取締役に就いていた田中充氏と連絡が取れたが、「会社はもう活動していない。親族は相続放棄し、私だけ名前が残っていた。ただ、私は会津中央病院前の店舗を任されていたので、神明通りのビルの事情はよく分からない」と話した。

会津若松市が特定空き家に指定

壁や窓ガラスの崩落、倒壊リスクがある三好野ビルの前を歩いて下校する小学生
壁や窓ガラスの崩落、倒壊リスクがある三好野ビルの前を歩いて下校する小学生

 ①の土地・建物には▽極度額900万円の根抵当権(根抵当権者第四銀行)、▽極度額2400万円の根抵当権(根抵当権者東邦銀行)、▽債権額670万円の抵当権(抵当権者住宅金融公庫)が設定されていた。

 一方、②の土地・建物には▽債権額1000万円の抵当権(抵当権者田中充氏)が設定されていた。ただ、事情を知る経済人の中には「数年前の時点で抵当権・根抵当権は残っていなかったはず」と話す人もいるので、抹消登記を怠っていた可能性もある。

 気になるのは、②の土地・建物が2006(平成18)年、2012(平成24)年、2017(平成29)年の3度にわたり会津若松市に差し押さえられていたこと。前出・田中充氏の話を踏まえると、固定資産税を滞納していたと思われるが、昨年5月には一斉に解除されていた。

 市納税課に確認したところ、「個別の案件については答えられない」としながらも「差押が解除されるのは滞納された市税が納められたほか、『換価見込みなし(競売にかけても売れる見込みがない)』と判断されるケースもある」と話す。総合的に判断して、後者である可能性が高そうだ。

 行政は三好野ビルをどうしていく考えなのか。県会津若松建設事務所の担当者は「耐震改修するにしても解体するにしてもかなりの金額がかかる。国などの補助制度を使うこともできるが、少なからず自己負担を求められる。そのため、市とともに関係者(おそらく田中充氏のこと)に会って、今後について話し合っている」という。

 市の窓口である危機管理課にも確認したところ、こちらでは空き家問題という視点からも解決策を探っている様子。市議会昨年6月定例会では、大竹俊哉市議(4期)の一般質問に対し、猪俣建二副市長がこのように答弁していた。

 《平成29年に空き家等対策の推進に関する特別措置法に基づく特定空き家等に指定し、所有者等に対し助言・指導等を行ってきたところであり、加えて神明通り商店街の方々と今後の対応を検討してきた経過にあります。当該ビルにつきましては、中心市街地の国道沿いにあり、周辺への影響も大きいことから、引き続き状態を注視しつつ、改修や解体に係る国等の制度の活用も含め、所有者等や神明通り商店街の方々、関係機関と連携を図りながら、早期の改善が図られるよう協議してまいります》

 特定空き家とは▽倒壊の恐れがある、▽衛生上有害、▽著しく景観を損なう――といった要素がある空き家のこと。自治体は指定された空き家の所有者に対し「助言・指導」を行い、改善しなければ「勧告」、「命令」が行われる。「勧告」を受けると、翌年から固定資産税・都市計画税が軽減される特例措置がなくなってしまう。「命令」に応じなかった所有者には50万円以下の過料が科せられる。

 それでも改善がみられない場合は行政代執行という形で、解体などの是正措置を行い、費用を所有者から徴収する。所有者が特定できない場合は自治体の負担で略式代執行が行われることになる。この場合、代執行の撤去費用の一部を国が補助する仕組みがある。

 ただし、三好野ビルの解体費用は数千万円とみられ、市が一部負担するにも金額が大きい。耐震性でレッドカードが出ている三好野ビルに対し、行政が及び腰のように見えるのはこうした背景もあるのだろう。

コロナ禍で頓挫した活用計画

建物の中を覗いたら看板と車がそのまま置かれていた
建物の中を覗いたら看板と車がそのまま置かれていた

 「実はあの建物の活用をかなり具体的に検討していた」と明かすのは、神明通り商店街振興組合の堂平義忠理事長だ。

 「5年前ごろ、『低額で譲ってもらえるなら振興組合の方で活用したい』と伝え、市役所の関係部署によるプロジェクトチームをつくってもらって本格的に調査したことがありました。経済産業省の補助金を使い、バックパッカー向けの宿泊施設をつくろうと考えていました。解体費用は当時9000万円。一方、改装にかかる総事業費は4億5000万円で、補助金を除く約2億円を振興組合で負担する計画でした」

 だが、詳細を話し合っているうちにコロナ禍に入り、そのまま計画は頓挫。仮に再び経産省の補助事業に採択されても、崩落が進んでおり、建設費が高騰していることを踏まえると予算内に収まらない見込みのため、活用を断念したようだ。

 同振興組合では三好野ビルについて、毎年市に早急な対応を求める意見書を提出しているが、市の反応は鈍いという。

 「この間、まちづくりに関するさまざまな話し合いの場がありましたが、中心市街地活性の計画などに組み込んで解体を進めようという考えは、市にはないようです。事故が起きてからでは遅いと思うのですが……。個人的には、人通りが減ったとは言え中心市街地なので、解体・更地にして売りに出した方が喜ばれるのではないかと思います」(堂平氏)

 ある経営者は「三好野ビルには放置しておくわけにはいかない〝もう一つのリスク〟がある」と話す。

 「建てられた年代を考えると、内装にはアスベストが使われているはず。吸入すると肺がんを起こす可能性があるため、現在は製造が禁止されているが、仮に地震などで崩壊することがあればアスベストが周辺に飛散することになる。壁が崩落して穴が空いている場所もあるので、周囲に飛散しないか、業界関係者も心配している。市に早急な対応を訴えた人もいたが、取り合ってもらえなかったようです」

 前出・堂平氏も「調査に入った際、『4階から上はアスベストが雨漏りで固まっている状態だった』と聞いた」と明かす。

 市危機管理課の担当者に問い合わせたところ、三好野ビルの内部にアスベストが使われていることを認めたうえで、「アスベストは建物の内壁に使われており外に飛んで行くことはないので、そこに関しては心配していない」と話す。だが三好野ビル周辺は、地元買い物客はもちろん観光客、さらには登下校の児童・生徒も通行している。万が一のことを考え、せめてアスベストの実態調査と対策だけでも早急に着手すべきだ。

 廃墟と言えば、本誌昨年11月号で会津若松市の温泉街に残る廃墟ホテルの問題を取り上げた。

 運営会社の倒産・休業などで廃墟化する宿泊施設が温泉街に増えている。そうした宿泊施設は固定資産税が滞納されたのを受けて、ひとまず市が差し押さえるが、たとえ競売にかけても買い手がつかないことが予想されるため対応が後回しにされ、結局何年も放置される実態がある。

 近隣の旅館経営者は「行政は『所有者がいるから手を出せない』などの理由で動きが鈍いですが、お金ならわれわれ民間が負担しても構わないので、もっと積極的に動いてほしい」と要望していた。

 それに対し会津若松市観光課の担当者は「地元で解体費用を持つからすぐ解体しましょうと言われても、実際に解体を進めるとなれば、(市の負担で)清算人を立て、裁判所で手続きを進めなければならない。差し押さえたと言っても所有権が移ったわけではないので、簡単に進まないのが実際のところです」と対応の難しさについて話していた。

 早急な対応を求める周辺と、慎重な対応に終始する市という構図は、三好野ビルも温泉街も同じと言えよう。言い換えれば会津若松市は「2つの廃墟問題」に振り回されていることになる。

市に求められる役割

室井照平市長
室井照平市長

 ㈲三好野の取締役を務めていた田中充氏は「私は75歳のいまも働きに出ているほどなので、解体費用を賄うお金なんてとてもない」と話す。

 一方で次のようにも話した。

 「あの場所を取得して、解体後に活用したいという方がいて、各所で相談していると聞いています。県や市の担当者の方には『私個人ではもうどうにもできないので、申し訳ないですが皆さんに対応をお任せしたい』と伝えてあります」

 解体後の土地を活用したいと話すのが誰なのかは分からなかったが、解体費用まで負担して購入する人がいるのであれば朗報と言える。

 1月1日に発生した能登半島地震で倒壊した石川県輪島市のビルも7階建てだった。三好野ビルが現状のまま放置されれば、同じようなことが起こる可能性もある。もっと言えば、市内には三好野ビル以外に大規模地震が発生した際の安全性評価が最低の「Ⅰ(倒壊・崩落の危険性が高い)」となった建物が7カ所もあった。市はアスベスト対策も含め、地元から不安の声が広がっていることを重く受け止め、この問題に本腰を入れて臨む必要があろう。

 昨年の市長選前には室井照平市長も三好野ビルを視察に訪れ、前出・堂平理事長や周辺商店に対し現状を把握した旨を話したという。今こそ先頭に立って音頭を取るべきだ。

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