かつてはレジャースポーツの代名詞とも言われたゴルフ。しかし、県内のゴルフ場は人口減少や震災・原発事故などの影響で数が大きく減っている。現状を取材した。
跡地の8割がメガソーラー用地に
県内にゴルフ場はいくつあるのか調べようとしたが、現状を反映したデータが見当たらない。福島県ゴルフ連盟に問い合わせると「連盟に加盟しているのは18倶楽部、非加盟は17倶楽部」(事務局)と教えてくれたが、それ以上のことは「質問されてもコメントできない」(同)と素っ気ない。
とりあえず、県内には「35」のゴルフ場があることだけは分かったので、NTTのタウンページ(最新版は2023・8)を使って拾い出すことにした。それをまとめたのが別表①である。
表① 福島県内ゴルフ場一覧
ゴルフ場名 | コース | 開場 | 所在地 | 運営会社 |
---|---|---|---|---|
福島ゴルフ俱楽部民報コース | 18H | 1961年 | 福島市 | ㈱福島ゴルフ倶楽部 |
パーシモンカントリークラブ | 27H | 1987年 | 伊達市 | パシフィックゴルフマネージメント㈱ |
安達太良カントリークラブ | 18H | 1966年 | 二本松市 | ㈱グリーンドリーム |
郡山熱海カントリークラブ | 18H | 1988年 | 郡山市 | ㈱カネキ |
郡山ゴルフ倶楽部 | 18H | 1974年 | 郡山市 | ㈱郡山ゴルフ倶楽部 |
北郡山カントリークラブ | 9H | 1974年 | 本宮市 | 石橋建設工業㈱ |
大玉カントリークラブ | 27H | 1993年 | 大玉村 | ㈱カネキ |
宇津峰カントリー俱楽部 | 27H | 1976年 | 須賀川市 | ㈱アコーディア・ゴルフ |
東都郡山カントリー倶楽部 | 18H | 1998年 | 須賀川市 | 東都観光バス㈱ |
ローレルバレイカントリークラブ | 18H | 1976年 | 須賀川市 | パシフィックゴルフマネージメント㈱ |
グリーンアカデミーカントリークラブ | 18H | 1992年 | 白河市 | ㈱グリーンアカデミーカントリークラブ |
白河国際カントリークラブ | 18H | 1975年 | 白河市 | ㈱カネキ |
白河ゴルフ倶楽部 | 27H | 1996年 | 白河市 | NPO法人白河ゴルフ倶楽部 |
白河メドウゴルフ倶楽部 | 18H | 1991年 | 天栄村 | 平和観光開発㈱ |
太平洋クラブ白河リゾート | 18H | 1974年 | 天栄村 | ㈱太平洋クラブ |
グランディ那須白河ゴルフクラブ | 36H | 2003年 | 西郷村 | リゾートトラスト㈱ |
白河高原カントリークラブ | 18H | 1963年 | 西郷村 | 東京建物リゾート㈱ |
矢吹ヒルズゴルフクラブ | 18H | 1991年 | 矢吹町 | 福島総合開発㈱ |
矢吹ゴルフ倶楽部 | 18H | 1991年 | 矢吹町 | ㈱ジェージー矢吹 |
棚倉田舎倶楽部 | 27H | 1976年 | 棚倉町 | 棚倉開発㈱ |
会津磐梯カントリークラブ | 18H | 1962年 | 会津若松市 | ㈱DMC aizu |
メローウッドゴルフクラブ | 18H | 1994年 | 磐梯町 | 星野リゾート㈱ |
猪苗代ゴルフクラブ | 18H | 1998年 | 猪苗代町 | 猫魔ホテル猪苗代ゴルフコース㈱ |
ボナリ高原ゴルフクラブ | 18H | 2000年 | 猪苗代町 | ㈱ボナリ高原ゴルフクラブ |
会津高原たかつえカントリークラブ | 18H | 1993年 | 南会津町 | ㈱みなみあいづ |
五浦庭園カントリークラブ | 18H | 1990年 | いわき市 | ㈱勿来 |
小名浜オーシャンホテル&ゴルフクラブ | 18H | 1992年 | いわき市 | ㈱アコーディア・ゴルフ |
小名浜カントリークラブ | 27H | 1976年 | いわき市 | ㈱アコーディア・ゴルフ |
湯本スプリングスカントリークラブ | 18H | 1977年 | いわき市 | ㈱湯本スプリングスカントリークラブ |
JGMサラブレッドゴルフクラブ | 18H | 1991年 | いわき市 | ㈱ジャパンゴルフマネージメント |
塩屋崎カントリークラブ | 27H | 1974年 | いわき市 | 大成観光㈱ |
スパリゾートハワイアンズゴルフコース | 27H | 1977年 | いわき市 | ㈱アコーディア・ゴルフ |
バイロンネルソンカントリークラブ | 27H | 1994年 | いわき市 | 東京建物リゾート㈱ |
ヘレナ国際カントリー倶楽部 | 18H | 1993年 | いわき市 | ㈱ヘレナ・インターナショナル |
鹿島カントリー倶楽部 | 18H | 1976年 | 南相馬市 | ㈱鹿島カントリー倶楽部 |
雪が降らない温暖ないわき市に9カ所集中しているが、最も歴史が古いのは福島市の福島ゴルフ俱楽部民報コース(1961年開場)。次いで会津若松市の会津磐梯カントリークラブ(1962年開場)、西郷村の白河高原カントリークラブ(1963年開場)と続く。1990年代に開場が相次いでいるのは、バブル時代のリゾートブームが影響しているのだろう。県内で最も新しいのは、2003年に開場した西郷村のグランディ那須白河ゴルフクラブ。
「県内で『格が高い』とされるのは宇津峰カントリー、会津磐梯カントリー、小名浜カントリー。もう一つ加えるとしたら白河高原カントリーかな。これらのゴルフ場は派手さはなく、クラブハウスも新しくはないがコースにお金をかけている」
こう話すのは県内のゴルフ事情に詳しいショップオーナーだが「格」とは何を意味するのか。
「ハード・ソフト両面の整備が行き届いていることを指します。そういうゴルフ場は要人や著名人らがプレーするし、ゴルファーたちに自然と『あそこでプレーしたい』と思わせる。伝統や格式を重んじるゴルフ場にとっては欠かせない要素。それがゴルフ場の格を上げることにもつながります」(同)
格が重んじられる理由はもう一つある。
「格が高いと会員権が売れたんです。昔は一次、二次、三次と何段階かに分けて募集しても、すぐに買い手が付いた。会員権はそれくらい資産価値があった」(同)
売れれば儲けになり、それを原資に開発や整備が行き届く。会員のステータスも上がる。そうやってゴルフ場の格は形成されていくという。
利益を出すのは至難の業
実際、バブル時代の会員権は投資や投機の対象だった。著名人や政治家は必ずと言っていいほど会員権を所有していた。しかし、バブル崩壊とともに相場は急落、資産としての魅力は失われた。
いわき市内の高齢の会社社長が苦笑しながら某ゴルフ場の会員権を見せてくれた。額面に「弐千萬園」と書いてある。
「当時、市内では数人しか購入できない会員権だった。それが、現在の価値は数十万円だって(苦笑)。買う人もいないだろうから、とりあえず持っているよ」(会社社長)
先ほど「儲け」と書いたが、会員権の多くは預託金制を採っている。すなわち、ゴルフ場に入会保証金を預けることで会員になり、ゴルフ場はその預託金を使って開発、整備、運営を行うが、会員は一定の据え置き期間を経ると退会が可能で、退会する場合は預託金の返還を請求できる。しかし、預けたお金は既に使われ、手元に残っていないため、民事再生法に至ったり、運営会社がコロコロと変わる事態が起きるのである。
そうなると、ゴルフ場はどうやって利益をあげるのか。
「かつてはプレー料金も高かったが、今はビジターでも週末1万円を切る。冬は雪でクローズするゴルフ場もある。そもそもゴルフ場は1日当たりのキャパが決まっており、何百人もプレーできないので、プレー料金で儲けを出すのは難しいと思う」(前出のショップオーナー)
会員からの年会費も貴重な収入源だが、高くしすぎると会員権が売れなくなるので、これ以上は高くできないボーダーラインがあるという。
そもそも、ゴルフ人口は減っている。雑誌『ゴルフ場セミナー』によると、2000年と2021年のゴルフ場延べ利用者数は約9000万人で変わっていないが、公益財団法人生産性本部が発行する『レジャー白書』によると、ゴルフ人口は2000年の推計1290万人から2021年には同560万人と半分以下になっている。コロナ禍でゴルフ熱はいったん高まったものの、徐々にゴルフ離れが起きているというデータもある。
そうなると、昔のように会員権を売り出せない今のゴルフ場で利益をあげるのは難しいことになるが、だからと言ってメンテナンスを怠ると客が来ない悪循環に陥ってしまう。
「格を保つなら、年間で1ホールに600~1000万円の整備費をかけないとダメでしょうね」(同)
グリーンは毎朝、芝刈りをする必要があるし、コースの芝も定期的に刈り、肥料を与え、空気穴を開けるなど丁寧な整備が求められる。そのほか従業員やキャディーの人件費もかかるから、ゴルフ場経営で利益を出すのは至難の業と言える。
福島県の場合、そこに追い打ちをかけたのが震災・原発事故だ。とりわけ原発事故による放射性物質の拡散は、風評被害も加わって浜通りや中通りの複数のゴルフ場を閉鎖に追い込み、運営会社が東京電力に損害賠償を請求する事態が相次いだ。
原発事故で閉鎖続出
再びNTTのタウンページをもとに、現在は閉鎖されているが震災・原発事故前の2010年には営業していたゴルフ場を拾い出すと別表②の結果になった。もちろん全てが原発事故によるものではなく、経営難が原因のゴルフ場もあるが、24カ所も閉鎖されているのは驚きである。
表② 2010年当時営業していたゴルフ場
福島カントリークラブ | 福島市 |
サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部 | 二本松市 |
ワークジャパンゴルフ倶楽部 | 国見町 |
福島空港カントリークラブ | 須賀川市 |
新白河ゴルフ倶楽部 | 白河市 |
龍の舞ゴルフクラブ | 白河市 |
那須TAIGAカントリークラブ | 西郷村 |
ラフォーレ白河ゴルフコース | 泉崎村 |
新ゲインズボローカントリー倶楽部※ | 棚倉町 |
棚倉ステークスカントリークラブ※ | 棚倉町 |
グリーンアカデミーカントリークラブ | 石川町 |
福島石川カントリークラブ | 石川町 |
ガーデン・バレイカントリークラブ | 浅川町 |
マザーリゾートゴルフクラブ | 小野町 |
ナリ会津カントリークラブ | 会津若松市 |
いわきゴルフクラブ※ | いわき市 |
いわきプレステージカントリー倶楽部※ | いわき市 |
新たいらカントリークラブ | いわき市 |
セベバレステロスゴルフクラブコース※ | いわき市 |
田人カントリー倶楽部 | いわき市 |
勿来TAIGAカントリークラブ | いわき市 |
天明カントリークラブ | 相馬市 |
リベラルヒルズゴルフクラブ | 富岡町 |
クレステージカントリークラブ | 楢葉町 |
ちなみに、これらのゴルフ場跡地が現在どうなっているか調べたところ、5カ所ははっきりしないが、それ以外の19カ所はメガソーラーに転用されていることも分かった。新たに林地開発や造成工事をする必要がないゴルフ場跡地はメガソーラーの設置場所に適していることが、この事実からも裏付けられる。
一方で、いわき市のヘレナ国際カントリー倶楽部は、ゴルフ場予約サイト「楽天GORA」で高評価を得たゴルフ場として東北初となる総合賞の全国10傑に選出された(福島民友3月18日付)。西郷村のグランディ那須白河ゴルフクラブでは、男女のプロトーナメントが定期的に開催されるている。県内には全国的に高く評価されているゴルフ場があるのも事実である。
現在の「35」が適正な数なのかどうかは分からないが、各ゴルフ場にとっては利益をあげるために知恵を絞る日々が続きそうだ。