飯舘村蕨平にあるバイオマス発電所(飯舘みらい発電所)で昨年12月16日に火災が発生した。その後、同社は原因究明を進めると同時に今後の対策などをまとめ、今年3月に自社ホームページで公表した。これを受け、住民団体関係者らが同社に質問状を送付し、この問題を追及している。
住民団体関係者が運営会社に質問状

同発電所を運営するのは、飯舘バイオパートナーズ(以下「飯舘BP」)という会社で、東京電力ホールディングス、熊谷組、神鋼環境ソリューション、東京パワーテクノロジーが出資し、福島県の里山再生・林業振興、脱炭素社会の実現を目的に、2020年6月に設立された。最大出力は7500㌔㍗で、地元の間伐材、バーク(樹皮)など約9万5000㌧(年間)を燃料としている。
場所はもともと環境省の減容化施設(除染廃棄物の焼却施設)があったところ。そのためコンセンサスが得やすかったのだろう。そもそも、周辺には住家がない。帰還困難区域に指定された長泥地区と隣接し、比較的放射線量が高い地域でもある。
営業運転開始は昨年9月12日で、火災が発生したのはそれからわずか3カ月後のことだった。昨年12月16日付の飯舘BPの発表には次のように記されている。
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本日10時41分、飯舘みらい発電所(福島県相馬郡飯舘村蕨平字蕨平199番2)ボイラへの燃料投入口付近において、運転員により火災が発生していることを確認しました。
そのため、ただちに消防署へ通報、消防による消火活動を行い、13時36分に鎮火していることが確認されました。原因は、今後調査してまいります。
なお、本火災による負傷者はなく、構内モニタリングポストの指示値に変化はありません。
〈時系列〉
10時41分 運転員がボイラへの燃料投入口における火災を確認
11時15分 自衛消防隊による消火活動の開始
11時49分 南相馬消防署による消火活動の開始
13時36分 消防署による鎮火を確認
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その後、今年3月14日付で、営業運転を再開したことを発表。加えて、その間「飯舘みらい発電所 設備火災対策会議」を設置し、調査チームを編成して原因究明と再発防止策の検討を進めてきたことと、調査結果も公表した。
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1、火災の発生経緯
燃料搬送系インバータ機器の交換作業中に通信線が断線し、この通信線を介して監視・制御していたシステムが停止しました。その影響で発電所の自動停止機能が作動しましたが、一部の送風機が正常に停止せず、ボイラ内の圧力が通常より上昇しました。
その結果、ボイラから燃料搬送導通路(以下、導通路)へ約400度を超える熱風が漏出。導通路内に熱と酸素が供給されたことで燃料が発火し、火災が発生しました。
2、火災の原因
ボイラから空気を排出する送風機は停止したものの、空気を供給する送風機が稼働し続けたため、ボイラ内の圧力が異常に上昇したことが主な原因と考えられます。
3、火災の影響
・人身被害=なし
・放射線管理=発電所構内および周辺(10箇所)のモニタリングポスト、敷地境界での空間線量率に有意な変動はなく、採取した空気
・水の分析でも放射性物質は検出限界値以下でした。
・設備被害=のぞき窓、監視カメラが破損しました。導通路および内部機器は高温にさらされましたが、検査・補修により使用可能な状態に回復しました。
4、再発防止対策
今回の調査結果を踏まえ、外部専門家の意見を取り入れ、以下の対策を実施しました。
・監視制御システム=監視制御回線の異常発生時の影響を小さくするため、通信構成を細分化
・自動停止機能=ボイラが安全に停止するよう設計を見直し、改修
・ボイラ圧力管理=ボイラ圧力が異常上昇した場合、確実に空気を引き抜く送風機を直接操作できる仕組みに改修
・定期的な社員研修=異常発生時の対応を徹底し、再発防止に向けた運転員のスキル向上を図る
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質問と回答の中身

この件について、「放射能ごみ焼却を考えるふくしま連絡会」の和田央子氏、NPO法人・市民放射能監視センター「ちくりん舎」副理事長の青木一政氏、飯舘村放射能エコロジー研究会共同世話人の糸長浩司氏(元日本大学教授)の3者は連名で、飯舘BPに質問状を送付した(3月21日付)。
その内容は、火災の状況・影響・発生原因、再発防止策など6項目22件に及ぶ。火災時にどんな状況だったのか、その後の対応などを詳しく尋ねるものだった。
これに対し、飯舘BPからは最初に「文書による回答で誤解を生まないよう精査するため、少し時間がほしい」旨の回答があり、4月24日に正式回答があった。ただ、3者はそれを不十分として、5月9日付で再質問状を送付した。その主な部分について、「初回質問」(住民団体関係者)、「回答」(飯舘BP)、「再質問」(住民団体関係者)の並びで紹介する。
初回質問▽火災をどのように感知したのか。火災報知機の作動か監視システムの警報かなど、詳細を時系列で示してほしい。
回答▽火災は燃料搬送経路の内部で発生し、運転員が監視カメラ映像や現場でのぞき窓ガラスの破損を確認し、11時09分に火災を確認した。
再質問▽10時41分火災発生と公表したが、その根拠と11時09分に運転員が火災を確認するまでの28分のずれの原因は何か。燃料搬送経路に火災報知器は設置されていないのか。今後の対策として設置した場合の個数と位置、施設全体の火災報知器設置場所と今後の追加設置場所を明示してほしい。
初回質問▽ボイラ外で燃えた燃料チップの放射性セシウム濃度と量、燃焼後の灰の放射性セシウム濃度と量を教えてほしい。
回答▽火災は燃料搬送経路内部で発生し、外部では燃料チップは燃焼していない。監視カメラ設置フロアには未燃の燃料チップが散らばった。当日使用燃料は約100ベクレルと推定。火災発生場所とその周辺、散らばった燃料チップの表面汚染密度を測定し、バックグラウンドと差がないこと、空間線量率が平常時と同等(0・08~0・10マイクロシーベルト)であることを確認した。
再質問▽火災発生から消火活動開始までの34分間に燃焼した燃料チップの総量はどの程度か。飯舘BPのウェブサイトでは12月の燃料のセシウム137濃度がチップND~282ベクレル、バークND~463ベクレルと明記されているが、発火時の燃料が約100ベクレルと少なめにしている根拠は何か。散らばった燃料チップの量を提示してほしい。飯舘BPウェブサイトの構内モニタリングポストの12月の値は0・12~0・14マイクロシーベルトであるのに対し、回答では0・08~0・10マイクロシーベルトとなっている理由は何か。
初回質問▽「採取した空気・水の分析」で検出限界値以下とあるが、採取場所とそれぞれの検出下限値を示してほしい。
回答▽敷地境界の空間線量率の測定では変動なし(0・11~0・40マイクロシーベルト)。空気中の放射性濃度測定(発生場所風上・風下)、地下水測定(上流・下流)、排水測定(合流マンホール)、油分分離槽の水の測定(東・西)では全て検出限界値未満だった。それぞれの検出限界値も示した。
再質問▽火災発生から消火活動開始までの38分間の燃焼場所での空間線量率、空気中の放射性濃度測定値を提示してほしい。消火直後の同様の値も提示してほしい。
初回質問▽3月4日付資料で「燃料搬送系インバータ機器の交換作業中に通信線が断線」とあるが、インバータ機器の交換が必要になった理由を教えてほしい。
回答▽調査の結果、インバータの故障が判明したため、交換作業が必要になった。
再質問▽なぜ調査が必要となったのか。どのような事象がいつ起こり、その結果として何を調査して、インバータ故障と判明したのか、経緯を示してほしい。
初回質問▽インバータ交換をする場合、ボイラー稼働を停止して実施すべきと考えるが、今回そうしなかった理由を教えてほしい。
回答▽当発電所では燃料搬送系統が2系統あり、インバータを交換する対象の燃料搬送系統は停止して作業している。
再質問▽ボイラを止めてから時間的余裕を見てインバータの交換作業を行うのが危機管理の視点から当然と考えるが、そのような対応マニュアルになっていなかったのか。ボイラを止めると経済的不利益となることから、当初の設計段階から2系統として、1系統は稼働しボイラを停止しないという管理マニュアルとなっていたのではないか。
初回質問▽再発防止策の中に、自動停止機能=「ボイラが安全に停止するよう設計を見直し、改修」とあるが、自動停止機能は基本的な機能であり、試運転時にこうしたチェックが行われていなかったとすれば問題である。自動停止機能が正常に働かないシーケンスとなっていた原因は何だったのか。
回答▽監視制御システムの一部機能が正常に動作しなかった状況下で、自動停止機能が正常に動作完了しなかったため、当該状況下でもボイラが安全に停止するように改修した。
再質問▽質問は「試運転時にこうしたチェックが行われていなかったのか」、「自動停止機能が正常に働かないシーケンスとなっていた原因はなんだったのか」である。他の状況下でも潜在的に「正常に働かない」場合が存在する可能性が予想される。問題を深掘りし、根本原因を見つけて、その観点でソフトを見直すことは設備信頼性向上の常識である。今回の「対策」では全く不十分ではないか。
初回質問▽再発防止策の中に、ボイラ圧力管理=「ボイラ圧力が異常上昇した場合、確実に空気を引き抜く送風機を直接操作できる仕組みに改修」とあるが、現行システムでは、システムの異常に備えてオペレーターによる手動操作ができない仕組みになっているということか。
回答▽監視制御システムにおいて、空気を引き抜く送風機への通信線を単独化した。通信構成の細分化の対策の一つに相当する。
再質問▽一般的に、プラント制御においては、全てのファンや駆動装置、バルブなどの回路に「手動」モードが設けられ、オペレーターの介入が可能になっている。今回の例もそうだが、何かの潜在的異常により、火災、人災や重大設備破損などの拡大防止のため、オペレーターの判断で強制的に動作させる「最後の砦」である。このようなプラント制御システムで数十年にわたり築き上げられてきた、最低限の知識さえない設計ではないかとの疑念を持たざるを得ない。
初回質問▽再発防止策の中に、定期的な社員研修=「異常発生時の対応を徹底し、再発防止に向けた運転員のスキル向上を図る」とあるが、スタートアップ、定常運転、シャットダウン、警報発令時の対応などを示したマニュアルは整備されていないのか。
回答▽マニュアルは整備されている。今回の設備火災事象を踏まえ、今後に向けてさらなる改善を図るべく、マニュアル類の修正等を行いスキル向上を図る。
再質問▽マニュアルがあるとすれば、本件に即して、マニュアルの不備を明らかにしてほしい。具体的にどのような点について不備があり、訂正補充したかを明らかにしてほしい。
初回質問▽今回、オペレーターの対応がまずかった点は何だったのか、それを明らかにしなければ、一般的な「スキル向上」では改善は難しいと考えるがどうか。
回答▽今回の調査結果を踏まえて実施した再発防止対策は、可能な限り人の操作に依存せず、設備に対する対策を中心に講じている。設備に対する対策とあわせて、発電所員のスキル向上にも継続して取り組む。
再質問▽「設備に対する対策」として、本件回答では「通信回線の細分化」しか挙げられておらず、その細分化単位の妥当性についても説明されていない。「設備に対する対策」を中心に講じるのであれば、防火帯の設置や、飛び火防止用放水システム等も設置すべきではないか 。
運営会社に聞く
かなり細かい部分に踏み込んでいるが、要するに飯舘BPの火災時の初期対応、原因究明、再発防止策などが十分でない、あるいは疑問が残る、といった思いがあるため、二度にわたり追及しているのだ。
飯舘BPに3者から質問があったこと、その背景には対応が十分でない、あるいは疑問が残る、といった思いがあると考えられるが、どう捉えているかと問い合わせたところ、以下のような回答があった。
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昨年12月に設備火災を発生させてしまったことにつきまして、飯舘村をはじめとする皆さまにご心配とご迷惑をおかけしましたことを改めてお詫び申し上げます。
弊社は、「初期対応」として、設備火災発生確認直後に速やかに公設消防へ通報するとともに、自衛消防隊による消火活動を開始しました。人身の安全確保を第一に消火活動を進め、放射線による周辺環境への影響がないことの確認を行いました。また、発生当日にプレスリリースを行い、本件火災の概要について公表しております。
加えて、「火災後の対策」として、プラントメーカーと協働で「設備火災対策会議」を設置し、外部専門家の知見も得ながら、原因究明と再発防止策を実施しました。具体的には、本火災の主な原因が、ボイラから空気を排出する送風機が停止した一方、空気を供給する送風機が稼働し続け、ボイラ内の圧力が異常上昇したことにあるとの調査結果を踏まえ、以下の4点を新たに再発防止対策として講じております。
再発防止策①監視制御システムにおいて、監視制御回線の異常発生時の影響を小さくするために通信構成を細分化、②自動停止機能において、ボイラが安全に停止するよう設計を見直し、改修、③ボイラ圧力管理において、ボイラ圧力が異常上昇した場合、確実に空気を引き抜く送風機を直接操作できる仕組みに改修、④定期的な社員研修において、異常発生時の対応を徹底し、再発防止に向けた運転員のスキル向上を図る。
弊社は、上述の通りの対策を行った上で、飯舘村さまをはじめ周辺自治体さまへもご報告を行い、ご理解を得て、今年3月に再稼働するに至りました。今後も再発防止に努め、安全かつ安定した発電所運営に全力を尽くしてまいります。
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同様の事態が起きないよう要望

飯舘村によると、火災発生直後に同社から説明を受け、議会とも情報共有をしたという。一方、運営会社には「当村だけでなく、もっと広い範囲の自治体に説明してほしい」旨を申し入れた。
この点について、飯舘BPは「飯舘村さまより地域協議会でのご報告の場をいただき、本件設備火災の調査結果および対応についてご報告いたしました。その際は、今後こうした事態が起こらないよう、また万が一の場合には速やかな対応ができるよう努めることについて、あらためて要望をいただきました」とのことだった。
質問状送付者の1人で、NPO法人・市民放射能監視センター「ちくりん舎」副理事長の青木一政氏はこう話す。
「初回質問状送付から回答までは1カ月ほどかかり、その割には非常に稚拙な回答で、こちらからの質問に正面から答えず、論点をずらしたものでした。飯舘BPは、(この間のリリースで)『このような事態を二度と繰り返さないよう今後も再発防止に努め、安全かつ安定した発電所運営に全力を尽くしてまいります』としていますが、その姿勢を疑わせるものでした」
さらに、青木氏はこう続けた。
「今回は幸い4時間程度で鎮火しましたが、蕨平周辺は高濃度に汚染された山林が広がります。岩手県大船渡市での山火事では出火から鎮火まで40日もかかり、焼失面積は2900㌶と報道されました。蕨平で、万が一飛び火して、周辺の放射能汚染した山林に燃え広がれば、放射能再拡散の問題も加わり、事態はさらに深刻になると予想されます」
青木氏によると、再質問状の回答はまだ来ておらず(本誌取材時の6月中旬時点)、「現在はそれを待っているところ」という。青木氏は「飯舘BPに対して、今回の火災原因の事実と本質的問題を明らかにして、再発防止のための根本的対策と予防対策を徹底し、今後、絶対に同様の火災を発生させないよう要望していきます」と話しており、再質問に対する回答次第では今後も追及が続きそうだ。
























