【JA福島五連】管野啓二会長インタビュー【2023年9月号】

【JA福島五連】管野啓二会長インタビュー【2023年9月号】

かんの・けいじ 1952年生まれ。福島県農業短期大学校卒。JAたむら代表理事組合長、JA福島さくら代表理事専務、代表理事組合長を務め、昨年6月の総会でJA福島五連会長に選任された。

原発事故に伴う風評被害や、自然災害、コロナ禍での米価下落、さらには燃料高騰など、農業を取り巻く環境は厳しさを増している。昨年6月にJA福島五連会長に就任した管野啓二会長に、それら課題への対応や、「第41回JA福島大会」で決議された3カ年基本方針の進捗状況などについて話を聞いた。

生産者の所得が確保される形を早期に実現したい。

 ――昨年6月の総会で会長に選任されてから1年超が経過しました。この間を振り返っての感想をお聞かせください。

 「昨年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、県内では2021年2月、2022年3月に2年連続で福島県沖地震が発生し、新型コロナ感染症の拡大等、課題が山積する中、昨年6月に会長に就任しました。

 肥料や燃料・飼料等、様々なものが高騰し農家経営は厳しさを増していきました。国や県へ要請活動を行ったことにより、飼料購入助成等が認められたことは、農家の窮状が理解されたとともに我々の活動が認知されたのかなと思っていますが、その一方で廃業に追い込まれた酪農家・畜産農家の方もいます。そのすべてが飼料高騰に起因するものとは言い切れませんが、もっとできることがあったのではないか、との思いも抱いています」

 ――2021年11月に開かれた「第41回JA福島大会」では、2022年から2024年までの中期計画が策定されました。そのうち、農業産出額を震災・原発事故前の水準である2330億円まで回復させる目標を設定しましたが、その見通しについて。

 「2330億円の早期実現を目標に取り組んできましたが、2021年度の農業産出額は1913億円となりました。大きな要因の1つに、復興すべき地域の復興が遅れている現実があります。もう1つは、想定していた以上に米価が下落してしまったことがあり、厳しい状況にあると思っています。

 そうした中、水田(コメ)から国内需要の多い野菜等に作物転換していただく取り組みをスタートして2年目に入っています。そういった意味では新しい動きが出てきた年になったと思います」

 ――「第41回JA福島大会」では、米の生産過剰基調により、生産品目の見直しが必要なことから、国産需要が見込まれる園芸品目への生産シフトを進めるため、「ふくしま園芸ギガ団地構想」を進める、ということも決議されました。その内容と進捗状況について。

 「『ふくしま園芸ギガ団地構想』は既存産地のさらなる生産振興を図るとともに、基盤整備地区における高収益作物の大規模振興、園芸振興の取り組みを加速化させていくことを目的としています。

 各JAが、これまで栽培した品目等を検討しながら、地域に合ったもの、あるいは新規で需要がありそうなものを検討してもらっています。5JA12地区で、きゅうり、ピーマン、アスパラガス、ねぎ、いちご、トマト、カスミソウなどの栽培に取り組んでいます」

 ――中期計画では「組織基盤強化戦略」も大きな目標の1つに設定され、その中で組合員の維持・拡大、とりわけ、「女性組合員拡大」が目標に設定されましたが、その狙いと見通しはいかがでしょう。

 「『第41回JA福島大会』で決議された中期計画の柱の1つに『組織基盤の強化』があります。いままで中心となって活動をしてきた人が高齢になり、新規就農者が定着しない中、組合員の維持・拡大は容易でない状況です。そんな中、正組合員の拡大と意思反映の強化のため、女性組合員の拡大、女性の経営への参画を進めています。2022年度末で、正組合員における女性の比率は20・4%で、前年度より増えていますが、さらなる拡大を目指します。

 やはり、女性部ではどういうことをしているのか等々を理解していただくことが仲間を増やす第一歩になると思います。女性部の中には『フレッシュミズ』という組織があり、それが定着できずにいる地区もありますから、県内全体でフレッシュミズが構成されるように進めていきたいと思っています。女性部組織が楽しく、自らの経営や暮らしに役立つ組織であるということをいかにしてPRできるかが重要になると思います」

就農支援センターの実績

 ――今年4月に、県、JAグループ福島、福島県農業会議、福島県農業振興公社がワンフロアに常駐する総合相談窓口「福島県農業経営・就農支援センター」が開所しました。同センターの意義、これまでの実績等について。

 「県に対し『新しく農業を始めたい人や規模拡大などを考えている生産者からの相談にワンストップ・ワンフロアで対応できるような仕組みづくりをしてほしい』と要請し続け、念願叶い、今年4月に、県、JAグループ、農業会議、農業振興公社が集う支援センターが自治会館の1階に開所しました。このような体制は福島県が最初だったこともあり、他県からの視察などもあります。中身については、電話相談、支援センターへの来訪、あるいはこちらから出向くなどの方法で対応しています。相談者も親から受け継いでの就農、全くの新規就農者、あるいは県外からの移住者など多種多様で、法人の新規参入相談もあります。

 相談件数は4月から6月の3カ月間で298件に上り、内訳は就農相談が186件、経営相談が103件、企業等の参入相談が9件となっており、昨年同期と比較すると約2倍になっています」

 ――東日本大震災・原発事故から12年超が経過しました。この間、福島県農畜産物は、いわゆる風評被害に苦しめられ、品目によっては未だに影響が出ているものもあると聞きますが、今後予定されているALPS処理水の海洋放出に伴うさらなる影響・懸念等について。

 「処理水の問題は、農業分野においては、風評が懸念され、それらが最小限度で収まってほしいと思っています。我々が求めるのは、科学的な知見による安心感の伝達と、もし風評が発生した場合は、この12年間で賠償フレームができていますから、それらに基づいて対応をしてもらうことです。協議会員、生産者の方々が不安に思うことがないよう、対応していきたいと思います」

 ――今後の抱負。

 「毎年のように自然災害が発生し、しかも大規模化していくような気象環境になっていますので、まずは災害に強い生産基盤づくりを進め、従事する人々が生産意欲を持って取り組むことができ、所得が確保されるような姿を早く実現したいと思っています。そのためにも、先ほどお話しした『ふくしま園芸ギガ団地構想』の早期実現や就農支援センターが担う役割は大きいと思います」

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