【福島市長選・漫遊記】何が馬場雄基氏を勝たせたのか

【福島市長選・漫遊記】何が馬場雄基氏を勝たせたのか

 任期満了に伴い行われた福島市長選は、衆議院議員(比例東北)を辞して挑んだ元立憲民主党の馬場雄基氏(33)が現職の木幡浩氏(65)、新人の髙橋翔氏(37)らを破った。党内の近しい者にさえ出馬の意思を明かさず、妻の菜里氏と2人だけで出馬会見をしてから約2カ月後、木幡氏に1万票以上の大差をつけ新市長になった。何が馬場雄基氏を勝たせたのか。「完全無所属」の実態を考察する。

学閥と無党派層を取り込んだSNS戦略が奏功

 福島市長選で新人の馬場雄基氏が、支持が盤石とされていた現職の木幡浩氏を破ることを本誌は想像できなかった。彼が言うように「裸一貫」の挑戦だけでは、支持の広がりにはつながりにくい。

 馬場氏が支持を得た理由は三つ考えられる。

 まず1点目は、早い段階で政治家、経済界、医療界から支持があったこと、そして自身の学閥の影響力を多世代に波及させたこと。2点目はSNS戦略と磨き抜かれた演説で無党派層の関心を呼び、その6割の支持を固めたこと。最後の3点目は、全国で争点となる外国人労働者の受け入れ政策への態度だ。馬場氏は明確な方策を示さないことで、外国人を忌避する層からの注目を避け、逆に正面から向き合った木幡氏に反感が向けられた。

 筆者は市長選告示約1週間前の10月31日、県青少年会館で開かれた馬場氏の決起大会に向かっていた。開始時刻午後6時半で10分ほど前に着いたが駐車場は満杯。雨が降る中、約500人が集まっていた。面食らったのが、ものものしいボディチェックだった。

 「野党とはいえ元国会議員だとSPが付くんだな」と素人考えをしていると、警護対象が馬場氏ではなく応援に来た鈴木憲和農水相だと分かった。鈴木農水相は講演が終わるとSPと一緒にいなくなった。SPを伴った大臣の来場は、馬場氏の大物感を印象付けた。

 馬場氏の演説の後、陣営幹部が壇上に立った。知らない人たちだったが、各界に顔が利く人物と後で知った。選対本部長には旧JA新ふくしまの元組合長吾妻雄二氏。市の自治振興協議会、つまり自治会の連合会長を務める。そのため農業関係者や経済界への顔が広い。連合後援会長には馬場氏の母校である福島高校の元校長星本文氏が就いた。福島市選出の県議西山尚利氏(自民)も挨拶した。西山氏は木幡氏に対抗して出馬を模索したが見送った。代わって、出身の福島市で政治をすることに意欲を持つ馬場氏が立つ形になった(本誌10月号参照)。西山氏は壇上で馬場氏との関係を次のように語った。

 「馬場君のお母さまと私は同級生で、東日本大震災後に地元福島市に貢献したいとの馬場君の考えを聞き、私と彼は度々会食をするようになった。立憲民主党から衆議院の旧福島2区に出馬する時も私に相談してくれた」

 現職大臣の登場と自民県議との蜜月ぶりは立憲民主色を払拭した。馬場氏は「完全無所属」を演出するが、実態は松下政経塾の人脈と国会議員時代の超党派の交流を生かして自民にも立民・国民にもつながりを持つ(為書き一覧参照)。

馬場氏と木幡氏の選挙事務所に張られていた為書き

馬場雄基事務所

鈴木憲和(農林水産大臣、衆院議員・自民)、星北斗(参院議員福島・自民)、森雅子(参院議員福島・自民)、逢沢一郎(衆院議員・自民)、斎藤勇士アレックス(衆院議員・日本維新の会)、上杉謙太郎(前衆院議員・自民福島3区支部長)、西山尚利(福島県議・自民)、福島県農業者政治連盟新ふくしま支部(末永喜広支部長=JAふくしま未来の政治団体)、吉田誠(福島県議、須賀川市・岩瀬郡・県民連合)、山田真太郎(福島県議、石川郡・県民連合)、安齋浩明(猪苗代町議会副議長)、渡邉典喜(栃木県議・立民)、広野真智子(岡山県瀬戸内市議・立民)、一般社団法人「地域から日本を変える」(海老根靖典理事長・元神奈川県藤沢市長)、松下政経塾塾員有志一同、
長浜博行(参院議員・立民、元環境大臣、元原発事故の収束及び再発防止担当大臣)、松木謙公(衆院議員・立民)、松原仁(衆院議員・元立民)、野間健(衆院議員・立民)、福島伸享(衆院議員・元民主党)、福田玄(衆院議員・国民民主)、深作光輝ヘスス(衆院議員・国民民主)、小竹凱(衆院議員・国民民主)、神津健(衆院議員・立民)、山田勝彦(衆院議員・立民)、太栄志(衆院議員・立民)、水沼秀幸(衆院議員・立民)、青木愛(参院議員・立民)、三上絵里(参院議員・立民)、長友克洋(衆院議員・立民)、川俣梅門会(代表穂積寿男)、藤井浩人(岐阜県美濃加茂市長・2013年に全国最年少市長)、岡田吉弘(広島県三原市長)、二瓶盛一(猪苗代町長)、郡山市刎土原後援会(鈴木俊夫会長)

木幡浩事務所(奥に隠れていた物もあるため全ては分からず)

金子恵美(衆議院議員福島1区・立民)
木幡浩市長を支援する市議の会(自民、立民・国民(連合)、公明、社民からなり、共産を除く31人で構成)
高木克尚会長(6期)、半沢正典会長代行(5期)
副会長 小松良行(5期)、真田広志(6期)、後藤善次(5期)
事務局長 宍戸一照(6期)、事務局次長 鈴木正実(3期)
班長 大平洋人(5期)、川又康彦(3期)
副班長 根本雅昭(3期)、石山波恵(2期)、※役なしの市議は省略
佐藤正昭(仙台市議会議員)、誉田憲孝(福島県議)、柳田武志(伊達市議会議員)、佐藤恒晴(社民党福島総支部代表)、社民党福島県連合(代表狩野光昭・いわき市議)、福島地区社民フォーラム(澤井和弘)、連合福島(沢田精一会長)、その他労働組合
立谷秀清(相馬市長・全国市長会顧問)、下鶴隆央(鹿児島市長)、山下政樹(山梨県笛吹市長)、森中高史(滋賀県守山市長)、須田博行(伊達市長)、杉岡誠(飯舘村長)、内田広之(いわき市長)、神谷俊一(千葉市長)、髙橋靖(水戸市長)、佐藤孝弘(山形市長)、村山卓(金沢市長)、滝口学(東京都荒川区長)、長内繁樹(大阪府豊中市長)、上田勝義(岡山県議)

 馬場氏を支持した経済界や医療界は、以前は木幡氏を支援していた。福島駅前再開発の停滞や木幡氏の人間性とそりが合わず、一部の経済人が馬場氏に回った。医療界の大勢も木幡氏を離れたという。ある医師が理由を語る。

 「木幡氏は新型コロナ時の対応が『独善的』と市内の医師たちから反感を買った。悪評が広まり、医師会のメンバーが馬場氏に回った」

 学閥も重要だった。福島市の「エリート」は、めばえ幼稚園に始まり、福島大附属小学校・中学校、福島高校で完成する。同幼稚園は附属小への進学実績が一番高いと評判だ。馬場陣営の幹部は学閥の効果をこう語る。

 「福島高校卒の広がりは予想外だった。進学後地元に帰って会社を継いだり、それなりのポストに就いたりして活躍する卒業生は多いが、それに加え『うちの子どもや孫と同じ高校だから』という理由で高齢者が投票した」

 学閥で投票するのは、そもそも有権者が政策を重視していない表れだろう。

働き世代は馬場氏支持

 少なくない政治家や経済人、医師が、学閥を基盤に馬場氏の支持に回ったとしても勝利は説明できない。新人が勝つには幅広い支持が不可欠だ。

 無党派層の6割が馬場氏を支持していた。福島民報11月19日付によると、期日前と投票当日に計1138人(全投票者の約1%)から聞き取った出口調査を分析すると木幡氏に推薦を出していた自民、立民が馬場氏との間で支持をほぼ二分していた。国民民主は馬場氏側に大きく傾いていた。支持政党なしの「無党派層」は6割が馬場氏に投票した。

 有権者が答えた支持政党は、多い順に無党派層が約4割、自民が約3割、立民が約1割だったという。馬場氏は特に参政党の支持層で大きくリードした。共産、れいわ、その他の政党・団体の支持層の多くも馬場氏を支持した。木幡氏は推薦を受けた公明党の他、維新に浸透していた。

 福島民報は年代別の支持率も分析している。「18~22歳」では馬場氏と木幡氏が拮抗。「23~30歳」「31~40歳」「41~50歳」「51~60歳」「61~70歳」では馬場氏が木幡氏を引き離した。「71~75歳」になると差が縮まり、76歳以上では木幡氏が逆転した。

 ここで、直近に行われた今年7月の参院選のデータを基に、どの政党支持層がどれだけ馬場氏と木幡氏に投票したかを試算する(表参照)。

参院選比例代表投票先から試算した福島市長選の投票先

得票総数得票率木幡氏馬場氏
自由民主党3169224.50%15,00015000
立憲民主党2477119.10%12,00012000
国民民主党1586312.30%15000
参政党1539311.90%15000
公明党98617.60%9,800
れいわ新選組78556.10%7800
共産党76985.90%7600
日本維新の会44513.40%4,400
日本保守党43953.40%
社会民主党30602.40%
チームみらい13951.10%
NHK党12621.00%
再生の道8180.60%
日本誠真会5060.40%
無所属連合3320.30%投票率59.40%の時の試算
日本改革党910.10%
合計12944341,20072400

福島市長選結果(票)

馬場雄基 5万8453
木幡 浩 4万3813
髙橋 翔 2745

投票率47.34% 無効票987票

 福島市長選の投票者は10万6003人(有権者22万3913人、投票率47・34%)、福島市の参院選比例代表の投票者は13万3992人(有権者22万5585人、投票率59・40%)だった。参院選から4カ月後の福島市長選では投票に行く人が約2万8000人減っている。全般的に国政選挙よりも地方選挙の方が投票率は低くなる。そもそも地方自治に関心がない、ニュースで報じられる機会が少ないなどの要因が考えられる。

 福島市民が投票した参院選比例代表の各党の得票数を支持者の数と捉えるなら、福島市では自民、立民、国民民主、参政党の順に支持者が多い。福島民報が市長選で行った調査では木幡氏と馬場氏の間で自民と立民は支持を二分していた。表のように参院選での両党への投票を割り振る。国民民主は馬場氏に支持が大きく傾いていたので参院選の得票を総取りする。

 勝敗を決めるのは、最も多い約4割の無党派層だ。既存政党への不満や無関心が動機にあるので、国政選挙では投票に行かないか、行ったとしても新興政党に投票すると考えられる。参院選では「日本人ファースト」を掲げる参政党や「手取りを増やす」に絞って訴えた国民民主が躍進した。福島市長選で馬場氏は参政党支持層から大きな支持を得ており、参院選での同党の得票1万5000を総取りする勢いだったと考えられる。

 木幡氏は逆に公明党と日本維新の会で手堅い支持を得ていたので、参院選での両党の得票を総取りする。結果は表のようになった。馬場氏は7万2400票の獲得となり実際の得票より約1万4000票多いが、木幡氏は4万1200票で、実際の得票に近い。もし参院選並みの投票率だったら、馬場氏はさらに無党派層の支持を取り込み、より木幡氏に差をつけていただろう。

会えない木幡氏

 馬場氏は遊説場所を知らせるのにSNSを活用していた。告示直前には「政治運動」の体で広告動画を配信し、政治に関心がない層にも爽やかな印象が伝わるよう工夫していた。同種の広告では、スマートフォンの位置情報から福島市内在住者はもちろん、普段市内にはいないが投票権を持つ者を行動から割り出し、ピンポイントで発信できる。

馬場氏は街頭演説日程をSNSで積極的に告知した
馬場氏は街頭演説日程をSNSで積極的に告知した

 SNS戦略が功を奏し、日に日に演説を聞きに来る人が増えた。次は街頭演説の場所を記した一覧だ。

 9日(日)さんかく広場前(第一声)、いちい庭坂店前、福島信用金庫北支店前、ヨークタウン野田前

 10日(月)陸上自衛隊福島駐屯地前、カワチ薬品福島南店前、薬王堂福島松川店前、セブンイレブン松川駅前店、飯野イベント広場

 11日(火)岩谷下交差点、いちい渡利店、ロシナンテ鎌田店(いちい)、飯坂商工会館(個人演説会)

 12日(水)福島駅西口、いちい飯坂店、つたや旅館前、めばえ幼稚園東サークル(個人演説会)

 13日(木)アクティ卸町前、ヘルパーステーションおひさま前、ヨークタウン野田店前、いちい蓬莱店、ザ・ビッグ大森店前

 10月14日(金)いちい渡利店、いちい信夫ヶ丘店、フォーズマーケット山下店(いちい)、ロシナンテ福島西店(いちい)、県立医大福島駅前キャンパス前、さくらんぼ保育園(個人演説会)

 10月15日(土)福島信用金庫南支店、いちい庭坂店、パワーデポ、ロシナンテ鎌田店(いちい)、いちい飯坂店、まちなか広場

 地元福島市のスーパー「いちい」での演説が多い。同スーパーでは駐車場内で演説し、多くの買い物客が聞き入っていた。馬場氏は積極的にインスタグラムやX、ユーチューブ、フェイスブックを活用し、演説場所を発信したが、木幡氏が使ったSNSは主にフェイスブック、たまにインスタグラム。しかも更新が遅い。演説場所の告知は、選挙4日目を最後になくなった。馬場氏は「会える候補」、木幡氏は「会えない候補」だった点が勝敗を分ける一因になった。

 「日本人ファースト」を掲げる排外主義が躍進した参院選の余波は、福島市長選にも表れている。

 選挙期間中にグーグルで「木幡浩」と検索すると、なぜか駐日ベトナム大使館の記事が上位に現れた。木幡氏が福島市長として駐日ベトナム大使と会談したことを伝える記事だ。

 《ヴー・ホン・ナム大使が福島市の木幡浩市長と面談した。ベトナムと福島市の今後の交流、協力計画について、特にベトナム女子サッカーチームの受け入れ及びベトナムフェスティバルの開催について話し合った》

 記事掲載の時期を調べると2020年以前、木幡市長1期目だった。検索の順位は、選挙を終えた11月18日13時14分時点になっても木幡氏のフェイスブック、日経新聞記事に続きトップから8番目に位置していた。参院選をきっかけに政治に興味を持つようになった無党派層は候補者が「労働者不足の中、外国人受け入れに積極的かどうか」に注目する。木幡氏とベトナム大使の会談記事が急上昇したことと無縁ではあるまい。

外国人政策は曖昧

 動画メディア「リハック」は、11月7日に行った立候補者公開討論会(福島青年会議所主催)で、外国人受け入れに〇、△、×で答えるよう3人の候補に求めた。

 木幡氏は〇。「外国人抜きに人材確保は困難。適切な共生推進をしていく」と述べた。「大きな論点であり、現在地をしっかり見極める必要がある。全国の外国人割合は3%に対して県平均は1・1%、福島市は0・9%。福島市は大学が多いから、本来は外国人がもっといて然るべき。介護の働き手としても求められている」。

 木幡氏は市の多文化共生センターを設立した自負があるだけに、外国出身者との共生に現実的で、正面から向き合っているように思える。多文化への融和姿勢が特定の層にとって「失点」となり攻撃を受ける現在の選挙において、フェアな姿勢だ。

 「日本社会での融和を目指し、学校で専任者をつけて日本語教育を行っている。ゴミ出し問題でも周知助言をしている。孤立して何らかのトラブルに巻き込まれないよう多文化共生センターを通して日本社会に溶け込んでもらいたい」

 ただ、共生姿勢は参政党から反感を買う。実際、同党支持者は馬場氏に票を入れた。

 馬場氏の見解は具体的ではなく、方策は明言を避けた。受け入れには△とし、「地域経済や介護・農業などの現場では、すでに外国人の方々が重要な役割を果たしている。無制限な拡大ではなく、地域の実情に合わせた共生の仕組みづくりを進める」とした。

 「旅館で外国出身の従業員の丁寧な対応に嬉しい気持ちになった。重要な役割を担っているのは確かだが、無制限な受け入れは混乱を招く。共生のあり方は日本全国に例がある。課題を持つ首長や自治体と協議しながら何がベターであるかをオンザジョブトレーニングのようにやって、うまくいく、いかないを繰り返すしかない。私はまだトップに立っていないので、類似の課題を持つ自治体と連携していきたい」

 髙橋氏は△。「日本に害をなす外国人は不要。あくまで平和的共存が可能な関係を築ける対話が成り立ち、互いの文化や歴史を重んじることのできる外国人にはぜひご協力願いたい」と見解を示した。

 以上、①経済界、医療界、学閥の支持、②無党派層を取り込んだSNS戦略 ③外国人受け入れの正直な見解が現職に不利に働いたことが、馬場雄基を勝たせたと分析する。

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