2023年11月、JR浪江駅近くに古書店がオープンした。小さな店舗スペースに文芸作品から専門書、美術書など5000冊の書籍が並ぶ。
「『古書店ができたと聞いて、初めて寄ってみた』と顔を出していただける町民の方が多いですね。旅行中、周辺に書店があるか検索して、ふらっとお越しいただく方もいらっしゃいます」
こう語るのは、古書店「コウド舎」店主で、浪江町の地域おこし協力隊員の佐藤成美さん(26)だ。
佐藤さんは田村市出身。都留文科大学を卒業後、東京暮らしを経て、2022年6月、同町の地域おこし協力隊に就任。被災地を視察する「スタディツアー」の案内役を担当していたが、同町で暮らす中で、書店の必要性を感じるようになった。
佐藤さん自身、小さいころから本が好きで、学校の図書室を頻繁に利用していた。大人になってからは古書店にも通うようになり、小説や短歌、人文書など幅広いジャンルの本を愛読していた。本と出会える場所が浪江町にもほしい――そう考える中で、さまざまな出会いがあり、本宮市にあった木造仮設住宅の廃材を活用して移築した共有スペース「スタジオB―6」の一室で、古書店を始められることになった。土地を耕すように古書店での時間をゆっくり育んでほしいという意味で、「コウド舎」と名付けたという。最初は不要になった古書を町民からひと箱ずつ提供してもらい、店内で販売していくスタイルだったが、多くの本が集まるようになり、現在の冊数にまで膨らんだ。
同町ホームページによると、昨年末現在の町内居住人口は2256人。震災・原発事故当時の人口は約2万1500人。かつての規模には至っていないが、「スタジオB―6」では読書会などを開催しており、仲間が集まる場所になりつつある。
佐藤さんは3月末に地域おこし協力隊を卒業し、浪江町に定住して古書店運営一本で生活していく予定。今後はインターネットでの販売やイベントへのブース出店、「スタジオB―6」でのイベント開催など本屋としてできることを広げていく考え。要望に応じて新刊本も扱う予定だ。
佐藤さんはこのように語る。
「皆さん、『捨てるには忍びない』と本を持ってきていただく。それらの本を手に取って読んでみると、それぞれの本に面白い要素があるんです。捨ててしまったらそれまでなので、私のところで止めて、その面白さに気づいてもらえる人に手に取ってほしいという思いがあります。古書店を運営するうえではジャンルを絞って取り扱いするのがいいと言われますが、当面は幅広いジャンルの本を扱っていきたいと思います」

震災・原発事故後、原発被災自治体で運営していた書店は軒並み閉店したが、ここにきて書店・古書店が増えつつある。
2015年には楢葉町に古書店「岡田書店」がオープン。2018年には芥川賞作家・柳美里さんが南相馬市小高区に書店「フルハウス」を開業した。2023年12月には、18時から3時間のみ営業する青空書店「読書屋 息つぎ」が大熊町に出店。営業しているのは、大熊町出身で震災当時小学生だった武内優さん。昨年11月には浪江町出身の学習塾経営者が南相馬市小高区に「小高古本店」を開いた。全国的に書店の閉店が相次いでいる中、原発被災自治体で、文化的交流の場として書店を出店する動きが加速しているのは興味深い。帰還・人口増加の動きが鈍い中で、どのように経営を継続していけるかが今後の課題となろう。