【西会津町】ハラスメント副議長 辞職の舞台裏

【西会津町】ハラスメント副議長 辞職の舞台裏

 西会津町議会の昨年12月定例会で秦貞継副議長(52)=3期=が副議長を辞職した。秦氏をめぐっては本誌昨年10月号で職員へのハラスメント疑惑と副議長不信任決議が議決されたことを報じたが、辞職の背景には何があったのか。

見識ある町民から議会再生を望む声

 地元紙によると、秦氏は12月定例会開会中の9日、伊藤一男議長に副議長の辞職願を提出。翌10日に議会に諮られ、全会一致で許可された。

 秦氏をめぐっては、本誌昨年10月号で職員へのハラスメント疑惑と副議長の不信任決議が議決されたことを報じている。

 きっかけは昨年2月、マスコミ各社に秦氏のハラスメントを告発する投書が届いたことだった。投書を受け、議会はハラスメント実態調査及び議会ハラスメント防止条例調査特別委員会を設置、職員200人を対象に議員によるハラスメントに関する調査を行った。その結果、①2割前後の職員がハラスメントを受けたり見聞きしていた、②主に現職議員から威圧的、高圧的、理不尽な言動をされた、③同僚、上司、家族に相談しても解決せず我慢せざるを得ない――という実態が判明。さらに調査結果の中にはハラスメントをした議員の実名が7件記載され、多くが秦氏であることも分かった。

 こうした状況を受け、同特別委員会は昨年9月6日、「誰」と特定するのではなく「議員によるハラスメントがあった」という事実関係を全会一致で議決。同17日には秦氏に対する副議長不信任案が提出され、賛成多数で可決された。ところが、秦氏は「今後も職責を全うする」と副議長続投の意向を示したため、賛成した議員は「ハラスメントを認めながら副議長を辞めないのは反省していない証拠」と憤った。

 当時、本誌のインタビューに応じた秦氏は次のように答えていた。

 「結果(副議長不信任)が出た以上は真摯に受け止めるしかない。ただ、これを直すというか、いいステージに上がれるよう努力もしていかなければならないと思うので、そこはこれからの姿勢や行動で不信任と議決した皆さんから信任を得られるよう頑張っていきたい」

 「こういった問題が二度と起きないよう気を付けたいし、自分への指摘は素直に受け止めたい」

 それから3カ月余り。結局、秦氏は副議長を辞職した。

 12月定例会最終日(11日)、再び秦氏にインタビューした。

 「副議長を辞めたのは、初心に戻ってやり直そうと思ったからです」

 こう切り出した秦氏。では、なぜこのタイミングで辞職したのか。

 「反省すべき点は反省し、失った信頼を取り戻そうと(副議長の立場で)頑張ってきたんですが、いろいろな場面で皆さんにご迷惑をおかけすることが重なり、やっぱり(副議長続投は)無理かなって……」

 秦氏は言葉を濁したが、本誌の取材によると、秦氏は副議長のほか議会活性化特別委員長と広報分科会長を務めていた。しかし、両会に所属する議員から「秦氏が長でいるうちは審議に応じられない」と言われ、会の運営は滞っていた。秦氏が「ご迷惑をおかけする」と語ったのは、そのことを指しているとみられる。

 ちなみに、秦氏は副議長を辞職する前に、議会活性化特別委員長と広報分科会長も辞職していた。

 その辺の事実関係を確認しようとしたが、秦氏は「細かいことはともかく、私には皆さんに理解していただく力がなかった」と詳細を語ろうとしなかった。

 「そういう人間がこのまま副議長を続けるのはよくないと思い、12月9日に辞職願を提出した次第です」

 そう述べた秦氏が、取材の最後に口にしたのも反省の弁だった。

 「自分は良いと思っても相手はそう思っていないことが多々ある。今回、それを知ることができて本当に勉強になった。他人の言うことを素直に聞ければ、人は成長できる。そのことを肝に銘じ、引き続き議員活動に臨みたい」

 本誌の取材では、秦氏が副議長を辞職しなかったら、12月定例会最終日に再び不信任案が提出される可能性があったことが分かっている。提出されれば今回も賛成多数で可決されるのは確実だったが、秦氏が辞職したことで異例の連続不信任は避けられたわけ。

 今回の問題は、秦氏の辞職で一件落着としてはならない。一部の町民は、この間の議会の動向を注視していた。

「錯覚議員」が加害者に

 昨年11月、議会は町内各地で議会報告会を開いたが、出席者からは議員のハラスメントに関する質問や意見も多く出た。中には「秦氏以外にもハラスメントをしている議員はいないのか」とか「副議長だけを標的にしているように思える」と秦氏をかばう町民もいた。

 現在3期目の秦氏は、これまでの町議選でトップ当選が2回、2位当選が1回と支持基盤が厚い。議会報告会で秦氏をかばう町民がいたのは、普段から支持している人が多いことが関係しているとみられる。

 ただ、前記・職員への調査でハラスメントをした議員に秦氏の名前が多く挙がったのは事実だ。秦氏には真摯な反省が求められるし、支持者も引き続き秦氏を支えていくなら厳しく叱咤激励すべきだろう。

 一方で見逃せないのは「秦氏以外にもハラスメントをしている議員はいないのか」という質問だ。実際、職員への調査ではハラスメントをした議員の実名全部が秦氏だったわけではないし、町役場には「この議員たちがハラスメントをしている」などと匿名の情報も寄せられているという。名指しされた議員からは「事実無根だ」と憤りの声も上がっているが、議会にハラスメントを根絶する気持ちが本当にあるなら、当事者である議員をメンバーとする特別委員会ではなく、第三者による調査委員会を立ち上げ、全ての膿を出し切
った方がいいのではないか。

 自治体政策が専門の今井照・地方自治総合研究所特任研究員は、議員による職員へのハラスメントが起きやすい要因を次のように指摘する。

 「一つは、高齢男性の議員が多いことです。現在の社会的規範では、年少者や女性に対して高齢男性議員の方が『優越的な存在』であると錯覚しがちです。もう一つは、職員にとって議員は選挙で選ばれた住民の代表者なので『一目を置く存在』にな
っていることです」(同)

 だから職員は、議員から「無理難題な要求」があっても反論・拒否しにくいのだ。ハラスメントは、そうした「錯覚議員」が起こしていることを認識すべきだ。

 議員によるハラスメントは、何も職員に対してだけではない。先輩議員から後輩議員へのハラスメントも見聞きする。先輩議員は「指導」したつもりでも、後輩議員には「理不尽な言動」に感じられることはあるはず。ただ、先輩議員による「正当な指導」までハラスメントと片付けてしまうのは、後輩議員の「ご都合主義」になってしまう。先輩は後輩の意見に耳を傾け、後輩は先輩を敬う。その当たり前の関係性が築けていれば、議員同士のハラスメントは起こらないのではないか。

 見識ある町民からは「議会はいつまでバタバタしているんだ。町民のために、しっかりやってほしい」と手厳しい意見も聞かれる。秦氏の一件を機に、西会津町議会が再生に向かうことを期待したい。

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