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震災直後より深刻な福島県内企業倒産件数

震災直後より深刻な福島県内企業倒産件数

 民間信用調査会社の東京商工リサーチが発行している「TSR情報」(福島県版、1月15日号)によると、昨年1年間の県内企業の倒産件数(負債額1000万円以上)は80件で、震災・原発事故の翌年以降では最多だったという。本誌昨年12月号で、コロナ支援の「ゼロゼロ融資」で倒産件数は抑えられたが、返済が本格化し、倒産件数は増加に転じていると指摘した。それが如実に現れている格好だ。

コロナ融資の返済スタートで顕在化

 東京商工リサーチ(『TSR情報』福島県版)のリポートによると、昨年1年間の県内企業の倒産件数(負債額1000万円以上)は80件で、負債総額は135億2600万円だった。月別の倒産件数、負債総額は別表の通り。2022年は66件、124億8300万円、2021年は50件、108億8400万円だったから、前年比で14件増、2021年比で30件増になる。倒産件数は、東日本大震災・福島第一原発事故の翌年以降、最多だったという。なお、2011年は99件、以降はおおむね40~60件台で推移している。

2023年月別の倒産件数と負債総額

倒産件数負債総額
1月2件2億7100万円
2月10件32億6500万円
3月6件2億8500万円
4月1件1億円
5月7件5億1100万円
6月14件35億0700万円
7月7件4億1300万円
8月5件7億0400万円
9月2件2億2300万円
10月6件8億9800万円
11月6件7億3300万円
12月14件26億1600万円
80件135億2600万円


 業種別ではサービス業が最も多く25件、そのほか、建設業が16件、製造業が15件だった。うち、新型コロナウイルス関連倒産は45件で、半数以上を占めた。

 《ゼロゼロ融資はコロナ禍の企業倒産抑制に大きな効果を見せた。ただ、副作用として過剰債務を生み、業績回復が遅れた企業ほど、期間収益での返済原資確保が難しくなっている。経済活動が平時に戻る中、過剰債務は新たな資金調達にも支障を来している》(同リポートより)

 このほか、燃料、電気、物価の上昇、経済活動再開に伴う人手不足などの要因を挙げ、さらには処理水放出に伴う新たな風評被害の懸念もあり、企業を取り巻く事業環境は厳しさを増しているため、引き続き注視が必要としている。

 本誌では昨年12月号に「新型コロナ『ゼロゼロ融資』の功罪」という記事を掲載し、その効果などを検証した。

 ゼロゼロ融資は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が中小企業の資金繰り支援として実施した実質無利子・無担保の融資。コロナ禍前と比較して、売り上げが15〜20%以上減少などの条件を満たせば、担保がなくても資金を借りることができ、利子も3年間は負担しなくていい。元本は信用保証協会が担保し、都道府県が利子を支払う仕組みだ。

 融資期間は10年以内(据え置き期間は5年以内)で、無利子期間は3年。最大3億円まで借りられる。日本政策金融公庫や商工組合中央金庫など政府系金融機関を窓口に2020年3月から始まったが、申し込みが殺到したため同年5月から民間金融機関でも受け付けた。

 県内でのゼロゼロ融資の実績は、約2万3300件、約3571億円というから、多くの中小企業がこの制度を利用したことが分かる。

 一方で、前述したように無利子期間は3年間で、昨年夏ごろに返済開始のピークを迎えた。実際、大部分の企業が返済をスタートさせているという。県信用保証協会が公表している保証債務残高の推移を見ると、2021年度末は約5688億円、2022年度末は約5661億円、2023年12月末は約5330億円と少しずつ減少している。

 一方、倒産企業の債務を信用保証協会が肩代わりする代位弁済額は、2021年度が242件、約21億円(前年比73・5%)、2022年度が302件、約35億円(同164・3%)に増加。2023年度は12月までに295件、39億円となっている。金額ベースではすでに前年を超えており、年度末までには件数、金額ともにさらに増えると思われる。

制度検証と経営支援を

 さらに、朝日新聞(昨年11月8日付)によると、《22年度末時点の貸付残高は14兆3085億円(約98万件)。うち回収不能もしくは回収不能として処理中は1943億円、回収が困難な「リスク管理債権」(不良債権)が8785億円だった。計1兆0728億円》《国は日本公庫や商工中金など政府系金融機関に約31兆円の財政援助をしている。金利負担にも国費が使われており、損失は国民負担につながる》という。

 こうした状況について、本誌昨年12月号記事では、次のように指摘した。

   ×  ×  ×  ×

 本来は早々に退場すべき企業が、異例の支援策のおかげで延命されたケースは結構あったはず。結果、一定程度の〝ゾンビ企業〟を生み出したことは事実だろう。

 「実質無利子・無担保なんて本来はベンチャー企業を対象にすべき制度でしょう。業種を問わずに門戸を広げればモラルハザードを招きかねない。中には信用保証協会が代位弁済してくれるのをいいことに、計画倒産した悪質経営者もいたかもしれない。残すべき企業と退場させるべき企業を選別するのは正直難しいが、少なくともゼロゼロ融資に55兆円もの税金を使ったのはやり過ぎだったのではないか」(あるジャーナリスト)

 かつて公共事業費が年々減っていた時代、増え続ける建設会社をいかに〝安楽死〟させるかが県庁の中で大きな課題になったことがある。同じことは〝ゾンビ企業〟にも言えるのかもしれない。

   ×  ×  ×  ×

 ここで指摘したように、本来なら、収益力が低く、コロナがなかったとしても、いずれは倒産・廃業していたであろう企業を延命させ、挙げ句、税金で債務を肩代わりしたケースもあったのは間違いない。その一方で、飲食店や宿泊業などを中心に、深刻な影響を受けた中、ゼロゼロ融資のおかげで多くの企業が存続できたのも事実だろう。ただ、当初から懸念されていたことだが、返済が本格化すると同時に、倒産件数が増加していることが、あらためて浮き彫りになった。

 政府は「ゼロゼロ融資」が適切だったのか、きちんと検証すると同時に、今後は売上回復に向けた経営的な支援策が求められよう。

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