郡山市中心部のJR郡山駅前で、危険運転により若者が亡くなる交通事故が発生した。悲惨な事故は全国ニュースで報じられ、市民にも大きな衝撃を与えた。事故の経過や影響についてリポートする。(志賀)
懸念される駅前のイメージ悪化

2月上旬、郡山駅西口の商業施設「アティ郡山」脇の街路樹には多くの花が手向けられていた。目の前の横断歩道で発生した交通死亡事故の被害者にささげられたものだ。
事故が発生したのは1月22日の早朝6時35分ごろ。同市内の奥羽大学を特待生選抜で受験するため、前日から市内に滞在していた大阪府箕面市の予備校生・横見咲空さん(19)が軽乗用車にはねられ、死亡した。
車の運転手の呼気から基準を超えるアルコールが検出されたとして、郡山署は同日午前7時10分ごろ、自動車運転処罰法違反(過失運転致傷=送検時に過失運転致死に切り替え)と道交法違反(酒気帯び運転)の疑いで、郡山市の会社員池田怜平氏を現行犯逮捕した。
報道や捜査関係者によると、池田氏は事故前日の夜、市内の飲食店に車で訪れ、約6時間にわたり複数人で飲食。当日未明に運転代行を使って一度帰宅したが、数時間も経たないうちに買い物のため車で外出した。
買い物を済ませ帰宅するため、駅北側を東西に走る美術館通りを東に向けて走り、交差点で右折して市道に入った。アティ郡山脇の横断歩道に至るまでには、同交差点を含め5カ所の信号があるが、うち3カ所で赤信号を無視。制限速度時速40㌔を大幅に超える時速70㌔で交差点に進入し、青信号で横断歩道を渡っていた横見さんをはねた。
県警の調べに対し、池田氏は「直前に女性に気付き、よけようとした」と供述しており、ハンドルを切っていたとみられるが、横断歩道の手前でブレーキをかけた痕跡は残っていなかったという。
周辺に設置された防犯カメラなどには、軽自動車が赤信号を無視しながら市道を〝爆走〟し、横断歩道に突っ込んでいく映像が残されていた。タクシーのドライブレコーダーには信号無視をして美術館通りから市道に進入しようとして、衝突しそうになっている様子も収められていた。
それらの映像はニュース番組で繰り返し流され、NHKの全国ニュース「ニュースウオッチ9」のトップニュースとして報じられた。そのインパクトは、市内の子育て世代の男性から「自分の子どもが事故で亡くなる姿を見せられているようで、思わず目を背けてしまった。スクープだとしても、あそこまでエグい映像を流す必要があったのか」という声が聞かれたほどだ。
中心市街地での痛ましい事故は市民にも衝撃を与え、事故現場周辺では手を合わせて被害者を悼む姿が多く見られた。
事故現場のすぐそばには郡山警察署駅前交番がある。記者はかつて同交番前で停車していた際、立番していた警官に止められ、ライトが切れていたことを指摘されたことがある。人・車ともに通行量が多いエリアで犯罪の芽を摘むべく目を光らせている交番という印象があったが、今回は目の前で飲酒運転・信号無視による交通死亡事故を起こされた格好だ。
危険な運転の代償

市内の経済人は「年末の忘年会シーズンに駅前大通りで大規模な検問を実施し、無免許運転など6件の違反を検挙していたが、肝心の死亡事故は防げなかったことになる。交番の目の前で飲酒運転による死亡事故が起きたとなれば、『一体どこを見ていたの?』と問いたくなります」と厳しい目を向ける。
ある警察OBに意見を求めたところ、「夜であれば、検問やパトロールで飲酒運転を発見することもあるが、早朝の酒気帯び運転を防ぐのは難しい。今回の件で駅前交番の責任を問うのはさすがに酷」と擁護した。ただ、その一方で「郡山署内でも、事故を防ぎきれなかったことにショックを受けている署員が少なくないようだ」と話した。
県警によると、2024年に県内で発生した飲酒運転事故は46件(死者数ゼロ)。前年比13件減(同5人減)だが、過去5年間は50件前後で高止まりしている。なお、交通事故全体に占める飲酒運転事故の割合は2022年、2023年と2年連続全国ワースト3位で、2024年(11月末時点の暫定値)は同7位(福島民報1月28日付)。〝飲酒運転多発県〟からの脱却を図れていない。
1月30日には郡山署と交通関係団体が現場を合同点検し、見通しを改善するための植栽の伐採や、不鮮明な路面表示の塗り直しの必要性を指摘する意見が出された。さらには毎月、事故が起きた22日に県内すべての警察署で飲酒運転の検問をするなど、飲酒運転根絶に向けた取り締まりを強化する方針も打ち出された。こうした取り組みで飲酒運転を減らすことができるのか。県警・郡山署にとって正念場と言えよう。
記者が現場に足を運んで感じたのは、駅側から飲食店が並ぶ陣屋方面に向かって横断歩道を渡る際、交番が死角となり、右(北)側から来る車が見えにくかった点だ。仮に信号無視をした車がいたら避けるのは困難であり、その点も踏まえて対策を講じていく必要がある。

2月2日には事故現場で容疑者立ち会いのもと実況見分が行われ、池田氏は横断歩道の近くで両手を合わせて「ごめんなさい、ごめんなさい」などと謝罪したという。
2月13日には地検郡山支部が自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)と酒気帯び運転の罪で池田氏を起訴した。自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の疑いで送検されたが、法定刑がより重い危険運転に切り替わった。赤信号を殊更に無視した行為などが危険運転の適用要件に該当しているため、同支部が罪を問えると判断したとみられる。
事故をめぐっては、全国ニュースで続報が報じられるたびに「郡山」の名前が悪い意味で連呼されることになるだろう。同市では2023年1月にも、大平町の市道交差点で軽乗用車が乗用車と衝突して軽乗用車が横転・炎上、家族4人が死亡する事故が発生し、大きく報じられた。全く種類の異なる事故だが、「また郡山で深刻な事故か起きたのか」というイメージを持った人も多いのではないか。もっと言えば、本誌昨年10月号では郡山駅前について、市内で催されたコンベンションの参加者から「怖い」、「臭い」などの感想が挙がっていることを報じた。今回の事故により、同駅前に対するマイナスイメージがさらに強くなっていることも考えられる。
当事者は軽い気持ちで飲酒運転したのかもしれないが、その〝代償〟は計り知れないほど大きかったということだ。