くさの・きよたか 1946年生まれ。東京電機大学卒。草野建設(株)代表取締役会長。2013年から相馬商工会議所常議員を務め、16年11月から会頭。現在3期目。
人手不足が深刻だ。企業は人材を確保するため賃上げを迫られているが、大企業は対応できても、中小零細企業にその余裕はない。そうした中、地方の経済界では地元の観光資源に活路を見いだしながら、難しい課題の解決に当たっている。その一つ、相馬地方の経済界を引っ張る相馬商工会議所の草野清貴会頭にインタビューした。
変革に対応しながら、転じて「福」となるよう新たなことに挑戦したい。
――人手不足が非常に深刻化しています。
「もはや業種全般に及んでいます。東京・日本両商工会議所の調査では中小企業の3社に2社が人手不足を訴える状況にあります。特に建設業や製造業、介護事業所は深刻で、人手不足により労働環境が悪化し、一人がいくつもの仕事を抱え有給休暇が取れず、体調不良でも十分な休みが取れないなど従業員の心身の負担が大きくなりつつあります。それが業績に影響し『人手不足倒産』が増えていくことを心配しています」
――政府は民間に賃上げを要求していますが、大企業には対応できても中小零細企業には難しい現実があります。
「事業主は人材を確保するために賃上げをしながら業績向上を目指そうとしていますが、商業・サービス業では顧客の確保が優先され、製造業などでは取引先との関係性重視から立場が弱い状況にあります。これに物価上昇が重なり、中小企業ほど価格転嫁への対応が困難になっています。会議所としても中小企業が賃上げの原資を確保できるように価格転嫁・取引適正化を推進していきたいと思っています」
――やはり、価格転嫁は難しいのでしょうか。
「業種によって格差があります。価格転嫁と賃上げは事業運営の両輪です。物価高に対する国の支援制度の充実や、取引先との適正な取引を通じて売り上げの安定化と賃上げ原資創出のための中小企業の価格転嫁を進める取り組み『パートナーシップ構築宣言』を推進していきたいと思います」
――福島県沖地震で被災した事業所や宿泊施設の再建は。
「地震をきっかけに廃業となった事業所もありましたが、おおむね復旧し再建しています。まだ未再開の4宿泊施設については相馬野馬追が開催される5月を再開目標としていますが、工事の遅れもあり、ずれ込みそうな雰囲気です。
宿泊施設に対しては、来年開催される『ふくしまデスティネーションキャンペーン(DC)』で県の宿泊割引事業が行われることを期待していますが、DC自体はまだ県民に浸透していない印象を受けます。気運醸成のため今年のプレ、来年のメイン、再来年のアフターと県内全域にPRすべきだと思います。
地震で被災し、現在更地となっているイオン相馬店は2027年にオープンとの報道がありました。雇用面に期待する声も多いので、会議所としても行方を注視しています」
好調な「相馬ブランド」
――市や観光協会と協力し「相馬ブランド」を積極的に広めていますが、認知度や効果はいかがですか。
「天然トラフグの『福とら』は水揚げ、取り扱い店とも好調です。日本商工会議所などでも福とらの広報に努めており、その認知度は全国で高まっている印象です。
純米吟醸酒『夢そうま』は平成20年に会議所内に『相馬ブランド酒をつくる会』を立ち上げ、市内で栽培した夢の香で開発したブランド酒です。現在は組織名を『相馬地酒推進協議会』に変更し、昨年は製造を委託している人気酒造(二本松市)と連携し、味の改良とパッケージを変更した新酒が完成しました。評判、販売とも好調なので今後に期待しています。
あおさを使用した6次化商品も数多くありますが、マルリフーズが手掛ける『かけるあおさ』シリーズは調味料選手権で2年連続準優勝を飾りました。こういった商品を通じて管内の水産物のPRと漁業の推進につなげていきたいと思います。
海産物以外でも山形屋商店の醤油は農林水産大臣賞を6度獲得し、相馬ブランドの拡充に貢献していただいています」
――昨年の衆院選では与党が大きく議席を減らしました。政権運営が不安定になりそうですが、政府に求める経済・税制政策について。
「第2期復興・創生期間が来年度で最終年となります。国には地方の復興と創生につながるよう最大限の努力を求めます。期間終了後も切れ目のない予算の確保と市街地活性化のための使いやすい補助制度設置をお願いしたいと思います」
――会頭自身、観光協会長を兼任しています。
「昨年、会議所内に『海と港を活かしたまちづくり特別委員会』を立ち上げました。同委員会では設立記念としてフォトコンテストを開催中で、2月28日まで『松川浦県立自然公園朝日と夕日』をテーマに作品を募集しています。多くの方に応募してほしいですね。
現在検討しているのが船での松川浦観光です。かつては松川浦でも遊覧船が運航されていましたが、残念ながら廃止になってしまいました。釣り客に向けては以前から船を出していますが、一般観光客向けの船は宿泊施設が独自に定員6人ほどの小型船を使って灯台まで運航するくらいで、しかも乗船できるのは宿泊客に限られています。船の運航は小型船を持っていない宿泊施設からも要望があります。運航には許可や保険の問題がありますが、松川浦内は水深が浅く波も少ないので安心・安全な運航ができると思います。共同で船を持つのは手間がかかるので、維持費のかからない小型船を宿泊施設それぞれのやり方で運航する仕組みを検討していきたいです。
おかげ様で『浜の駅』が好評で、現在増築中の施設は4月にリニューアルオープンします。増築の目玉はすし販売コーナーですが、すし職人の配置や回転ずしの提供はできないので、相馬産の海産物を使った折り詰めを提供したいと考えています。また浜の駅内には休憩スペースがなかったので、その場で食べられるようテーブルなどを用意したいと思います。
相馬野馬追は昨年から5月開催に変わり、観光客数が増加しました。旅行会社でも、これまでの7月開催だと酷暑なうえ、東北各地の夏祭りとも重なりツアーを組みにくかったそうですが、5月開催に変更したことにより結果として首都圏からの観光客が増加しました」
――最後に、今後の抱負を。
「平成28年11月に第11代会頭に就任し、この間、会員の皆様に支えていただきながら会議所活動を行ってきました。振り返れば福島県沖地震や新型コロナなど多くの災いがありましたが、これらを礎に変革に対応しながら、転じて『福』となるよう新たなことに挑戦する年にしていきたいと思います」