【須賀川商工会議所】菊地大介 会頭インタビュー【2025.5】

【須賀川商工会議所】菊地大介 会頭インタビュー【2025.5】

経歴

きくち・だいすけ 1972年10月生まれ。㈱あおい代表取締役。東北学院大卒。2019年11月から須賀川商工会議所副会頭を務め、2022年11月から現職。

 円安や物価高、燃料・原材料費の高騰、人手不足、後継者問題など、地方の中小企業を取り巻く環境は厳しさを増している。そんな中、須賀川商工会議所ではそうした課題をどのように捉え、どんな取り組みを行っているのか。同商議所の菊地大介会頭(㈱あおい代表取締役)に話を聞いた。

会員企業と知恵を出し合い、持続的な成長を目指す。

 ――人手不足や後継者問題が深刻化しています。

 「昨年同様か、それ以上に人手不足が深刻な問題として、あらゆる産業分野で顕著になっています。会員事業所からは悲痛な声が上がっており、単に人が足りないというだけでなく、事業継続そのものが危ぶまれるケースも出てきています。同様に、後継者問題も深刻で、特に地方の中小企業においては、経営者の高齢化が進む一方で、事業を承継する人材が見つからないという状況が常態化しています。これは、地域経済の活力低下に直結する大きな課題として捉えています」

 ――政府は民間企業に対し賃上げを要求していますが、大手は実現できても中小零細企業は難しい現実があります。

 「ご指摘の通り、政府からの賃上げ要請は理解できるものの、大手企業のように体力のない中小零細企業にとっては非常に厳しい状況です。特に地方においては、物価高騰も加わり、経営を取り巻く環境は一層厳しさを増しています。春には大手企業が大幅な初任給の引き上げを発表しましたが、中小企業がそれに追随することは現実的に困難です。賃上げを実施したくても、その原資を確保することが難しく、結果として人材の流出を招きかねないという悪循環に陥っています」

 ――会員事業所は物価高の中、価格転嫁はできているのでしょうか。

 「価格転嫁についても、なかなか思うように進んでいないのが現状です。大手企業との取引においては、価格交渉力が弱く、コスト増を価格に転嫁することが難しいケースが多く見られます。また、地域のお客様に対して大幅な値上げを行うことには抵抗があり、結果として企業利益を圧迫される状況が続いています。物価高は消費者にも影響を与えているため、安易な価格転嫁は顧客離れを招く可能性もあり、慎重にならざるを得ないというジレンマを抱えています」

 ――「中小企業支援ネットワーク会議」や「デジタル・IT化支援センター」を設置し、会員企業の支援の強化を図っています。

 「人手不足や生産性向上への対応として、中小企業支援ネットワーク会議やデジタル・IT化支援センターを通じて、会員企業の皆様への支援を強化しています。特に今力を入れているのが、経済産業省の事業承継・引き継ぎ補助金や、事業省力化補助金の活用支援です。例えば、飲食業における配膳ロボットの導入支援など、具体的な事例も出てきています。人手不足を解消するためには、賃上げも重要ですが、それと同時に生産性の向上を図ることが不可欠です。DX化やITツールの導入、ロボット技術の活用などを推進し、少ない人数でも効率的に事業運営ができる体制づくりを支援しています。その先に、賃上げの実現があると考えており、会員企業の皆様には、積極的にこれらの支援策を活用していただきたいと考えています」

 ――2月には商工会議所を中心に結成した「須賀川観光団体台湾視察団」で台湾を訪問したそうですね。

 「台湾視察団の訪問は、交流人口拡大に向けた重要な一歩と感じています。台湾の旅行会社や関係機関とのネットワークを構築でき、今後の誘致活動に繋がる大きな手応えを感じています。福島空港の台湾便の利用促進にも力を入れており、インバウンドの回復に期待を寄せています」

 ――市内では特撮関連のイベントも頻繁に行われています。

 「須賀川市は特撮の神様と呼ばれる円谷英二監督の出身地であり、特撮関連のイベントを積極的に開催することで、新たな観光客層の開拓に繋がっています。これらのイベントは、地域ににぎわいをもたらすだけでなく、須賀川市の認知度向上にも大きく貢献していると感じています。今後は、これらの強みをさらに生かし、国内外からの観光客誘致を強化していきたいと考えています」

会員の課題解決に尽力

 ――アメリカのトランプ大統領が「相互関税」の発動を発表しました。

 「発令されたばかりなので、まだ先が見通せませんが、歴史的に見ても世界中でこういった大混乱に陥ることはまれだと思います。また、経済は日々進化していくものであり、そういった意味でどうなるのか誰も分からないと思います。管内では福島空港の台湾便に対する影響も懸念されます。そういった意味で、経済状況が見通せませんが、様々な状況を想定しながら、機を見て国に対する要望等も検討したいと思います」

 ――政府に望むことは。

 「政権運営の安定化は、経済の安定にとっても非常に重要だと考えています。その上で、政府には中小企業の現状を深く理解し、実効性のある経済・税制政策を推進していただきたいと強く願っています。具体的には、持続的な賃上げを可能にするための支援策の拡充、価格転嫁を円滑に進めるための法整備、デジタル化や省力化への投資に対するより大胆な支援策などを期待しています。

 また、地方創生に向けた取り組みも重要です。東京一極集中を是正し、地方の活力を高めるための具体的な政策を打ち出していただきたいと思います。福島県においては、原発事故からの復興という重要な課題を抱えており、風評被害対策やなりわい再建への継続的な支援も不可欠です。世界情勢も不安定な状況が続いており、エネルギー価格の高騰やサプライチェーンの混乱など、中小企業を取り巻くリスクは増大しています。これらの外部環境の変化に柔軟に対応できるよう、政府には迅速かつ適切な政策対応を期待します」

 ――最後に、今後の抱負を。

 「須賀川商工会議所会頭として、会員企業の皆様が直面する課題の解決に向け、より一層尽力していく所存です。人手不足対策としては省力化・DX化の推進、人材育成支援、そして多様な働き方を支援する環境整備を進めていきます。後継者問題に対しては、事業承継支援ネットワークを強化し、円滑な事業承継をサポートしていきます。交流人口の拡大に向けては、台湾をはじめとする海外からの誘致活動を積極的に展開するとともに、特撮を生かした地域活性化にも力を入れていきます。福島空港の活性化は、地域経済の発展に不可欠であり、国際便の誘致に向けた活動を継続していきます。変化の激しい時代ではありますが、会員企業の皆様と共に知恵を出し合い、困難を乗り越え、持続的な成長を目指していきたいと思います」

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