大渋滞不可避の大ゴッホ展

大渋滞不可避の大ゴッホ展

 県立美術館でゴッホ作品の大規模展が来年2月下旬から約2カ月半にわたって開かれる。過去の実績を基に計算すると約20万人の来場を見込むが、懸念されるのが同館周辺の交通渋滞だ。「並ばない万博」と大風呂敷を掲げた大阪・関西万博では、開幕日に入場するまで2時間の混雑が発生し、展示内容以前の問題で低評価を受けた。大ゴッホ展でも入館までに渋滞が続けば、いらだった車列から開催地の福島市ごと低評価を受けかねない。大渋滞を前提にした方策が求められる。(小池航)

県立美術館周辺の交通対策が急務

 フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~90)の作品が並ぶ大ゴッホ展は今秋から日本国内の3カ所を巡回する。第1期(74点)と第2期で展示を入れ替え、第1期は神戸展が神戸市立博物館で9月20日~来年2月1日、福島展が県立美術館で来年2月21日~同5月10日、東京展が上野の森美術館で同5月29日~8月12日に開かれる。福島展の第2期は2027年6月19日~同9月26日に同じく県立美術館で開かれる予定だ。

 福島市の大ゴッホ展実行委員会は県や県立医科大、福島市など公的機関の他、福島民友新聞社を除いた地元紙・地元放送局で構成される。開催はキー局を通じて県外にも発信するため宣伝効果は大きい。実行委員会に加わる県の文化振興課は「福島展は東京と大阪に次ぐ開催地。主に北海道や東北地方、ひいては首都圏からの来場が見込まれます」と話す。

 第1期が開かれる来年2月下旬から5月上旬は、同4~6月に実施する観光キャンペーン「ふくしまデスティネーションキャンペーン(ふくしまDC)」と重なる。4月は福島市の桜の名所「花見山公園」の見頃や春の福島競馬と重なり、さらに人の動きは活発になる。

 会場となる県立美術館は福島大の旧経済学部跡地に1984(昭和59)年、隣接する県立図書館と同時に開館した。駐車場は77台で、通常の展示であれば事足りる。東日本大震災・原発事故後以降は、復興事業としての位置づけやマスコミ関係者のコネクションを生かして、駐車場のキャパを上回る人気展示を呼び込めるようになった(表参照)。

6万人以上の観覧者を記録した県立美術館の企画展

1998年ピカソ回顧展6万7125人
2004年アートオブ スター・ウォーズ展7万7601人
2013年若冲が来てくれました展15万5592人
2016年フェルメールとレンブラント展10万4519人
2019年東日本大震災復興祈念 伊藤若冲展11万6344人
県立美術館年報より

 人気展示はいわゆる「名画」に留まらない。今年1月25日~3月9日に開かれたベストセラー絵本「だるまさんシリーズ」で知られる作家の巡回展「絵本作家かがくいひろしの世界展」(県立美術館主催)は観覧者4万人を記録したが、盛況の陰で20万人を見込む大ゴッホ展の渋滞が深刻味を増した。かがくいひろし展を観覧した市内の母親が語る。

渋滞した「だるまさん」の展示
渋滞した「だるまさん」の展示

 「開催直後と終了間近は混むのが分かっていたので、開催2週目の土曜日に子どもを連れて行きました。開館直後の9時半~10時なら駐車場に入れましたが、それ以降は10台くらいが門の前で駐車スペースが空くのを待っていました。館内はそれほど混んでおらず、観覧時間も短いので回転も早い。渋滞のストレスは限界に達するほどではないと思うが、親子層がターゲットの展示で渋滞するなら、老若男女が知っているゴッホの展示はどれほど待たされるのだろうと思いました」

 筆者は2月の週末にかがくいひろし展を見物した。開館直後は30㍍ほど並んでいた。警備員が「満車」の札を掲げ、出庫する車を待ってから入るように呼び掛けている。足元には「図書返却箱」が置かれ、図書館利用者がドライブスルー形式で本の返却だけできるようになっていた。

満車の看板を掲げる警備員
満車の看板を掲げる警備員
図書館利用者には返却箱が用意された。
図書館利用者には返却箱が用意された。

 車のナンバーは福島、郡山、会津、いわき、白河と県内全てを網羅。県外からは山形や水戸、宮城が目に付いた。運転手だけ残して、先に車を降りる家族連れもいた。ちょうど最寄りの福島交通飯坂線の美術館図書館駅前から歩いてくる一団がおり、父親とみられる男性は息子に「飯坂線で来るのが正解」と言っていた。県立美術館はJR福島駅から離れた住宅街にあり、車で来る経路も限られる。同館の駐車場のキャパを知らず、土地勘のない人がこの「正解」にたどり着くのは難しい。

 この時の十数台の車列は、長くても15分待てば駐車できるレベル。館内はそれほど混んでいないのに、車の渋滞で中に入れない「見かけの混雑」は郡山市も無縁ではない。昨年、郡山市立美術館で印象派の絵画展示を最終日に観覧した男性が反省する。

 「最終日が近づくにつれ、テレビで盛んにPRしていたので見たくなりました。開館直後にたどり着くと30台以上並んでいたので、妻と運転を交代してそれぞれ観覧しました。しびれを切らして駐車禁止の通用口に止めている人もいたほど。1人で来た人は運転を代われないので気の毒でした」

今秋までに渋滞対策

 男性は自身の甘さを反省する一方で、渋滞のいらだちを過小評価する運営側に苦言を呈する。

 「来場者を増やすには、自分のように衝動的に来る者をいかに煽るかが大事なのは分かる。ただ、同じ程度に『観覧時間よりも渋滞時間が長い』と現状を伝えてほしい。それが分かれば、公共交通で来るか、渋滞覚悟で並ぶか納得した上で手が打てる。大ゴッホ展も『混雑が予想されますので公共交通機関でお越しください』というありきたりの忠告では聞き流されてしまう」(男性)

 大ゴッホ展について、県文化振興課の青山真由美副課長は「実行委員会の交通部会で福島市や警察署を交えて4月から検討を進め、今秋を目途に交通対策をまとめます。フェルメールとレンブラント展や伊藤若冲展など過去の大規模展示や今夏のジブリ展(福島民友新聞社などで構成する実行委員会主催)が参考になります」と話す。

 県が実行委員会に加わったフェルメールとレンブラント展(2016年)、伊藤若冲展(2019年)では県立美術館近くを通る路線バスの通行の妨げにならないように、並ぶ台数を規制した。列に並べない車は、市内の駐車場に止めて徒歩で来るか、電車やバスで来ることになる。福島交通飯坂線が鉄道利用を促すため入館料と一日フリー乗車券が一緒になった切符を発売した例があり、実行委員会は大ゴッホ展でもインセンティブ付きの運行を公共交通機関に提案していくという。

 展覧会にケチが付かないよう、来場の呼び掛けと同時に渋滞緩和の取り組みを周知する必要がある。

小池 航

こいけ・わたる

1994(平成6)年生まれ。二本松市出身。
長野県の信濃毎日新聞で勤務後、東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
福島県内4都市スナック調査(4回シリーズ)
地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」(2023年2月号)

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