巨額の不正融資が発覚した「いわき信用組合」(いわき市小名浜)。6月13日には新しい理事長(第10代)に経理部長・総合企画部副部長の金成茂氏(57)が選ばれ、再生への一歩が踏み出された。しかし、問題の一部始終を知る元理事長は一切姿を見せず、不正融資先の企業グループも匿名扱いが続くなど、多くのナゾは未だに残されたままだ。
不正融資先の代表が激白「江尻氏に騙された」
第三者委員会の調査によって明らかになったのは三つの不正だった。
①2004年3月から24年10月まで、当時の幹部が主導し、大口融資先の企業グループを支援する目的で、ペーパーカンパニーを使っての迂回融資や預金者に無断でつくった偽造口座を介しての無断借名融資により、少なくとも1293件、総額247億円の不正融資が行われた。
②2010年2月から14年8月にかけて、元職員Aが計1億9500万円を横領したが、当時の幹部は事実を把握していたにもかかわらず隠蔽した。
③2009年6月、元職員Bが帯封のされた100万円の束から20万円を抜き取り、発覚後すぐに弁償したが、当時の幹部は事実を把握していたにもかかわらず隠蔽した。
これら三つの不正を承認・決定した「当時の幹部」が、2004年11月から22年6月まで理事長(第8代)を務めたあと、会長の座に君臨していた江尻次郎氏(77)を頂点とする代表理事たちだった。
江尻氏は昨年11月1日付で会長を引責辞任し、いわき信組や第三者委員会の聞き取りに応じたが、業務のことを記した手帳やノートを「捨てた」と答えたり、虚偽と疑われる説明を繰り返すなど、肝心なことを語っていない。
肝心なことは語っていないのは不正融資を受けた企業グループも同じだ。代表者は高齢を理由に第三者委員会の聞き取りに応じていない。新聞もテレビも、いわき信組に関することは熱心に報じるが、企業グループの詳細はほぼスルーしている。
不正融資を受けていたのは、合資会社鈴建工業(いわき市平)を頂点とする「鈴建グループ」である。調査報告書は「グループはX1社、X2社、X3社、X4社、X5社で構成され、かつてはA社も含まれていた」と書いているが、X1社は㈱太平洋健康センター、X2社は鈴建工業、X3社は鈴建開発㈱、X4社は太平ホテル事業㈱、X5社は㈲東北ネットワークサービス、A社は㈲勿来綜合開発を指している。

いわき信組をめぐる報道は、中央のマスコミも巻き込んで過熱気味だが、不思議なのは、鈴建グループについて詳細に報じた記事・ニュースを一切見掛けないことである。
そこで本誌は、鈴建グループの鈴木仁弼氏(93)を直撃。いわき市内の自宅にいた鈴木氏の口から出てきたのは「江尻氏に騙された。あの男は詐欺師」という言葉だった。
実は、第三者委員会の調査報告書には、江尻氏の前の前の理事長・鈴木勇夫氏(第6代)が鈴建グループに2億円の個人債務があり、不正融資の中で相殺したという驚きの記述がある。
調べると、鈴木勇夫氏、江尻次郎氏、鈴木仁弼氏は「一人の共通する人物」を介して繋がりがあることが判明した。また、「江尻氏が理事長の立場を利用し私腹を肥やしていた」という話は調査報告書には出てこないが、鈴建グループへの不正融資をめぐっては使途不明金が8億5000万~10億円あり、役員による横領も排除できないとされる。江尻氏の周辺からは、株での失敗や韓国のカジノ通いといったウワサも漏れ伝わっている。
まさに底なしと言っていい不正の数々。『政経東北』7月号では、その根幹とも言える鈴建グループに不正融資を行うことになった経緯を、第三者委員会の調査報告書から辿っていく。
