〝よそ者〟の長友海夢氏が上位当選のワケ

〝よそ者〟の長友氏が上位当選のワケ

 任期満了に伴う猪苗代町議選が2月18日に投開票され、新議員14人が決まった。その中で、1つ気になることがあったので追ってみた。

郡部では難しい「地盤」ナシの選挙

 本誌昨年9月号に「若手新人議員の素顔」という記事を掲載した。昨年は県内33市町村で議員選挙が行われ、8月上旬までに行われた選挙で当選した「注目の若手新人議員」に迫る内容。取材したのは須賀川市の深谷勝仁氏、猪苗代町の長友海夢氏、南会津町の渡部裕太氏の3人で、このうち深谷氏と渡部氏は、それぞれの議員選挙で2位以下に大差を付けてトップ当選を果たしていた。

 一方、長友氏は昨年6月に行われた町議補選で無投票で当選した。猪苗代町は、昨年6月に町長選が行われ、そこに佐瀬誠氏、佐藤悦夫氏の2人が議員を辞職して立候補したほか、現職議員の死去で欠員3となっていた。そのため、町長選と同時日程(昨年6月13日告示、18日投開票)で議員補欠選挙が行われたのだ。町議補選には、長友氏のほか、山内浩二氏、松江克氏の3人が立候補し、無投票での当選が決まった。

 議員任期は今年2月までで、昨年6月の町議補選で当選しても、任期は約8カ月しかなかった。そんな事情もあり、町内では「この時期の補選では、なかなか立候補しようという人はいない」と言われていたが、欠員3を埋めることができた。

 長友氏は補選(選挙)時、27歳で県内最年少議員。当時、町内で「補選で当選した長友議員はどんな人なのか」と複数人に聞いてみたが、「分からない」という人がほとんど。知っている人でも「地域おこし協力隊でこっちに来た人のようだね」という程度で、「それ以上のことは分からない」とのことだった。

 そこで、長友氏を取材して、他地区の若手新人議員とともに、その素顔に迫ったのが本誌昨年9月号記事である。

 長友氏は1995年8月生まれ。栃木県出身だが、アルペンスキーをやっており、猪苗代町を練習拠点にしていた。小学5、6年生のときは同町内の小学校に通っていた。その後、中学校は地元栃木県の学校に通い、高校は日大山形高校、大学は日大体育学科でスキーを続けた。競技者としては大学までで一区切りとし、卒業後は通信系の会社に就職した。そこで3年ほど働いたが、ひたすら自社の利益だけを求められる環境だったようで、「収入(高収入を得ること)よりも、人の役に立つ仕事がしたい」と思うようになったという。

 そんな折、猪苗代町で地域おこし協力隊員を募集していることを知り、「思い入れのある猪苗代町で、地域のために仕事がしたい」と応募、2020年4月から3年間の任期で地域おこし協力隊員になり移住した。

 長友氏は、その任期中の2022年7月に㈱いなびしを設立した。猪苗代湖の水質環境保全事業を行う中で、「ひし」(水草)に注目。本来は、水質汚濁の原因となる湖の厄介者だが、それを有効活用しようと考えたのだ。それをお茶(猪苗代湖産ひし茶)として商品化した。

 こうした事業を営むかたわら、議員に立候補しようと思った理由については次のように話していた。

 「会社勤めをしていた時に、取引先企業の担当者が政財界とつながりがあり、私もそうした場に行くことがありました。その時は、議員になろうとかではなく、それまで縁遠かった議員について認識することができました。その後、会社を辞めて、地域おこし協力隊に応募した際、役場の課長さんの面接があったのですが、その時に『ここで、地域のためになる仕事がしたい』、『いずれは起業したいし、議員として地域のために働きたいと考えている』ということを伝えました。(2023年)3月に地域おこし協力隊の任期が終わり、この機会だと思って立候補しました」

長友氏の自己分析

 こうして議員になった長友氏だが、前述したように任期は8カ月ほどしかなく、今年2月には町議選の本戦が控えていた。しかも、今回から改選前の定数15から1減となった。町議選には現職15人、新人1人の計16人が立候補した。

 長友氏は一時期、同町を拠点に競技スキーの練習をしていたが、地域おこし協力隊で移住してきたため、確固たる地盤があるわけではない。特に郡部の選挙で地盤がないのは簡単ではない――そう思っていたが、結果は974票で2位当選を果たした。ちなみに、最下位当選者は216票だったから、当選ラインの4倍以上の得票だったことになる。

猪苗代町議選の結果(投票率64・31%)

当	1101	安斎  浩明(60)	無新
当 974 長友  海夢(28) 無現
当 606 渡部  一登(39) 無現
当 520 星野 あけみ(53) 公現
当 502 鈴木   元(51) 無現
当 442 渡辺 真一郎(76) 無現
当 440 関沢  和人(77) 無現
当 386 大高 佐代美(60) 無現
当 386 五十嵐ミエ子(77) 共現
当 352 後藤  公男(71) 無現
当 278 長沢   操(73) 無現
当 260 山内  浩二(69) 無現
当 239 佐藤 英一郎(74) 無現
当 216 滝田  勝昭(66) 無現
201 金本 久美子(76) 無現
138 松江   克(69) 無現

 他町村でも地域おこし協力隊で移住して、議員になった例はある。ただ、本誌が知るケースでは無投票だから当選できたという人がほとんどで、選挙戦を戦い当選した人も、下位当選が多い。

 そんな中での、長友氏の得票には正直驚いたが、その要因はどこにあるのか。長友氏は「選挙結果に対する自己分析ですが、多くの得票があった要因を、大きく分けて5つあると思っています」として、以下の点を挙げた。

 ①後援会長の影響力と行動力▽後援会長が人望があり、いろいろな方にご紹介いただいた点が票につながったと感じています。

 ②これまでの活動実績に対する期待▽環境大臣賞や、ふくしま産業賞銀賞を受賞するなど、これまで猪苗代町で行ってきた町おこしの活動が、多方面でも評価され、新聞等のメディアに多数掲載されたことも、票につながったと感じています。

 ③若さに対する期待▽唯一の20代ということもあり、若者の行動力と発想力で、町を変えてほしいという有権者が比較的多くいらっしゃったことも、票につながったと感じています。

 ④親戚地盤が一切ないこと▽他の候補者と違い、1人だけ親戚地盤が一切ないということで、周りの人からは落選する心配を持たれている方もいらっしゃったので、それが逆に投票行動に結びついたと感じています。

 ⑤SNS等での発信▽インスタグラムやフェイスブックの発信を通じ、活動を知ってくださったり、応援してくださる有権者の方も多数いらっしゃいました。田舎とは言え、インターネットにつながる方の割合が、昔よりも増えたことも影響したと感じています。

 一方で、町内のある有力者によると、「津金要雄元町長を支持していた人たちがだいぶ支援したようです。長友議員はもともとこの町の人ではないから、そういう支援がなければ、なかなかあの得票にはならないと思います」という。

 昨年9月号記事でも指摘したが、これまでも本誌は志を持って議員になった若い人を多数見てきたが、いざ議会の中に入ると、その志や熱意を保ったり、新しい視点で情報発信し続けるのは難しい。古参議員から「あまり勝手なことをするな」、「目立ち過ぎるな」という有形無形の圧があり、「議会(議員)とはそんなものか」と感化されていくからだ。地元有力者の支援を受けると、余計にそういう傾向が出やすいが、長友氏には、若手ならでは視点や、移住者だから見えることを生かして、町民にとって有益な議員であり続けることを期待したい。

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