政経東北|多様化時代の福島を読み解く

「尊敬する人」に箭内道彦氏を挙げた内堀知事

「尊敬する人」に箭内道彦氏を挙げた内堀知事

 この原稿は知事選投票日(2022年10月30日)の3日前に書いている。3期目を目指す現職の内堀雅雄氏(58)と新人の草野芳明氏(66)が立候補しているが、2022年11月号が書店に並ぶころには内堀氏が3選を果たしているのは間違いないだろう。

 それはともかく知事選告示日(同13日)の2日後、福島民報に「立候補者の素顔」という記事が載った。内堀・草野両氏の人となりが紹介されているが、「尊敬する人」という質問に内堀氏が「箭内道彦」と答えたことが密かな注目を集めた。

 箭内道彦氏(58)は郡山市出身。安積高校、東京芸術大学を経て博報堂に入社。その後独立し、フリーペーパーの刊行、番組制作、イベント開催、バンド活動など幅広い分野で活躍している。携わった広告、ロゴマーク、グラフィック、ミュージックビデオ等々は数知れず、まさに日本を代表するクリエイティブディレクター(CD)と言っても過言ではない。

 そんな箭内氏と内堀氏の接点は震災前、箭内氏が地元紙の広告に書いた「207万人の天才。」というコピーに興味を持った内堀氏が、箭内氏のライブの楽屋を訪ねたことがきっかけだった。当時副知事だった内堀氏の来訪を「最初は警戒した」という箭内氏だが、話し始めると福島に対する思いは共通する部分が多く、年齢もちょうど同じだったため、ふたりはすぐに意気投合したという。

 その数年後、震災と原発事故が起こり、当時ふたりで話していた「福島県民は伝えるのが下手」、すなわちコミュニケーションや発信力のあり方が問われるようになった。地震・津波・放射能汚染といった直接的被害だけではなく風評・差別・分断といった間接的被害など、さまざまな困難に直面する福島の姿を広く知ってもらうには「伝わる力を持った言葉」を操る箭内氏の力が必要――そう考えた内堀氏が箭内氏を〝三顧の礼〟で迎え入れ、全国の自治体の先駆けとなる「福島県クリエイティブディレクター」が誕生したのである。

 福島県CD就任後、箭内氏は県の広報活動に積極的に関わり、2022年8月からは県が創設したクリエイター育成道場「誇心館」の館長として地元クリエイターの育成・指導もスタートさせた。

箭内道彦氏(クリエイター育成道場「誇心館」HPより

 とはいえ箭内氏をめぐっては、県の広報活動に〝関わり過ぎている〟として、地元CDや広告代理店からさまざまな弊害が指摘されるようになっている。その詳細は本誌2021年3月号と2022年9月号で触れているので割愛するが、内堀氏が尊敬する人に箭内氏を挙げたことで、弊害がますます大きくなる懸念が持ち上がっているのだ。



 「内堀氏は、箭内氏がやることは何でも素晴らしいと言う。しかし中には『これってどうなの?』と首を傾げる広報もある。県庁内からもそういう声が少しずつ漏れている。そうした中で、内堀氏が箭内氏を尊敬していると言ってしまったら『いくらなんでも、これはない』という広報まで認められてしまう」(ある広告代理店の営業マン)

 要するに、内堀氏の「尊敬している発言」は「箭内氏の今後の活動は何でもOK」とお墨付きを与えたのと同じ、というわけだ。

 8年前、内堀氏が初めて知事選に立候補した時、尊敬する人に挙げていたのは自身が副知事として仕えた佐藤雄平元知事だった。それが箭内氏に代わった理由はよく分からないが「内堀氏はヘビメタ好きを公言するなど文化に強い関心を示すことがあるが、実は文化コンプレックスを持っているのかもしれない。だから文化の最先端を行く箭内氏に一種の憧れを感じている、と」(同)。

 知事に尊敬された箭内氏が、どういう心境なのか興味深い。

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