医療ミスで訴えられた南相馬市立病院長が退任講演会

医療ミスで訴えられた南相馬市立病院長が退任講演会

 2021年3月に南相馬市立総合病院で脳外科の手術を受けた後に死亡した森朝子さん(当時68)の遺族らが「医療ミスだ」として、昨年12月、同病院院長の及川友好氏と病院開設者である南相馬市を相手取り、福島地裁に約1億1770万円の損害賠償請求訴訟を提起していたことを本誌2、3月号で報じた。

 訴状によると、手術はカテーテルを挿入し、コイルを詰めて脳動脈瘤破裂を防ぐ「コイル塞栓術」で、遺族らは「治療は30分ほどで終了する」と説明を受けていた。ところが、手術中に誤ってカテーテルで中大脳動脈を穿孔(穴が空くこと)し、くも膜下出血が発生。麻酔医が待機していなかったこともあって対応が遅れ、脳の一部を切り取らざるを得ない状況となった。朝子さんの意識は戻らず、手術から17日後に死亡した。病院側の説明では、カテーテルによる穿孔に30分近く気づかなかったことも分かっている。

 加えて、主治医だった及川氏の不誠実な対応に遺族らが不信感を抱き、裁判の提起に至った。

 南相馬市議会3月定例会で、病院事務部長は現状について「訴状は現時点で市にも病院にも送達されていない」、「審理が開始された場合はご遺族のご心情を拝察しつつも、必要な主張・立証を行ってご理解を得られるよう努めていく」と答弁した。

 原告関係者によると請求内容の追加・一部変更があったとのことなので、あらためて市や病院に訴状が送られ、審理が始まるとみられる。

 3月号記事でも触れた通り、同病院では以前から医療事故などのトラブルが起き、市内で悪評を聞くことも多かった。そのため今回の医療ミス訴訟は同病院の現状を象徴していると捉えている関係者が多いようだ。一部では「及川院長は以前から特に必要性のない手術症例を自ら行い請求していた」という指摘も聞かれた。

 裁判の被告となった及川氏は、年齢(65歳)を理由に3月末で院長職を退任し、4月から同病院副院長を務めていた杉本浩一氏が新院長に就任した。ただ、及川氏は引き続き医師として同病院に勤め続ける。

 朝子さんの4回目の命日を控えた3月14日には、JR原ノ町駅前のホテル丸屋グランデで及川氏の「退官記念講演会」が催された。

退任記念講演会の会場となったホテルは出席者でにぎわった
退任記念講演会の会場となったホテルは出席者でにぎわった

 開会前に同ホテルの前を通ると、和服を着た女性が会場に入っていった。同病院関係者によると、脳神経外科の医師など100人近くが参加したという。講演会となっているが、実質的には及川氏の院長退任祝いのパーティーだったようだ。

 「院内では『(医療ミスで訴えられ、これから審理が始まるところなので)自粛すべきだ』という声も出ていたが強行された格好です。私は出席しなかったから詳細は分からないが、その他人事の姿勢にあきれてしまいます」(同病院関係者)

 及川氏は4月1日付の人事異動で、市の地域医療政策監に就いた。医療人材不足への対応や医療機関との連携強化に向けて新設されたポストで、今後も市や同病院内で影響力を持つと思われる。

 亡くなった朝子さんの夫、森哲芳さんは「医療ミスの原因を質問する中で、及川氏に『今後はしっかりと対応します』と言われ、『もう妻は戻ってこないのに何を言っているのか』と憤ったこともあった」と振り返り、今後裁判で真相究明が行われることに期待を寄せた。法廷で及川氏はどのような主張をするのか、大きな注目を集めそうだ。

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