Uターンジャーナリストが見る福島 【第2回】結婚

斎藤美幸 さいとう・みゆき
福島市唯一の造り酒屋金水晶酒造株式会社4代目蔵元取締役会長。Uターンジャーナリストとして内外の視点から情報発信している。元フジテレビ・福島テレビ記者。
女性が戻らない県という現実
前回、私はふるさと福島県で若者、とりわけ若年層が急速に減少している現状から話を始めた。県内大学の定員を上回る進学希望者が存在し、毎年約4000人が県外へ流出する。
男性はある程度Uターンするが、女性は希望する職に就けないため戻る人が少ない。その結果、福島では若い独身女性100人に対し男性が136人という47都道府県で一番男女比の差が大きい「男あまり県」となり、出生数は30年前の4割にまで落ち込んだ。AIはこの状況を「沈みゆく船」と表現したが、本質は明確だ。「安定した職がない」という船の穴が放置されているのである。この穴を塞がなければ、誰も安心して乗船しない。
「結婚すればいい」という幻想
この問題に対し、「結婚で女性を呼び戻せばよいから女性に安定雇用は不必要」という声は根強い。「女性が働けば家庭がおろそかになる」「どうせ辞めるのだから正社員に向かない」 「うちの近所は違う」など正当化の理由は多い。だが現実は逆だ。学業終了後すぐ結婚でUターンする女性は少なく、県内の婚姻数そのものも減少している。かつては独身が例外だった時代もあったが、今は違う。結婚は必須ではなく、選択肢の一つに過ぎない。
昭和と令和で変わった「幸せの定義」
背景には「幸せの定義」の変化がある。昭和は「食べられること」が幸福の第一で戦争と貧困を経験した社会では、夫による経済保障こそが結婚の価値だった。「誰のおかげで飯が食える」という言葉も、「経済的豊かさこそが幸せ」という文脈では愛情表現の一つとして成立していたのかもしれない。
しかし令和において同じ言葉はモラルハラスメント(精神的暴力)と受け取られ、関係を破壊する。就業の幅が広がり、社会保障が存在して最低限の生活が担保される現代では、「養われること」は人生を預ける理由にはならない。食べるために奴隷と主人のような不均衡な関係を結ぶ人はもはやいない。男性の収入を増やせば全て解決という単純な時代は終わったのだ。
情報化社会が変えた結婚観
SNSには世界中の女性の経験が蓄積され、「結婚したいなら若いうちが男女ともに有利」など婚活にかかわるデータの他「妻を大切にしない男性と結婚するくらいなら独身の方が良い」という結婚生活そのものへの知見が共有されている。
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男の言い分」での知識も豊富だろう。昭和世代のエンタメも若い世代には貴重な実例だ。現実は「お姫様と王子様は幸せに暮らしました」ではなく、学術論文で愛がなくなる仕組みが丁寧に解説され、失業、倒産、病気、モラハラ、経済DVなどお気楽に結婚に踏み出せない世の中が可視化されており、他人の不倫は関係ないとしても当人たちにとって不倫は民法770条が定める離婚の一発アウト事由である。結婚したい若者が9割とはいえ「結婚ガチャ」の恐怖がこれほど可視化された現在、独身を選ぶ若者が多くても不思議ではない。
専業主婦のリスク構造
そうはいっても身近で幸せな結婚生活を何例も見ており、自分は「ガチャの当たり」と信じられる人にとっては「専業主婦」という選択は最高の贅沢に思えるかもしれない。夫婦ともに幸せなら子供も嬉しいだろう。
けれど経済的に夫に依存する構造は、「離脱できない関係」を生みやすい。つまり幸せは失業もせず、不倫もせず、DVもせず妻子を一生大切にし続ける「ガチャ当たりの夫」ありきで初めて成立する。逃げ道がなければ、関係は対等ではなくなる。夫を主人と呼ぶのが象徴的だ。地方の女性が低賃金であるのは統計の通りで、この状況下で離婚すれば貧困、残れば精神的な苦痛。この専業主婦リスクが存在する以上、若い女性が慎重になるのは当然だ。さらに現在37歳以下の女性は、2028年以降、夫が亡くなった際に18歳以下の子がいなければ遺族年金は5年で打ち切られる。
もはや「結婚すれば安定」という前提は年金制度の上からもない。キャリアがないままの人生はまさに「沈みゆく船」になってしまった。
共働きに付随する「ワンオペの恐怖」
では共働きなら解決するのか。これも統計が出ていて、共働き世帯でも、家事・育児の負担が女性に偏る現実がある。長時間労働が前提の社会でも誰かは「家事・育児・介護」を担わなければならず、仕事に加えてこちらも担えば、過労で人生が潰れてしまう。悲鳴がSNSにあふれている。
つまり、専業主婦を選んでも兼業主婦を選んでも不幸になるリスクが少なくない。ならば「理想を下げてまで結婚しない」という判断は合理的である。若い女性の結婚観を「高望み」という意見も聞くがかなりの部分が「生きるための最低限」ではないかと思う。だが福島で生きる経営者としては若者に結婚してほしいと思う。実体験から子育ても楽しかった。でも無理強いはできない。どうしたら良いのだろう。
求められる「もう一つの改革」
ハズレが多くて賭けに乗ってもらえないなら解決策の一つは「夫ガチャのハズレ確率を下げること」である。一昨年、内堀雅雄福島県知事も出席した「人口減少危機対策セミナー」の最後に会場の若い女性から「周囲の既婚男性が不倫ばかりしているのを見て、結婚が良いものに思えない」という質問が出た。これに対し講師のニッセイ基礎研究所天野馨南子氏は「女性に経済力がないことで、男性側に『どうせ離婚できない』という慢心が生まれる」と指摘した。少子化対策の第一歩は女性が戻れる雇用環境の整備だと続けた。つまり大切なのは「結婚という制度そのものの改革」ではなく雇用でも家庭でも社会でも「女性も男性と同様に尊重される制度」であり、現状のままでいくら男女の出会いを増やしても成婚も婚姻関係の継続も難しい。
マシュマロ実験に耐えられるか
マシュマロ実験とは後で食べたほうが褒美が多いと聞いても我慢できずにすぐ食べてしまった子供と、我慢できた子供を比較し、我慢できた子供の方が後の知能が高く、将来の成功者が多かったという研究である。目先の利益だけを考えれば、出産で仕事中断の恐れがない男性だけを雇い、家事にも育児にもかかわらせず、長時間労働をさせるのが一番効率が良いだろう。だが皆でそれをすれば社会が続かないのは明らかだ。しかも子供が幸せに育ち、幸せな大人として人生を送れなければ社会の意味もない。沈みゆく船の穴を塞ぐために目の前のマシュマロを我慢できるか。50年前の子供と同じ実験を現代の大人が受けている。






















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