郡山中央工業団地の一角でバイオマス発電所の建設計画が進められている。ただ、同工業団地を含む一帯は令和元年東日本台風で浸水したため「そんな場所に建てて大丈夫なのか」と心配の声が上がっている。
水害危険個所での建設に懸念の声
バイオマス発電所の建設が計画されているのは郡山中央工業団地の東側に位置する字船場向地内で、ヨークベニマルのデリカ工場に隣接する広大な空き地だ。同所ではもともと日立製作所が操業していたが、2019年末に閉鎖することを発表し、事業の大半を神奈川県に移転。その後、建物は取り壊された。
不動産登記簿によると、土地の所有者は日立製作所だったが、昨年2月に㈱エフバイオス(東京都千代田区、島﨑知格社長)という会社に売却されていた。
エフバイオスは2008年設立。資本金1000万円。バイオマス発電所の運営業務の受託・助言やバイオマス燃料の製造・収集・販売を手掛けている。
同じ住所には㈱エフオン(島﨑知格社長)という会社もある。1997年設立。資本金約22億9300万円。エネルギー事業全般や産業廃棄物に関する事業を行っている。
エフオンは日本総合研究所が中心となってつくられた国内初の総合エネルギーサービス事業会社で、連結子会社7社、非連結子会社4社でグループを形成している。民間信用調査機関によると、直近5カ年の決算は別掲の通り。
エフオンの業績
売上高 | 当期純利益 | |
2019年 | 81億0200万円 | 5億9500万円 |
2020年 | 60億1000万円 | 12億2700万円 |
2021年 | 83億7000万円 | 12億3600万円 |
2022年 | 34億2600万円 | 5億4300万円 |
2023年 | 18億3700万円 | 3億0500万円 |
バイオマス発電所を計画しているのはエフオンで、地元の水門町町内会役員らに配布した資料によると、発電容量は定格出力9999㌔㍗、送電端出力9100㌔㍗(年間約1万8000世帯分の電気を供給)。使用燃料は木質チップ。燃料使用量は年間約10万㌧。雇用は30人程度を予定。今年3月にFIP認定(※)を取得済みという。着工は2025年春から夏ごろ、商業運転開始は27年夏ごろとしている。
※再エネを固定価格で買い取るのではなく、再エネ発電事業者が卸市場などで売電した時、その売電価格に対して一定のプレミアムを上乗せする制度。
エフオンは2006年から白河市大信で「エフオン白河」というバイオマス発電所を稼働しているほか、大分県日田市、豊後大野市、栃木県壬生町、和歌山県新宮市にも同発電所を構えている。
エフオンにとって六つ目のバイオマス発電所となる今回の計画について、同社は地元住民の意向に合わせて説明会を開きたい意向で、質問も随時受け付ける姿勢を見せている。
しかし、予定地近くに住む主婦は次のように話す。
「こんな近くにバイオマス発電所が建つなんて思いもしなかった。知識がないからうかつなことは言えないけど、粉塵、騒音、振動は大丈夫なのか、洗濯物は外に干せるのか、燃料を運ぶトラックで交通問題が起きないのか、心配が尽きません」
稼働後、日常生活にどんな影響が表れるのか漠然とした不安を抱えていることが分かる。
本誌にはこんな匿名メールも届いている。
《あの場所は令和元年東日本台風で浸水したので、バイオマス発電所を建てて大丈夫なのか。再び水害が起きたら大量の木質チップが流出するのではないか》
実際、予定地で操業していた日立製作所が撤退したのは、令和元年東日本台風で一帯が2㍍浸水するなど深刻な被害を受けたことが原因だった。ここで操業を続けるには多額の費用をかけて浸水対策を講じる必要があるが、同社は水害リスクをゼロにするのは無理と判断し、神奈川県への事業移転を決めた。
ただ、エフオンの説明を聞いたという水門町町内会は計画を冷静に受け止めている。
「水害が起きた時のことを心配する人は確かにいます。しかし、郡山中央工業団地のものが水門町まで流れてきたことは過去の水害でもありません。団地周辺の阿武隈川や谷田川は改修が進み、市も雨水管を太くしたり、ポンプを設置するなど水害対策をしています。エフオンの担当者もこちらの疑問に丁寧に答えてくれています」(水門町町内会役員)
水門町町内会の立場としては、もろ手を挙げて賛成しているわけではなく、かといって反対でもなく「住民に迷惑をかけないよう操業してほしいだけ」(同)という。
郡山中央工業団地内の会社が加盟する「郡山中央工業団地会」も推移を静かに見守っている。同団地会運営委員を務める門脇孝嘉氏(郡山自動車学校社長)の話。
「エフオンの担当者がこれまで何度か団地会の集まりに出席し、計画について説明してくれています。担当者によると、燃料の木質チップを運ぶトラックがかなり行き来するようなので、運搬の時間帯やルートを慎重に検討してほしいとお願いしています。また、予定地の隣でベニマルの工場が稼働しているように団地内には食品関連の会社が結構あるので丁寧な説明を心掛けること、周辺住民に迷惑のかからない操業に努めることを求めています」
水害対策については「当然、エフオンも独自に講じるでしょうし、市も費用をかけて雨水管やポンプを設置し、何かあれば団地会とすぐに連絡が取れる態勢になっているのであまり心配していません」(同)。
そもそも民間事業なので、同団地会は賛成も反対もする立場になく、エフオンが同団地会に加盟した場合は他の加盟会社と同様、地域貢献などの活動に参加するよう協力を求めていくとしている。
「市に紹介してもらった」

エフオンにメールで質問を送り取材を申し込むと、電力事業部の担当者から回答が寄せられた。
――郡山中央工業団地に建設することを決めた理由は。
「市から事業候補地として、旧所有者様をご紹介いただきました。現在、最終決定に向け、関係各所や近隣等と協議・調整中です」
――郡山中央工業団地は令和元年東日本台風で浸水した場所だが、そういう場所に建設することのリスクをどう捉えているか。また、リスクがあっても建設するメリットの方が大きいと考えた理由は。
「過去に浸水被害があった場所であることは承知しています。現地は行政による水害対策が進められ、当時よりリスクは軽減したと判断しています。弊社グループの事業性に加え、郡山市の林産業への貢献(バイオマス発電所では国産木質材を燃料として使用)、雇用や再エネ電気の普及等による地域貢献など、総合的に判断し進出を検討しています」
――どのような浸水対策を考えているのか。
「過去に浸水被害があった場所であることを前提に、事業の継続性および近隣地域への影響を最小限に抑えるという観点で対策を検討していきます」
――水門町などで説明会を開いているそうだが、住民の反応は。
「騒音や振動、粉塵、大気汚染、排水、交通への影響等に関する質問をいただき、法令遵守、安全管理への対策を含め回答し、ご理解をいただいていると考えています」
――建設に向けた法令・行政手続きは、これまでに何が終わり、現在は何をしていて、今後は何をする予定なのか。
「現在、最終決定に向け、関係各所や近隣等と協議・調整中です」
――着工は2025年春から夏ごろ、商業運転開始は27年夏ごろを目標にしているとのことだが、計画通り進みそうか。
「計画通りの実施を目指して準備を進めています」
回答で気になったのは「市から事業候補地として紹介された」という点だ。バイオマス発電所は、住宅地に近い場所での稼働は住民から嫌がられる傾向にある。食品関連会社も口には出さないが、本音は「隣に来てほしくない」。そうした中で、どちらの条件にも当てはまる郡山中央工業団地を、市はどういう理由で紹介したのか。
「個別企業の案件に対し、市がコメントすることは控えさせてください」(市産業創出課の担当者)
取材中、前出の主婦や水門町町内会役員からは
「会社だけでなく市も説明してくれると安心感があるが、市の姿は全く見えない。工業団地をつくったのは市ですよね? だったら市も少しは関わるべきでは」
という不満が聞かれた。特定の民間事業に市が介入することは、もちろんないだろうが、「市が整備した工業団地に進出」という観点に立てば、周辺住民に一定の説明をする責任があるのではないか。