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横領金回収が絶望的な会津若松市と楢葉町

 会津若松市と楢葉町が詐取や横領で失った公金を全額回収できない事態に陥っている。同市では元職員が約1億7700万円詐取し、47%に当たる約8400万円が未回収。同町では土地改良区と地元農家の団体の会計を委託されていた元職員が約3800万円横領したが、一切返金されていない。二つの事件は一生掛けても返せない額を詐取・横領した点が共通している。同市の元職員は刑務所に収監されて連絡が途絶え、本人からの回収は絶望的となった。(記事中の金額は千円以下切り捨て)

元職員からは連絡なし

巨額詐取事件が起こった会津若松市役所(当時)

 会津若松市職員(当時)による公金詐取事件の被害額は1億7700万円と、公金が狙われた事件としては近年まれにみる大きさだ。元職員小原龍也氏(52)は、児童扶養手当や障害者への医療給付を管理するシステムを改ざんして自身の口座に公金を振り込んでいた。チェック役に職務経験が浅かったりIT技術に疎い職員を配置し、不正がばれないようにしていた。

 旧河東町役場職員だった小原氏は会津若松市に合併後そのまま市職員となり、健康福祉部に配属された。2007~09年にかけて重度心身障がい者医療費助成金6571万円を、給付システムを改ざんして詐取。財務部税務課に異動し、いったんは不正できる環境から遠ざかるが、健康福祉部に戻り、こども家庭課で給付グループのリーダーになる。19~22年にかけて児童扶養手当1億1068万円、21年には子育て世帯への臨時特別給付金60万円を詐取した。

 詐取金は車やマンションの購入費、遊興費に充てていた。2016年には父親に頼まれて地元金融機関から700万円を借り、それを叔父に貸している。叔父の返済が滞ったため19年に再び公金詐取に手を染めたという。

 2022年に小原氏の後任者が会計を不審に思い、市が内部調査して15年に及ぶ公金詐取が明らかになった。市は小原氏に預金からの返金や車などの換金を迫り、本人から9112万円回収したが、処分できる資産はもうない。

 不動産については、小原氏は詐取金でマンションを購入しているが、ローンが2800万円ほど残っており、売却額がローンを下回るため売るに売れない。小原氏と父親が共有名義で持つ市内の自宅は、土地建物に会津信用金庫が2人を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けており、ローンがあと2年分残っているためすぐに処分はできない。

 回収の目途が立たないまま、小原氏は昨年6月に懲役3年6月の判決を受け刑務所行きとなった。収監先は家族にも知らされず、居場所を知るには本人からの手紙を待つしかない。市人事課によると収監後、小原氏から連絡はないという。

 本人から回収できない事態に備え市は小原氏の父親から「協力金」という形で年2回を目安に弁済を受けている。これまで4回に分けて122万円回収した。内訳は2023年2月6日に40万円、同5月19日に30万円、同8月14日に2万円、同11月30日に50万円(今年2月16日時点)。

 裁判での父親の証言によると、家計は従事している農業の年間売り上げが約350万円で、経費を差し引くと手取りは約190万円。他の農家を手伝って約50万円プラスになる。ただ前述のように、小原氏と共有名義で持つ自宅のローンが残っており「正直苦しい」と吐露した。次男に継がせた市の一般ごみ収集運搬事業を手伝い、いくばくかの生活費を得ているという。

 父親の資力を勘案すると、年100万円前後の弁済が限度だ。残り8402万円を返すには、単純計算であと84年かかる。小原氏が存命中の完済は無理なのではないか。筆者が市人事課の担当者に聞くと、「全額回収を求めていきます」。未回収のまま小原氏が死亡する最悪の状態を想定し、市が親族を相手取り損害賠償を求める可能性はあるか尋ねたが、「民事訴訟の対象はあくまで犯罪を行った小原氏本人で、別人格の親族にはそもそも認められない」(同)という。

肉親の協力が不可欠

楢葉町役場

 少額でも親族が肩代わりしていればまだマシだ。楢葉町で約3800万円横領した元職員遠藤国士氏(47)は、町によると1円も返金していない。町と町土地改良区は損害賠償を求め地裁いわき支部に提訴した。遠藤氏は出廷せず、2022年、裁判所は遠藤氏に対し、遅延損害金を含め町土地改良区に4157万円、町に30万円支払うよう命じた。判決から1年半後に遠藤氏は業務上横領容疑で逮捕・起訴され、同支部で刑事責任を問う裁判が続いている。公判で遠藤氏は横領を認めている。

 町総務課によると、双方の代理人弁護士を通じてやり取りしているが、遠藤氏から返金の意思は聞けていないという。

 「賠償額には町側の弁護士費用や遅延損害金が加算されています。遅延損害金は年利3%で増え続ける。現状全く返還を受けていませんが、刑事裁判の行く末を見ながら回収手段を考えます」(町総務課)

 遅延損害金は支払いを命じる判決後も加算され、1年ごとに100万円単位で増える。とはいえ遠藤氏が無一文の場合、何の意味も持たない数字だ。

 遠藤氏の実家がある秋田県の親族に協力金という形で返金を求める手もあるが、そこまでの話には至っていない。会津若松市のケースでは小原氏の父親が肩代わりしている。県外出身の遠藤氏と違い、小原氏の父親は市内に居住しており世間体がある。さらに父親の頼みで小原氏が叔父に金を貸していた負い目もあったのだろう。巨額横領事件では横領した本人は漏れなく刑務所に行き、音信不通となる。本人からの返金は一時中断するので、肉親の協力が不可欠だ。

 横領など職場の金を掠め取る行為は官民問わずあり、本誌には内部告発が絶えない。横領があったこと自体が組織のイメージを低下させるので、民間の場合は全額回収できたら刑事告訴まではせず、解雇や退職で済ませる場合が多い。しかし役所の場合は、額に関わらず懲戒処分し発表する(「発表基準に満たない」と懲戒基準を恣意的に運用し隠蔽する場合もある)。

 金を掠め取った者はもちろん罰を受けるべきだが、被害を受けた組織にとっては、それよりも金が戻ってくるかどうかが大事だ。直ちに全額返金か、さもなくば刑罰か、横領事件では被害を受けた組織と横領犯の間で一種の「取引」が生じる。

 会津若松市と楢葉町の事件は金額が大きすぎたため「取引」が成立しなかった。被害が少額の段階で犯行に気付けなかったことが行政の第一の失態、全額回収が絶望的になっていることが第二の失態だ。時とともに納税者である住民の関心は薄れていく。だが、全額返金されなければ何も解決しないことを忘れてはいけない。

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