会津若松市「新工業団地」面積倍増の是非

会津若松市「新工業団地」面積倍増の是非

 会津若松市が河東町八田地区で進める新工業団地整備をめぐり、賛否が分かれている。9月には「企業の引き合いが多く雇用創出につながる」として、16㌶だった開発面積を30㌶に拡大する方針が発表された。だが、市内では農業振興地域(農振)の除外手続きや水道容量などの課題を指摘する声が聞かれており、「視界良好」とは言えない状況だ。

懸念は農振除外・水確保・事業費増

会津若松市「新工業団地」面積倍増の是非 地図

 人口減少に直面する会津若松市では、第7次総合計画で企業誘致を進めて雇用を拡大する方針を掲げている。ただ、同市の工業団地は2018年にすべて完売したため、新規企業の受け皿を設けるべく、「新たな工業団地の整備を推進する」と工業振興計画に明記。製造業従業者数を2018年9058人から2029年1万人まで増やす目標を立てた。

 市内10カ所の候補地から河東町八田北生井地区が最有力候補地に選ばれた。同地区は常磐自動車道磐梯河東インターチェンジ(IC)に近く、松長団地方面へと抜ける主要地方道会津若松裏磐梯線に面する。西側には会津若松河東工業団地がある。分譲開始予定は2029年度。

 当初計画は開発面積約16㌶、分譲面積10㌶、事業費約24億8050万円だったが、9月4日の市議会全員協議会で開発面積を約2倍の30㌶、分譲面積を約20㌶に拡大すると発表された。新工業団地では約500人の雇用創出を見込んでいたが、コロナ禍で市内の製造業従業員数が減少し、目標達成が難しくなったため、分譲用地拡大に踏み切ったという。

 事業費に関しては「スケールメリットで増額幅が抑制されるので、約25億円がそのまま倍増するわけではない」(企業立地課)としている。

 9月5日付の福島民報では、7月末時点で県内外の16社が関心を示していると報じていたが、ある市議は「単に情報収集を示しているだけで、具体的に検討しているわけではないでしょう」とみる。

 「最有力候補地の河東町八田北生井地区は圃場整備が行き届いた優良農地で、工業団地を整備するために農振除外や農地転用の手続きが必要となります。事前に県に相談したところ『この場所では法的制約の緩和が難しい』と言われたようなのですが、にもかかわらず、市は十分な調整を経ないまま計画を公表してしまったのです。その後、具体的に法的制約を緩和するためにはどんな対応が必要なのか、要件整理に時間を要し、ようやく発表されたのが、今回の面積拡大でした」(同)

 市は2024年度には関連予算3・2億円を計上していたが、県との協議が長引いたため事業に着手できず、予算の92%が今年度に繰り越された。これが議会で問題視され、9月定例会議では速やかな関連業務委託契約の支払いと議会への真摯な対応、丁寧な事務執行を求める決議案が賛成多数で可決された。

 この間の経緯について県農業担い手課にあらためて確認したところ、担当者が次のように説明した。

 「市の計画は把握していますが、県の所管に関する『正式な手続き』は全く進んでいません。2023年ごろから相談が寄せられ、農地転用・農振除外には厳格な要件があるので、『道路に面している必要がある』、『真ん中の良好な農地だけを点で転用するのは難しい』などと回答(アドバイス)していました」

 要するに、県が示す要件を満たして工業団地を実現するためにはどうしたらいいか検討を重ねた結果、面積を倍増させて対応することになった、と。前述の福島民報記事では、面積拡大の理由を《コロナ禍の影響による事業者のサプライチェーン(供給網)見直しと災害リスクに備えようとする企業の需要増などに対応するため》、《室井照平市長は「企業が地政学的なリスクに備える中で自然災害が少ない地域と見ているようだ」との見解を示した》と報じていたが、「企業からの引き合いが理由」というのは後付けとの見立てが根強い。

 このほか、市議や市職員OBらはさまざまな視点から懸念点を指摘している。

 最も多く聞かれるのは上水道供給への懸念だ。新工業団地には同市河東町の六軒浄水場から水が供給される予定だが、1967年から稼働している浄水場が30㌶の工業団地への工業用水を確保できるのか、管路の整備状況や下流域への影響は問題ないのか、不安視されているのだ。

 市上下水道局に確認したところ、次のように回答した。

 「新工業団地には六軒浄水場から既存の配水池を経由して水が供給される仕組みです。かつて富士通などの半導体製造メーカーは大量の純水が必要だったので、水の確保が課題となってきましたが、近年は各メーカーが自前で工事をして地下水を確保するようになっており、上水道への依存度が低くなっています。本市においては富士通撤退や人口減少により、水使用量が大幅に減っているので、十分な余裕があります。今後、企業立地課と連携して必要な水量を算定し、もし不足する場合は他の配水池からの供給ルートも検討していきます」

 ただし、詳細な検討はこれからであり、新たな課題が顕在化する可能性も否定できない。

問われる投資効果

新工業団地のイメージ(基本計画より)
新工業団地のイメージ(基本計画より)

 また、1000人の雇用が生まれれば単純計算で1000台の車が増えることになるわけで、国道49号などでは渋滞対策も求められる。積雪時の対応に加え、交差点の改良や周辺への信号機整備、道路拡幅なども検討する必要がある。

 工業団地整備の費用は、用地売却益や固定資産税収入などで長期的に回収していく計画だが、工業団地を整備することで投資に見合った効果が得られるのかも課題だ。

 市民からは「企業誘致の実績づくりに走るより、既存団地の再整備や地元企業支援に注力すべき」、「人口減少を食い止めるという意味では、若い女性が働きやすい企業にターゲットを絞って誘致すべきだ」、「雇用者を増やすというが、立地的に近くて地価が安い磐梯町の方が定住人口が増えるのではないか」という意見も聞かれる。この辺りは12月定例会議、さらには来年3月定例会議でも議論が続く見通しだ。

 かつて富士通城下町と呼ばれていた会津若松市。この間、富士通撤退後の地域経済をどう再構築していくかが問われ、室井市長はICT分野に注力しつつも、工業団地を整備して企業誘致を進める方針をインタビューなどで示してきた。新工業団地はどれだけの雇用と波及効果を生むのか。本誌としても期待を込めて今後の議論の行方を見守りつつ、継続的にリポートしていきたい。

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