昨年11月16日に投開票された福島市長選で初当選を果たした馬場雄基氏(33)。現職有利の前評判を覆した背景には「歴代」「県内」「都道府県庁所在地」と様々な分野で最年少記録を打ち立てたように「若さ」が要因に挙げられるが、もちろんそれだけで当選できたわけではない。
「誰も悪くない、悪いのは法律」メガソーラーに対する自身の考え
本誌が注目したのは、現職の木幡浩氏(65)を直接的に批判することなく市政の停滞感を知らしめた馬場氏の「話術」だ。
本誌が馬場氏を直接取材した際も木幡氏を悪く言うことは一切なかった。その一方で、年少・老年・生産年齢人口や財政悪化を数値で示し、市の現状を可視化しながら「このままの状態を放置して、あと4年待てますか?」と力説した。県との関係が良好ではなかったと言われる木幡氏を念頭に、例えば市民が補助金等の申請をする際に県と市に二重の手続きをしなくて済むよう、県との連携を強化し、市民が行政サービスをスムーズに受けられるようにすることも公約に掲げた。
すなわち、木幡氏のことは悪く言わないが「木幡市政の8年間で福島市はこうなってしまった。それなのに木幡氏にもう1期、市長をやらせていいんですか?」と市民に問いかける論法だ。
市長選の告示後には、こんな場面に出くわした。
昨年11月13日、福島市役所の隣の市民センターで、先達山のメガソーラーに反対する市民団体「先達山を注視する会」(以下、先注会と略)の報告会が開かれた。先注会は市長選に立候補した馬場氏、木幡氏、髙橋翔氏に「メガソーラーに対する考え方を聞きたい」と出席を打診。即座に応じたのは馬場氏で、木幡氏と髙橋氏からは返事がなかった。

先注会はこれまで開いてきた報告会にも県や市の担当者を招待してきたが、出席した人は誰もいない。扉はいつでも開けておくと「公的な立場の人」の出席を目指してきた先注会にとって、馬場氏は〝待ちに待った人〟だった。
ただ馬場氏からすると、先注会を前に発言することは、ともすればリスクを背負う。メガソーラーに明確に反対する先注会を前に「自分も反対だ」と言うのは簡単だが、事業者を批判し過ぎると、今度は事業者から「我々は法律を守っている」と抗議される恐れがある。ならば事業者にも配慮した発言をしてしまうと、今度は先注会から「あなたは賛成・反対、どっちなんだ」と不満が噴出する可能性がある。これまで「公的な立場の人」が出席してこなかったのは、メガソーラーに対する自身の考えを明確にしづらかったことがあったとみられる。
報告会が始まって1時間40分が経った頃、馬場氏が姿を現した。出席者の「一体何を語るのか」という視線が注がれる中、馬場氏は「先達山のメガソーラーに関しては極めて問題だと認識しています」としつつ、意外なことを話し始めた。
「私が感じたことを率直に申し上げます。もし間違っていたら違うと言ってください。私は、あの開発は止めようがなかった、止めたくても止まらなかったという認識を持っています。なぜなら、市の立場としても、県の立場としても、事業者・所有者の立場としても、みんな止めようがなかったと思うからです。現状において法律が変わっていないのだから、止めようがなかったんです」
誰も悪くない、悪いのは法律だと言うのだ。
「この問題の本質は、いかに法律改正に結び付けられるかだと思います。法律改正に向け、このまちと共にどれだけ本気で動き出せるかがカギです。国会議員時代、経産省、国交省、環境省、農水省の官僚に集まっていただき一度議論をしたが、その中で官僚から一つだけはっきり言われたことがあります。『福島市だけで何かやっても変えられませんよ』と。私は一つだけ、このまちに物申したいことがあります。それは、条例をつくっただけでは何も変わらないということです。条例では止まらないんです。実際、先達山は売電開始になりましたよね? そうなんです、止まらないんです。私は、今後大事なことは福島市の教訓をどれだけ法律改正に結び付けられるかだと思っています」
「ああいう乱開発で次の犠牲者が出ないようにすることが大切です。私、最初に言いましたよね? みんな悪くはなかった。ちょっとやり過ぎた面はあったかもしれないが、それが悪い方向に進み過ぎた結果、県都・福島はプライドを喪失したんです。未来において我々の生活が先達山の開発で傷つけられないように、土砂災害もそう、光害もそう、稼働終了後のパネルのリサイクルや撤去もそう。皆さん不安ですよね? 私は市と事業者がコミュニケーションをとり、市民の不安を分かち合えるチャネルをつくっていきたい。これが、先達山のメガソーラーに対する馬場雄基の考え方です」
先注会は一貫して事業主の姿勢を問題視しているが、県や市に対しても「行政として本来やるべきことをやっていない」と不作為を批判している。批判の根拠は情報開示請求によって入手した膨大な公文書に基づいているので、決して感情によるものではない。
そんな先注会が開いた報告会の場で「県も市も事業者も悪くない」と言い切り「悪いのは法律」とした馬場氏。これなら、県も市も事業者も傷つけることはないが、馬場氏の発言に不満を感じたかもしれない先注会や出席した市民に向けては「福島市民としてのプライドが傷つけられた」と郷土愛を揺さぶる言葉で支持を引き寄せた。会場は拍手喝采となり「馬場氏に市政を託してみたい」という空気が一気に広まった。
誰も批判せずとも「今の市政はダメ」と思わせた馬場氏の話術。恐るべし、である。
漢字を読めず照れ笑い

初登庁から2日後の12月10日、馬場氏は市議会12月定例会に臨み、所信表明演説を行った。
「現在、日本は東京一極集中が進み、地方から人と経済が流出する構造が続いています。地方が生き残るには、垣根を越えて力を結集し、地域として国に影響を与えられる存在になることが欠かせません。だからこそ、私が掲げる基本姿勢は『ともに前へ』です。誰か一人に頼るのではなく、市民一人ひとりの力の結集で、福島全体を強く、明るくしていく市政を目指していきたい」
12分にわたり淀みなく所信を述べた馬場氏。62ある傍聴席はほぼ満席で、訪れた市民は馬場氏の言葉に聞き入っていた。聴衆を引き付ける演説は相変わらず上手かったが、意外な面を見せたのはその後だった。
続いて議案の提案理由を説明した馬場氏は、何度も言葉を詰まらせたのだ。「法面」や「浚渫」の漢字が読めず、議員や幹部から助け舟をもらい「ありがとうございます」と照れ笑いを浮かべる場面もあった。演説が力強くスムーズだっただけに、ぎこちない話し方が余計に目立った。
自分の思いを伝える演説は得意とするが、役人がつくった原稿を読むのは苦手なようだ。官僚出身の木幡前市長は淀みなく提案理由を読み上げていたことを、ふと思い出した。

























