内堀雅雄知事(61)の任期が残り1年を切った。全国の首長がハラスメントやスキャンダルで世間を賑わす中、内堀知事は3期11年、堅実に県政を運営してきた。4期目については態度を明言していないが、現時点で有力な対抗馬はいない。このままいけば「可もなく不可もない」内堀県政がさらに4年続く可能性が高い。
政治・選挙資金収支報告書で見えた「表のカネ」の動き
「可もなく不可もない」は「良い点も悪い点も見当たらない普通」という意味だが、行政にとっては誉め言葉になるのかもしれない。
東日本大震災のような有事においては別だが、平時においては「普通を維持し続けること」が自治体の重要な仕事になる。地方自治が専門の公益財団法人地方自治総合研究所の今井照特任研究員は新著『自治体は何のためにあるのか』(岩波新書)の中で次のように書いている。
《私は自治体のミッションを、「今日と同じように明日も暮らし続けられることを市民に保障する」、と考えています。つまり、自治体は市民生活のディフェンダーであるべきなのです。得点を取るフォワードのほうが、一般的には華やかな存在です。自治体もそうであってほしいですが、まずは守備です。一点も取られてはならないのです》
ただ、内堀知事が就任したのは震災・原発事故から3年後の2014年だ。県土の復興というマイナスからスタートした内堀知事は、プラスに転じることを目指して得点を取らなければならない立場にあった。ならば内堀知事は、3期11年の間にフォワードとしてどんな得点を取ってきたのか。
最近では双葉町と浪江町にまたがるエリアに整備中の県復興祈念公園が4月に開園することが、12月定例県議会で内堀知事から発表された。福島国際研究教育機構(F-REI)や福島ロボットテストフィールドに代表される様々な復興関連施設も稼働する。Jヴィレッジはインターハイ男子サッカー競技の会場として固定され、東京2025デフリンピックのサッカー競技も行われるなど、周辺地域には経済的な恩恵ももたらされている。
思い付いたものを挙げたが、これらは全て浜通りの事案だ。浜通りと言えば、常磐自動車道の延伸や福島中央自動車道の全線開通も思い起こされる。「きちんと調べれば中通りも会津もある」「県産品や農産物の海外輸出が増えているじゃないか」とお叱りを受けそうだが、内堀知事の実績を挙げると、浜通りの事案ばかり思い浮かぶのは筆者だけではないだろう。かろうじて浮かぶのは、上下分離方式で県が資金を出しているJR只見線やチャーター便を飛ばす福島空港に外国人観光客が訪れていることくらいだろうか。
「最近の内堀知事は桃をかじったり、農産物を手に笑顔を振りまいたり、高校生や若手社会人と座談会をやったり、そういう場面しか見掛けないよね」
郡山市内の経済人は、そんな感想を口にする。
「パワハラで叩かれた兵庫県知事やセクハラで辞任した福井県知事と比べたら全然マシだけど」(同)
とも。
確かに、普段の内堀知事は絵になりにくい。全国には国政や時の首相に対し鋭い意見をぶつける知事もいるが、内堀知事は毎週開かれる定例会見で記者から世間の関心事について意見を求められても当たり障りのない答えに終始する。
今年度の定例会見を振り返るとこんな感じだ。
▽5月12日
――市民団体から福島市の先達山メガソーラー計画について、県の林地開発許可の取り消しを求める申出書が提出されたが。
「申し出があったという報告は受けています。今後、担当部局において申出書の内容を確認しながら対応を検討していきます」
原発事故を経験した福島県は全国トップの再エネ普及率を誇るが、自然破壊が問題視されるメガソーラーについて今後のあるべき姿を述べることはなかった。
心がこもっていない言葉
▽5月29日
――原子力損害賠償・廃炉等支援機構の更田豊志・廃炉総括監が我々マスコミとの懇談会で「2051年までの廃炉は無理。見直しをするんだ」と話していたが、知事はどう考えますか。
「廃炉への取り組みは、国が策定した中長期ロードマップに基づき2051年までの廃止措置終了を目標に作業が進められている。3月に福島県を訪問した石破首相も『現時点では一部に遅れはあるが、全体の工程に大きな支障は生じていない』と発言された。国と東電は廃炉の進捗や今後の取り組みなどについて、県民目線に立った分かり易い情報発信に努めてほしい」
燃料デブリの取り出しが一向に進まない中、更田氏の発言は中長期ロ
ードマップが破綻していることを端的に示している。ほとんどの県民も早い段階から「2051年までの廃炉は無理」と認識している。にもかかわらず、内堀知事は現実を直視しようとしない。いや、無理と分かっていながら、原発事故被災県の知事として「国と東電は中長期ロードマップを見直せ」と言わないのだ。
▽6月30日
――除染土の最終処分について、佐賀県の山口祥義知事が「国の責任において国全体で負担する取り組みをしていくということであれば、山口県としても検討しようと考えている」「福島以外の皆で分かち合うような仕掛けをつくった方がいい」と発言したという報道があったが。
「除去土壌の福島県外最終処分に向けては、国の責任において、国全体で負担する取り組みを進めるべきとの考えを示されたものと受け止めています」
これも廃炉同様、県外最終処分が期待できない中、せっかく他県の知事が助け舟を出してくれたのに、自身の率直な考えを述べることはしなかった。
▽8月4日
――小6・中3の全国学力テストの結果が公表され、福島県は全教科で全国平均を下回っていました。
「県教委には是非、福島県の子どもたちの学力向上にしっかり取り組んでほしいと話しています。学校現場が対応し易いような取り組みを個別に行い、全体としての学力向上につなげていただきたい」
もはや他人事。事態を深刻に捉えているなら、ここで言うべきは「知事をトップに学力向上を図り、〇年までに全国一を目指す」という決意ではなかったか。
▽10月27日
――宮城県知事選で村井嘉浩知事が6選を果たしたが、苦戦した要因の一つに多選への批判があったと思います。内堀知事は多選についてどう考えますか。
「知事という職務は県民の皆さんから重い負託を受けており、その重責を心の真ん中に置きながら、与えられた任期の中で一つひとつ着実に結果を出していくことが重要と考えています」
――任期の中でやり残したことがあった場合は多選もやむを得ない、ということでしょうか。
「それは宮城県知事選について言っておられるのでしょうか」
――内堀知事自身の考えとしてはどうなのでしょうか。
「今申し上げた通りです」
答えづらい質問には一貫して「今申し上げた通り」という答えでかわすのが内堀流だ。
▽11月26日
――新潟県の花角英世知事が柏崎刈羽原発の再稼働を容認すると表明しました。再稼働されれば福島の事故後、東電が動かす最初の原発になるが、率直な受け止めについて。
「原子力政策は国の責任において検討されるべきものです。福島県としては『二度とあのような過酷事故を起こしてはならない』という強い決意のもと、国が原子力政策を検討する、あるいは電力事業者が原発の稼働を進めていく際には、福島第一原発事故の現状と教訓を踏まえること、住民の安全・安心の確保を最優先にすべきことを、これまでも国と電力事業者に対し繰り返し申し上げてきました」
原発事故を唯一経験した福島県の知事として言えることはたくさんあるはずなのに、知事就任以来、この種の質問には一貫して同様の答えを繰り返すのみだ。
パフォーマンスが過ぎるのはご免だが、絵にならなすぎるのも見ていてつまらない。話す言葉に心がこもっているように感じられないのも残念だ。「自身の素直な気持ちを述べる内堀知事を見てみたい」と思うのは筆者だけだろうか。
内堀陣営の懐事情
内堀知事に関連する政治団体は二つある。「内堀雅雄政策懇話会」(代表・内堀雅雄氏。以下、政策懇話会と略)という資金管理団体と「内堀雅雄連合後援会」(代表・管野啓二氏=元JA福島五連会長。以下、連合後援会と略)という政治団体だ。どちらも福島市豊田町1―33に事務所を置き、佐藤栄佐久元知事の政務秘書だった堀切伸一氏が会計責任者を務める。
どちらの団体も、知事選にかかる資金の捻出と支出に深く関わっているが、知事選がある年以外は目立った活動をしていない。
別表①②は、県が公表している両団体の2023年の収支報告書をまとめたものだ。
表① 内堀雅雄政策懇話会の2023年の収支
収入総額 3077万円
前年からの繰越額 461万円
個人会費 755万円
内堀知事を励ます会 1821万円
総会 39万円
支出総額 1112万円
人件費 259万円
光熱水費 9万円
備品・消耗品費 166万円
事務所費 132万円
政治活動費 232万円
その他 311万円
翌年への繰越額 1964万円
表② 内堀雅雄連合後援会の2023年の収支
収入総額 547万円
前年からの繰越額 547万円
本年の収入額 0円
支出総額 118万円
人件費 60万円
備品・消耗品費 7万円
事務所費 33万円
政治活動費 17万円
翌年への繰越額 428万円
※政治資金収支報告書をもとに筆者作成。
表①②とも1万円未満を四捨五入しており各項目の金額を足しても総額とは合わない。
政策懇話会は、2023年に3077万円の収入があった。このうち755万円は会員からの会費で、151人から1人5万円を徴収している。8月には「内堀雅雄知事を励ます会」という政治資金パーティーを開いて1821万円、11月には総会を開いて39万円を得ている。
参考までに、2024年の収入は2816万円だった。2023年と同じく163人の会員から計815万円の会費を徴収したほか、10月に総会を開いて37万円を得ていた。この年、政治資金パーティーを開かなかったのは自民党派閥による政治資金問題が表面化し、政界全体にパーティー開催を控える動きが広がったことが影響したとみられる。
支出は主に事務所にかかる経費、政治資金パーティーや総会の開催にかかった会場費などだが、中身がよく分からない政治活動費として2023年は232万円、2024年は222万円が支出されていた。
政治活動費は分類すると組織対策費、渉外費、交際費となるが、収支報告書は「1件当たり5万円未満のもの」は詳細を記載しなくてもいいため、極端な話、4万9999円に抑えれば「見られては都合の悪い支出」を隠すことができる。収支の内訳に不透明さが残るうちは、政治資金規正法はいつまで経ってもザル法のままだろう。
連合後援会の収支報告書も見ておこう。
収入は2023年、2024年ともゼロ。連合後援会の過去の収入の動きを見ると、知事選がある年だけ政策懇話会から数百万円の寄付を得ており、それ以外の年は活動していない。
支出は主に事務所にかかる経費。中身がよく分からない政治活動費も政策懇話会に比べれば少額だが、2023年に17万円、2024年に8万円が支出されていた。
今年は秋に知事選が控える。来年公表される2026年の収支報告書を見れば、両団体とも活発な資金の動きが確認できるはずだ。
さらに過去の知事選を見ると、選挙資金の動きを見えづらくする狙いなのか、両団体とは別の政治団体を設立し、知事選が終わると解散させるのが常套手段になっている(詳細は本誌2024年1月号「選挙資金源をひた隠す内堀知事」参照)。前回の知事選(2022年)でつくったのは「チャレンジふくしま」という政治団体だったが、今回はどんな名称を用いて設立するのか。
最後に、前回(2022年)の知事選の選挙運動費用に触れる。県に情報開示請求を行って入手した内堀陣営の選挙運動費用収支報告書をもとに作成したのが別表③だ。

収入で最も大きいのが、前述したチャレンジふくしまからの寄付金1610万円だ。
一方、支出はポスターやチラシなどにかかる印刷費、ポスター貼りの手伝いや運動員などに支払われる人件費、県内数カ所に構える事務所の家屋費に多くが割かれている。
もっとも、政治資金も選挙資金も表に示したのは「表のカネ」で「裏のカネ」がいくら使われたかは分からない。
ある県議は内堀県政の課題を次のように指摘する。
「第3期復興・創生期間(2026~2030年)と事業規模(1・9兆円)が決まったのは喜ばしいことだが、その影響が及んでいるのは浜通りだけで、ほぼ恩恵がない会津にどう波及させるかが課題です。被災地の自治体が復興の名のもとに、同じような施設を整備しているのも問題です。内堀知事は『市町村がやることには口出ししない』という考えですが、今後は調整役として『この町には既にこういう施設があるから、隣の町に同じ施設をつくる必要はない』とアドバイスすることも求められると思う。震災前の人口に戻すのは不可能な中、このままでは利用頻度の上がらない施設が何個も林立することになってしまう」
「国に迫ることも必要」
内堀知事は、3期目が残り1年となったタイミングで記者から残された県政の課題を問われ「原子力災害に伴う困難の克服」と答えている。被災地を俯瞰し、復興に向けたグランドデザインを描くことも県の役割ではないのか。
「人材育成のための教育の充実も欠かせないし、障害の有る無しにかかわらない、ジェンダーレスな社会を築いていくことも大切です。官でやるのが難しければ、民で頑張っている組織・人を支援すればいい。内堀知事は『国の責任において』が口癖だが『福島県はこうしたいから、国にはこうやってほしい』と迫ることも必要だと思います」
内堀知事は昨年11月10日に開かれた定例会見で、記者から4期目についての考えを問われ「いただいた任期の中で複合災害からの復興と急激な人口減少に対応するため地方創生に力を注ぐ」と述べた。
一時は福島2区選出の玄葉光一郎衆院副議長が知事に意欲を持っているという話が広まったが、内堀知事が4期目について態度を明言していない中、「『私が内堀氏を知事選に担いだ』と自負する玄葉氏が内堀氏と直接対決する構図は想像しにくい」(前出・県議)。
このままいけば「可もなく不可もない」内堀県政がさらに4年続く可能性が高そうだ。

























