【二本松市】坂で止まる城報館レンタル電動キックボード

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【二本松市】坂で止まる城報館レンタル電動キックボード

 二本松市観光連盟(会長・三保恵一市長)が観光客向けにレンタルしている電動キックボードについて、「馬力不足で坂をのぼれない」と指摘する利用者の動画がツイッターで拡散され、話題を集めた。悪い意味で注目を集めた格好だが、同連盟では事前に走行試験などを行わなかったのだろうか。

試乗動画拡散で全国の笑いものに

【試乗動画拡散で全国の笑いものに】にほんまつ城報館
にほんまつ城報館

 電動キックボードのレンタルは3月31日から、市の歴史観光施設「にほんまつ城報館(以下、城報館と表記)」で行っている。観光名所や商店街、寺社仏閣を観光客に気軽に巡ってもらう狙いがある。市によると県内初の取り組みだという。電動アシスト付き自転車も併せてレンタルしている。

 立ったまま乗れるボードタイプ、自転車のような形状のバイクタイプがある。最高速度は時速30㌔で、利用する際は原動機付き自転車か普通自動車の運転免許が必要。料金は90分1000円。それ以降は30分ごとに500円加算される。

 レンタル開始時はテレビや新聞などで大々的に報じられ、地元テレビ局のユーチューブチャンネルには、女性アナウンサーが電動キックボードで坂道をすいすいのぼっていく動画が投稿された。

 ところが、7月2日、レンタル利用者によるこんな文章が動画付きでツイッターに投稿された。

 《二本松市の電動キックボード貸出事業。全くの企画倒れ。トルク不足でスタート地点の霞ヶ城の三ノ丸から本丸天守台までの坂をのぼれません。また本町商店街へ至る竹田坂や久保丁坂といった切り通し坂も途中で止まってしまいました。市はロードテストも行わず全く無駄なことをしましたね》

 城報館から霞ヶ城の天守台や街なかの商店街に向かおうとしたが、馬力不足のため途中の坂道で止まってしまい、身動きが取れなくなった、と指摘しているわけ。

 投稿者の佐藤守さん(43)は郡山市在住で大型自動二輪免許を保有し、バイクで通勤する〝バイク乗り〟。都内で見かけることが増えた電動キックボードに注目していたところ、地元テレビ局の紹介動画で城報館のレンタル事業を知り、走行性能の確認に訪れた。注目していたのは航続可能距離だが、実際に走行して馬力の低さに愕然としたという。

 ちなみに、レンタルされている電動キックボードは「BLAZE EV SCOOTER」という商品名で、定格出力は0・35㌔㍗。原付一種(0・6㌔㍗)の6割の馬力しかないと考えるとイメージしやすいかもしれない。

 佐藤さんの投稿は、73万回表示され、4725の「いいね」が付いた。それだけ関心を持つ人が多かったということだろう。佐藤さんは「行政が貸し出しているキックボードが坂をのぼれない動画は過去になかったので反響をいただいたのかもしれません」と分析したうえで、実際に走行した感想をこのように語る。

 「とにかく馬力不足で、公道を安全に走る能力が圧倒的に不足していると感じました。自動車など公道を走行する他の乗り物への影響は考えていたのか、事前のテスト走行は行わなかったのか。安全面においては▽目や耳が保護できない半帽ヘルメットを貸し出していたこと、▽転倒したときの負傷防止用グローブが貸し出されなかったこと、▽サイドスタンドを出した状態でも発進してしまうこと、▽自賠責保険証が携行されておらず、交通事故時の対応に不安が残ること、▽城報館駐車場で行う走行練習は接触リスクがあること――などが気になりました」

 佐藤さんの投稿の数日後、本誌記者も電動キックボードをレンタルし、実際に坂道で失速することを確認した(巻頭グラビア参照)

 利用者から上がる辛辣な意見を市観光連盟はどのように受け止めるのか。同連盟の事務局を担う同市観光課に尋ねたところ、河原隆課長は「取材の申し込みをいただき、職員に聞いてツイッターにそうした投稿があったことを知りました」と語り、次のように説明した。

 「『導入前に試験は行わなかったのか』と疑問視する投稿がありましたが、バイク乗りを含む市観光課職員10人弱で、安全性や航続可能距離を確かめる走行試験を事前に行っています。その際、女性職員は坂道でもすいすいのぼっていましたが、男性職員はスピードが遅くなり、利用者の体重によって大きな差が生じました。(佐藤守さんの)ツイートの指摘を見て、体重によってスピードに差が出るという説明が不足していたと感じたので、貸し出し時に渡す文書やホームページなどに注意書きを追加しました」

 体重によって坂道でスピードが出なくなることを把握していたのに、周知していなかった、と。

 河原課長によると、レンタル事業は職員からの提案で始まったもので、2022(令和4)年度当初予算で電動アシスト付き自転車6台、電動キックボード(ボードタイプ・バイクタイプ)計6台、ヘルメットなどの備品を購入した。総事業費は約300万円。車両は複数の候補から予算や走行性能の条件を満たすものを選定したという。

 一方で、安全面に関する指摘については「利用前に安全事項や保険に関する説明を行っているし、法律を満たす最低限の基準の装備はそろえています。それ以上の装備を求める場合は、ヘルメットやグローブなどの持ち込みをしていただいても構いません」(河原課長)と説明する。

 ただ、観光客がそうした装備をわざわざ持参することは考えにくい。「観光名所や商店街、寺社仏閣を観光客に気軽に巡ってもらう」という目的とも矛盾している。

6月の利用者は6人

【6月の利用者は6人】城報館でレンタルしている電動キックボード
城報館でレンタルしている電動キックボード

 電動キックボードに関しては、7月1日に改正道路交通法が施行されたことで、最高速度20㌔の車両の運転は免許不要となり、ヘルメットも努力義務となった。ただ、警察庁によると2022年に41件の人身事故が発生しており、7月には大学生が飲酒運転でタクシーに追突するなど、危険性が報じられている。タイヤの直径が小さい分、段差での衝撃が大きく、バランスを崩して事故につながりやすいという面もある。

 佐藤さんの指摘を参考に、より安全に走行できる装備を貸し出すべきではないか。

 肝心のレンタル電動キックボードの利用者数(ボードタイプ・バイクタイプの合計)を尋ねたところ、4月20人、5月9人と低迷しており、6月に至ってはわずか6人だった。

 河原課長はPR不足と城報館来場者の需要とのミスマッチを要因に挙げる。駅から離れた城報館にわざわざ公共交通機関で向かう観光客は少ないし、あえて城報館まで車で移動し、電動キックボードに乗り換えて市内を巡る人もいないということだ。
県内初の取り組みということもあり、甘い見通しのまま〝見切り発車〟してしまった感は否めない。

 昨年4月にオープンした城報館の年間入館者数は9万6796人で、目標としていた年間10万人を下回った。目標達成に向けて起爆剤が欲しいところだが、電動キックボードがそうなるとは考えにくい。

 前出・佐藤さんはこう語る。

 「(馬力不足の電動キックボードを買ってしまった以上)利用しなければどうしようもない。せめて地図で推奨ルートを示し、『この坂は体重〇㌔以上の方はのぼれません』など注意書きを表示しておけば、利用者も心構えができるのではないか」

 もっと言えば、城報館を起点に「電動キックボードで巡る観光ツアー」を催せば興味を持つ人が現れるかもしれない。

 このままでは、約300万円の事業費をドブに捨てることになる。佐藤さんの指摘を真摯に受け止め、改善策を打ち出すべきだ。

 

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