本誌昨年10月号に「郡山駅前東邦銀行跡地に風俗店建設」という記事を掲載したが、その後の関係者への取材で「興味深い事実」が浮かび上がってきたので続報する。
入札参加条件に〝違反〟し銀行跡地を風俗店に転売

「郡山駅前の東邦銀行跡地」とは同駅西口から徒歩5、6分の場所にある東邦銀行郡山大町支店の跡地を指す。跡地は、郡山市が施行者となって2005年から進められている大町土地区画整理事業の施行区域内にある。
跡地と書いたが、同所には昨年末の時点で3階建ての白い建物が完成している。その建物が、実はキャバレーだったことが判明し、関係者の間で物議を醸している。
というのも、一般的に銀行は風俗店に融資をしない。つまり、風俗店とは付き合わないはずの銀行の土地に風俗店が建設されたから、ナゼ?という声が噴き出しているのだ。
ちなみに、大町支店は郡山駅前支店に統括されたことに伴い2020年1月に閉鎖。その後、店舗は解体され、更地になっていた。
不動産登記簿からは、こんな事実も見えてくる。
支店跡地は2023年11月20日に、東邦銀行から郡山市の不動産業㈱大地物産に売却。それから1カ月も経たない12月15日に、大地物産から群馬県の飲食店経営会社に売却された。支店跡地に風俗店を建設したのは、この飲食店経営会社だ。
そんな支店跡地のすぐ近くでは長年風俗店が営業しているが(別掲の地図参照)、その経営者も同じ飲食店経営会社なのだ。
実は、同店舗は大町土地区画整理事業の一環で整備される都市計画道路「日の出通り線」の予定地内にあり、他の店舗が代替地などに移転していく中、今もとどまって営業している。つまり、同店舗も移転を迫られている中、飲食店経営会社が目を付けたのが、すぐそばにあった支店跡地だったわけ。
ただ先述の通り、飲食店経営会社が支店跡地を買った相手は、東邦銀行ではなく大地物産だ。
「東邦銀行は最初から風俗店に売るつもりだったが、直接売れないので、不動産業者を介在させて間接的に売ったのではないか」
県中地区の不動産業者は、そんな見立てを披露するが、昨年10月号の取材時、東邦銀行と大地物産は次のように答えていた。
「郡山大町支店跡地は公平・公正という当行の方針に則り入札で売却した。入札参加者は支店の裁量で広く募り、その結果、大地物産が落札者に決まった。同社が取得後にどうするつもりだったかは、経営判断なので当行では知る由もない」(東邦銀行本店総務部の担当者)
「風俗店は日の出通り線の予定地内で営業しているが、その土地がセットバックされれば日の出通り線が開通後も引き続き道路沿いで営業される可能性があり、施行者の市としてはできれば目立たない場所に移転してほしいと考えていた。そうした中で、当社は飲食店経営会社からどこか適地はないかと相談を受け、すぐ近くにあった東邦銀行大町支店跡地を入札で取得したのです」(大地物産の蛯原亜紀子専務)
蛯原専務によると、大地物産としては取得後、賃貸でもいいと考えていたが、飲食店経営会社が買収を希望したため売却したという。
「正直困惑している」

一見すると通常の土地取引に映るが、10月号発売後、入札の内情を知る人からこんな情報が届いた。
①入札は東邦銀行の関連会社である東邦土地建物㈱が行ったが、入札情報は同行に十分に伝わっていなかったとみられる。
②その証拠に、東邦銀行は支店跡地に風俗店が建設されることが分かると、東邦土地建物に激しく抗議したという話が伝わっている。
③入札では入札参加者に支店跡地の利用目的を書面で提出させ、不適切な利用を計画している場合は入札に参加できないことになっていた。
④つまり、最初から風俗店が建設されると分かっていたら東邦土地建物は大地物産を入札に参加させなかったが、結果は同社が落札者に決まった。
⑤一説には、日の出通り線の予定地でいつまでも風俗店が営業している状況に困った市が、東邦土地建物に協力を求め、東邦土地建物がすぐ近くにあった支店跡地を大地物産に落札させ、飲食店経営会社に風俗店の移転先として転売した――すなわち市、東邦土地建物、大地物産によるデキレースと話す人もいる。
⑥東邦土地建物が東邦銀行に十分な情報提供をしなかったのは、提供すると大地物産が入札参加者から外され、困っていた市に協力できなくなるためだった。
一通り聞いて、なるほどと思える部分もあるが、肝心の「東邦土地建物が市に便宜を図らなければならない理由」は判然としない。
ただ大地物産と東邦銀行をめぐっては、大地物産が2019年に郡山駅東側のパチンコ店跡地を取得した際、東邦銀行が20億円を融資するなど大口の取引関係にある。
さて、疑惑の震源のような言われ方をしている東邦土地建物は何と答えるのか。担当者が電話で取材に応じた。
――入札参加者からは支店跡地の利用目的を書面で提出させた?
「その通りです」
――落札者の大地物産は何に使うと書いていたのか。
「入札参加者に関する情報を第三者に教えることはできない。ただ、他社が『一般的な利用目的』を記載する中、大地物産もそれらと大差ない利用目的を記載していた」
――風俗店とは書いていなかったということか。
「一般的な利用目的でした」
――しかし、結果は風俗店が建設された。
「実は、風俗店が建設されたことは政経東北を読んで初めて知った。当社としては正直困惑している」
――最初から風俗店が建設されると分かっていたら売却しなかった?
「銀行は自行名義の土地を売却する際、購入者が何に使うか慎重に検討する。最初から風俗店と分かっていたら売却しなかったと思う」
――入札参加条件に反しているので契約は白紙、とはならないのか。
「もう既に売却し、建物も建っているので今更言っても……」
――東邦土地建物が(支店跡地に風俗店が建設されたことについて)東邦銀行から激しく抗議されたと聞いているが事実か。
「どこから聞いた話か分かりませんが、当社は入札情報は全て東邦銀行に公開し、共有もしている」
大地物産の蛯原専務には、東邦土地建物が「最初から風俗店が建設されると分かっていたら売却しなかった」と述べていることをメールで伝え、あらためて取材を申し込んだが一切返答はなかった。
大規模開発を専門とする不動産業者によると「大手との土地取引では風俗店やパチンコ店の用地として使ったり、反社の関与が判明した場合は契約を解除され、10~20%の違約金を請求される」という。
「東邦銀行は、風俗店と付き合わないというなら毅然と対応すべきだし、大地物産にも説明を求めるべきだ。『大口取引先ならウソをついても目をつぶるのか』と思っている人は当然いますからね」(同)
コンプライアンスを重視する銀行の土地だけに、厳しい目を向ける人は少なくないようだ。