【北野進】「次の大地震に備えて廃炉を」

「次の大地震に備えて廃炉を」警鐘鳴らす能登の反原発リーダー【北野進さん】

 1・1能登半島地震の震源地である石川県珠洲市にはかつて原発の建設計画があった。非常に恐ろしい話である。今回の大地震は日本列島全体が原子力災害のリスクにさらされていることをあらためて突きつけた。珠洲原発反対運動のリーダーの一人、北野進さんにインタビューした。 ジャーナリスト・牧内昇平

警鐘鳴らす能登の反原発リーダー

北野進さん=1959年、珠洲郡内浦町(現・能登町)生まれ。筑波大学を卒業後、民間企業に就職したが、有機農業を始めるために脱サラして地元に戻った。1989年、原発反対を掲げて珠洲市長選に立候補するも落選。91年から石川県議会議員を3期務め、珠洲原発建設を阻止し続けた。「志賀原発を廃炉に!」訴訟の原告団長を務める。

 ――ご自身の被災や珠洲の状況を教えてください。

 「元日は午後から親族と会うために金沢市方面へ出かけており、能登半島を出たかほく市のショッピングセンターで休憩中に大きな揺れを感じました。すぐ停電になり、屋外に誘導された頃に大津波警報が出て、今度は屋上へ避難しました。そのまま金沢の親戚宅に避難しました。

 自宅のある珠洲市に戻ったのは1月5日です。金沢から珠洲まで普段なら片道2時間ですが、行きは6時間、帰りは7時間かかりました。道路のあちこちに陥没や亀裂、隆起があり、渋滞が発生していました。自宅は内陸部で津波被害はなく、家の戸がはずれたり屋根瓦が落ちたりという程度の被害でしたが、周りには倒壊した家もたくさんありました。停電や断水が続くため、貴重品や衣類だけ持ち出して金沢に戻りました。今も金沢で避難生活を続けています」

 ――志賀原発のことも気になったと思います。

 「志賀町で震度7と知った時は衝撃が走りました。原発の立地町で震度7を観測したのは初めてだと思います。志賀原発1・2号機は2011年3月以来止まっているものの、プールに保管している使用済み核燃料は大丈夫なのかと。残念ながら北陸電力は信用できません。今回の事故対応でも訂正が続いています」

 ――2号機の変圧器から漏れた油の量が最初は「3500㍑」だったのが後日「2万㍑」に訂正。その油が海に漏れ出てしまっていたことも後日分かりました。取水槽の水位計は「変化はない」と言っていたのに、後になって「3㍍上昇していた」と。津波が到達していたということですよね。

 「悪い方向に訂正されることが続いています。そもそも北電は1999年に起きた臨界事故を公表せず、2007年まで約8年間隠していました。今回の事態で北電の危機管理能力にあらためて疑問符がついたということだと思います。

 これは石川県も同じです。県の災害対策本部は毎日会議を開いています。しかし会議資料はライフラインの復旧状況ばかり。志賀原発の情報が全然入っていません。たとえば原発敷地外のモニタリングポスト(全部で116カ所)のうち最大で18カ所が使用不能になりました。住民避難の判断材料を得られない深刻な事態です。

 私の記憶が正しければ、メディアに対してこの件の情報源になったのは原子力規制庁でした。でも、モニタリングポストは地元自治体が責任を持つべきものです。石川県からこの件の詳しい情報発信がないのは異常です。県が原発をタブー視している。当事者意識が全くありません。放射線量をしっかり測定しなければいけないという福島の教訓が生かされていないのは非常に残念です」

能登半島の地震と原発関連の動き

1967年北陸電力、能登原発(現在の志賀原発)の計画を公表
1975年珠洲市議会、国に原発誘致の要望書を提出
1976年関西電力、珠洲原発の構想を発表(北電、中部電力と共同で)
1989年珠洲市長選、北野氏らが立候補。原発反対票が推進票を上回る
関電による珠洲原発の立地調査が住民の反対で中断
1993年志賀原発1号機が営業運転開始
2003年3電力会社が珠洲原発計画を断念
2006年志賀原発2号機が営業運転開始
2007年志賀原発1号機の臨界事故隠しが発覚(事故は99年)
3月25日、地震発生(最大震度6強)
2011年3月11日、東日本大震災が発生(志賀1・2号機は運転停止中)
2012年「志賀原発を廃炉に!」訴訟が始まる
2021年9月16日、地震発生(最大震度5弱)
2022年6月19日、地震発生(最大震度6弱)
2023年5月5日、地震発生(最大震度6強)
2024年1月1日、地震発生(最大震度7)
※北野氏の著書などを基に筆者作成


 ――もしも珠洲に原発が立っていたらどうなっていたと思いますか?

 「福島以上に悲惨な原発災害になっていたでしょう。最大だった午後4時10分の地震の震源は珠洲原発の建設が予定されていた高屋地区のすぐそばでした。原発が立っていたら、その裏山に当たるような場所です。また、高屋を含む能登半島の北側は広い範囲で沿岸部の地盤が隆起しました。原子炉を冷却するための海水が取り込めなくなっていたことでしょう。ちなみにこの隆起は志賀原発からわずか数㌔の地点まで確認されています。本当に恐ろしい話です」

 ――珠洲に原発があったら原子炉や使用済み燃料プールが冷やせず、メルトダウンが起きていたと?

 「そうです。そしていったんシビアアクシデントが起きた場合、住民の被害はさらに大きかったと思います。避難が困難だからです。奥能登の道路は壊滅状態になりました。港も隆起や津波の被害で使えません。能登半島の志賀原発以北には約7万人が暮らしています。多くの人が避難できなかったと思います。原子力災害対策指針には『5㌔から30㌔圏内は屋内退避』と書いてありますが、奥能登ではそもそも家屋が倒壊しており、ひびが入った壁や割れた窓では放射線防護効果が期待できません。また、停電や断水が続いているのに家の中にこもり続けるのは無理です。住民は避難できず、屋内退避もできず、ひたすら被ばくを強いられる最悪の事態になっていたと思います」

能登周辺は「活断層の巣」

 ――では、志賀原発が運転中だったら、どうなっていたでしょう?

 「志賀原発に関しても、運転中だったらリスクは今よりも格段に高かったと思います。原子炉そのものを制御できるか。核反応を抑えるための制御棒がうまく入るか、抜け落ちないか。そういう問題が出てきます。事故が起きた時の避難の難しさは珠洲の場合とほぼ同じです」

 ――今のところ、辛うじて深刻な原子力災害を免れたという印象です。

 「とにかく一番心配なのは、今回の大地震が打ち止めなのかということです。今回これだけ大きな断層が動いたのだから、他の断層にもひずみを与えているんじゃないかと。次なる大地震のカウントダウンがもう始まっているんじゃないのかっていうのが、一番怖い。能登半島周辺は陸も海も活断層だらけ。いわば『活断層の巣』ができあがっています。半島の付け根にある邑知潟断層帯とか、金沢市内を走る森本・富樫断層帯とか。次はもっと原発に近い活断層が動く可能性もあります。能登の住民の一人として、『今回が最後であってほしい』という気持ちはあります。しかし、やっぱり警戒しなければいけません。そういう意味でも、志賀原発の再稼働なんて尚更とんでもないということです」

 ――あらためて志賀原発について教えてください。現在は運転を停止していますが、2号機について北陸電力は早期の再稼働を目指しています。昨年11月には経団連の十倉雅和会長が視察し、「一刻も早く再稼働できるよう願っている」と発言しました。再稼働に向けた地ならしが着々と行われてきた印象です。

 「運転を停止している間、原子力規制委員会が安全性の審査を行っています。ポイントは能登半島にひしめいている断層の評価です。志賀原発の敷地内外にどんな断層があるのか、これらが今後地震を引き起こす活断層かどうかが重要になります。経緯は省きますが、北電は『敷地直下の断層は活断層ではない』と主張していて、規制委員会は昨年3月、北電の主張を『妥当』と判断しました。それ以降は原発の敷地周辺の断層の評価を進めていたところでした。

 当然ですが、今回の地震は規制委員会の審査に大きな影響をおよぼすでしょう。北電はこれまで、能登半島北方沖の断層帯の長さを96㌔と想定していました。ところが今回の地震では、約150㌔の長さで断層が動いたのではないかと指摘されています。まだ詳しいことは分かりませんが、想定以上の断層の連動があったわけです。未確認の断層があるかもしれません。規制委員会の山中伸介委員長も『相当な年数がかかる』と言っています」

 ――北野さんは志賀原発の運転差し止めを求める住民訴訟の原告団長を務めていますね。裁判にはどのような影響がありますか。

 「2012年に提訴し、金沢地裁ではこれまでに41回の口頭弁論が行われました。裁判についてもフェーズが全く変わったと思います。断層の問題と共に私たちが主張するもう一つの柱は、先ほどの避難計画についてです。今の避難計画の前提が根底からひっくり返ってしまいました。国も規制委員会も原子力災害対策指針を見直さざるを得ないと思います。この点については志賀に限らず、全国の原発に共通します。僕たちも裁判の中で力を入れて取り組みます」

これでも原発を動かし続けるのか?

 石川県の発表によると、1月21日午後の時点で死者は232人。避難者は約1万5000人。亡くなった方々の冥福を祈る。折悪く寒さの厳しい季節だ。避難所などで健康を損なう人がこれ以上増えないことを願う。

 能登では数年前から群発地震が続いてきた。今回の地震もそれらと関係することが想定されており、北野さんが話す通り、「これで打ち止めなのか?」という不安は当然残る。

 今できることは何か。被災者のケアや災害からの復旧は当然だ。もう一つ大事なのが、原発との決別ではないか。今回の地震でも身に染みたはずだ。原発は常に深刻なリスクを抱えており、そのリスクを地域住民に負わせるのはおかしい。

 それなのに、政府や電力会社は原発に固執している。齋藤健経産相は地震から10日後の記者会見で「再稼働を進める方針は変わらない」と言った。その1週間後、関西電力は美浜原発3号機の原子炉を起動させた。2月半ばから本格運転を再開する予定だという。

 これでいいのか? 能登で志賀原発の暴走を心配する人たちや、福島で十年以上苦しんできた人たちに顔向けできるのか?

 福島の人たちは「自分たちのような思いは二度とさせたくない」と願っているはずだ。事故のリスクを減らすには原発を止めるのが一番だ。これ以上原発を動かし続けることは福島の人びとへの侮辱だと筆者は考える。

 内堀雅雄知事が県内原発の廃炉方針に満足し、全国の他の原発については何も言わないのも理解できない。

 まきうち・しょうへい 42歳。東京大学教育学部卒。元朝日新聞経済部記者。フリー記者として福島を拠点に活動。

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